【連載】ウクライナ戦争と分断される世界(大西広)

第2回 軍事のアメリカ、経済の中国

大西 広

・「南」に広がる中国の「一帯一路」

このように考えてくると、改めて「一色世界」の外に広がる広大な地帯が気になるが、実のところ、中国がいつも気にしているのはこの地である。日本では「国際社会とともに」という時、それは11億の西側世界しか指してはいないが、中国はそうではなく64億の地域のことを指して常に「国際社会」と言っている。

あまり人々が気づかずにいるものの、最近の中国の外交的発言・文書にはこのところかなり頻繁にこの言葉が登場するようになっており、それが実態としてより鮮明に登場することとなったのが今回のウクライナ戦争なのである。このことは前稿の図1と図2で詳しく論じた。

が、それとともに確認しておきたいのは、ここがちょうど「非同盟諸国運動」の地と重なっていることである。次の図2のうち、今回、ロシアはドンバスの「2国」との軍事同盟に基づいて出兵しているのでもはや「非同盟諸国」とはカウントできないが、それらの諸国がちょうど前稿図1の「対ロシア制裁不参加国」と対応しているからである。つまり、「一色化していないその他の地域」とは、要するに「非同盟諸国」なのであって、「南」の地帯なのである。

したがって、ここではこの「同盟」というもの、より正確には「軍事同盟」というものの問題点を指摘することとしたい。今回の戦争も、一方ではウクライナがNATOに入ろうとすることによって紛争が起こされ、ロシアの侵攻もドンバスの「2国」との軍事同盟によって正当化されているからである。「軍事同盟」が安全を保障するのではなく、「軍事同盟」こそが戦争を招いたからである。

図2 非同盟諸国会議参加国の分布(青色は非同盟諸国会議参加国、淡い青色はオブザーバー参加国、Wikipedia「非同盟諸国会議」より。)

 

実際、思うのであるが、世に戦争をしたくてたまらない国とそうでない国があった場合、前者はその軍事同盟で大いなる利益を得、後者はひどい目に逢う。前者はこの同盟によって戦争がしやすくなり(戦争をしても同盟国がついてきてくれる)、後者は戦争に巻き込まれるからである。日本で日米安保が危険だと言っているのはこのためである。

それからもうひとつ、この軍事同盟で思うことは、それが国連加盟諸国の怠慢によって合法化され続けていることである。というのは、国連は本来、諸国の勝手な侵略行動を阻止するために「国連軍」を創設するはずなのであるが、その創設にいたるまでの間は諸国が勝手に「集団的安全保障」ができることとしていて、そのために勝手な軍事同盟を作ることを許容しているからである。

非同盟の「南」の諸国から見れば、それは怠慢に見える。今回の事態を見て「国連改革が必要」との意見も散見されるが、最も必要なのはこの改革だと考えるのである。

・この呪縛からどう解き放たれるべきか

ともかく、こうして「西側」が「一色化」の呪縛に囚われている(同様にベラルーシやドンバスの「2国」も囚われている)状況がどう突破されうるか、ということを考えないわけにはいかない。そして、それへの私の考えは、これによる「一色化」によってアメリカの支配下に入らされている諸国民の自国政府への闘いが鍵だというものである。

たとえば、西側の中でアメリカに次いでもっとも強硬な立場をとるイギリスの新首相トラス女史がどこまで政権を続けられるかが問われると考える。イギリス保守党の党首選では選ばれる力があっても、西側の「一色」路線を国民がどこまで支持し続けるか、である。

実際、ヨーロッパの「親米同盟国」が可哀そうだと思うことのひとつは、あれだけの努力でノルドストリームを作り、よって石油や天然ガスをロシアにここまで依存しながら「経済制裁」を「西側」たる証として求められていることである。

石油や天然ガスの価格は何倍にも上がり、生活苦が広まっている。ドイツ国民などは相当に困っている。アメリカはシェール・ガスなども含めほとんど自給できているので構わないが、ヨーロッパの諸国はたまらない。ここでもしどこかの国が「いち抜けた」と言ってきたらどうなるのか。そういう問題であると私は考えている。

それからもうひとつ、もうひとつの「一色」の地域、我々の北東アジアでも現状を突破する外交的な道がないわけではない。北東アジアの緊張を形成している北朝鮮の政権は、これもまた「冷戦構造」の国内版たるべく軍事的緊張関係を国民統治の重要な柱としているが、もしそれ以外に「国民統治」ができるならば、北朝鮮の姿勢を変えることもできるだろうからである。

たとえば、どうせアメリカに経済制裁されているからと中露が一斉に北朝鮮への経済制裁を解き、よって北朝鮮当局に「経済の安定で国民統治をする」という道を示すことができれば違ってくるだろう、との意見である。ちなみに、これも中国が得意とする「経済的手段」による解決である。

今回のウクライナ危機自体はもちろん軍事的なものであるが、そうだからこそ「経済」という異なる手段の有効性、そしてそれを使って中国が広大な地域に進出しているという事実に注目してみることも重要ではないだろうか。ご検討を願いたい。

 

[1] アメリカは戦争に先立ってウクライナには「NATOに入れてやる」といい、ロシアには「ウクライナにアメリカは介入しない」と言った。これは双方に戦争をけしかけているようなものである。少なくとも双方が戦争を回避しようとすることを邪魔した。その趣旨から今回の戦争を「アメリカによる戦争」と理解する筋は少なくない。軍事的緊張関係をアメリカが利益とする限り、ありうる理解である。

関連資料:ウクライナ戦争と分断される世界(大西広・慶應義塾大学名誉教授、木村朗ISF独立言論フォーラム編集長)

 

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大西 広 大西 広

1956年京都府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修了。立命館大学経済学部助教授、京都大学経済学研究科助教授、教授、慶應義塾大学経済学部教授を経て、現在、京都大学・慶應義塾大学名誉教授。経済学博士。数理マルクス経済学を主な研究テーマとしつつ、中国の少数民族問題、政治システムなども研究。主な著書・編著に、『資本主義以前の「社会主義」と資本主義後の社会主義』大月書店、『中国の少数民族問題と経済格差』京都大学学術出版会、『マルクス経済学(第3版)』慶應義塾大学出版会、『マルクス派数理政治経済学』慶應義塾大学出版会などがある。

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