【連載】ウクライナ戦争と分断される世界(大西広)

第2回 軍事のアメリカ、経済の中国

大西 広

・「一色」に塗りつぶす論理=「冷戦システム」とは何か

前稿では世界が2つに分断されていること、その2つとは①「一色化」した地域と②そうでない地域であることを述べたが、それぞれの論理は何かを明らかとしなければならない。本稿はその問題をまず扱う。

それでまず、そのために見ていただきたいのは、中ソ論争が始まる前の状況を示した次の図1である。当時の北東アジアの構造を描いたものであるが、これによって明確に「冷戦構造とは何か」がはっきりする。

図1 冷戦前期の北東アジアの国際関係

 

というのはこういうことである。朝鮮半島の分断ラインでは南から戦車と大砲とミサイルが北を向いて並んでいる。そして、この状況の下では、北朝鮮はソ連や中国と固い同盟関係を結ばざるを得ない。

また、もちろん、これと同様、この状況を南から見ると、この時、北朝鮮が分断ラインの北側から戦車と大砲とミサイルを南に向けてずらりと並べているから韓国の側もアメリカや日本との同盟関係を結ばざるを得ない。つまり、こうしてこの地域の両側がそれぞれ完全に一色となる。これが「冷戦システム」であったのである。

ただし、ここで重要なのは、この論理であって、ここで言う「米ソ」以外の諸国が「自主的」に米ソそれぞれに従属していたということである。過去のパックス・ブリタニカの時代には、ほとんどすべての「南」の諸国が植民地状態におかれ、彼らが自主的に外交方針を決めることはできなかった。

が、戦後、特に1960年代以降には途上国も基本的には独立し、彼らがそれぞれ「自主的」に外交方針を決められるようになった。が、もしそうだとしても米ソのどちらかに従属するしかなかった。そして、その時には「米ソ覇権」が成立した。

この時代を「パックス・アメリカーナ」と呼ぶのではなく、「バックス・ルッソ・アメリカーナ」と呼ぶ際の理屈はこのようなものである。こうして米ソがそれぞれ世界の半分を支配することができたのである。

・軍事の米露、経済の中国

要するに、今回はこのような状態がバイデン政権によってヨーロッパに埋め込まれ、ロシア、ベラルーシ、ドンバスの「2国」がロシア側で「一色」となり、それ以外のヨーロッパ諸国が西側として「一色」となったのであるが、ここで再確認しておく必要があるのは、このようにできたのは、軍事的緊張関係がこの地に埋め込まれたからである。

それなので、前稿のようにアメリカが今回、フィンランドとスウェーデンを「獲得」し、ロシアがベラルーシとドンバスの「2国」を「獲得」できたのは、この軍事的緊張関係が形成できたからである。つまり、要するに、米露はともにこうした軍事的緊張関係で利益を得る国となっていることが重要なのである。なお、ここで今回の事態が「軍事的緊張関係」にとどまらず、「軍事」そのものだと考えられる読者にはひと言、付言しておきたい。

ここでの「冷戦構造」というのは、冷戦の当事者同士が熱戦に至らないことを言うのであって、どちらかの当事者(この場合はロシア)が戦争をしないことを言うのではない。それは、ベトナム戦争や朝鮮戦争もが十分「冷戦構造」の要素としてカウントできることによって示されている。「冷戦」とはそうしたタイプの「熱戦」をも包含した概念なのである。

ので、今回のウクライナ戦争もそうした目的で米露が突入したのであれば[1]、これを「構造」として維持するために低強度ではあっても緊張関係を持続させようとするだろう。そして、そのために「停戦」をも邪魔しようとすることは十分にありうる。戦争の初期からアメリカが停戦を邪魔してきたのはそうした目的のためであると考えることができる。

したがって、米露はともに軍事的な緊張関係をもって自国の利益としているが、これは中国と対照的である。もちろん、中国には「台湾」という重要問題があって軍事を無視するわけにはいかないが、世に言われる「中国の軍拡」もGDP成長率以下のスピードでしか進んでいない。

GDPが伸びるので軍事もそれに連れられて強化されているのであって、軍事費のGDP比率の低下はそれが中国の重点ではなく、やはり「経済」であることがわかる。前稿でも述べたが「一色」となった西側世界の外側こそが中国が勝負をしている土地であって、そこへの進出は明らかに「経済重視」である。「一帯一路」はそのスローガンである。

このことをより明確化するために、前稿でも述べた韓国政治の動向を再論したい。韓国は日本以上の「輸出立国」であるが、その輸出先は圧倒的に中国である。日本のGDPの1/3程度しかない韓国の対中輸出金額は日本より大きいのだからその依存度はものすごい。ので、韓国にとって「経済」として重要なのは中国であるが、北朝鮮との軍事的緊張関係が緊迫化するとアメリカが重要となる。

韓国政治が、軍事が重要となった時に「親米化」し、平和になった時に「親中化」するのはこのためである。アメリカが軍事的緊張関係を好み、埋め込むことに一生懸命となるのはそのためである。

 

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大西 広 大西 広

1956年京都府生まれ。京都大学大学院経済学研究科修了。立命館大学経済学部助教授、京都大学経済学研究科助教授、教授、慶應義塾大学経済学部教授を経て、現在、京都大学・慶應義塾大学名誉教授。経済学博士。数理マルクス経済学を主な研究テーマとしつつ、中国の少数民族問題、政治システムなども研究。主な著書・編著に、『資本主義以前の「社会主義」と資本主義後の社会主義』大月書店、『中国の少数民族問題と経済格差』京都大学学術出版会、『マルクス経済学(第3版)』慶應義塾大学出版会、『マルクス派数理政治経済学』慶應義塾大学出版会などがある。

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