民意は台湾統一防ぐ万能薬か、「法統」から独立封じる中国

岡田充

・国民党独裁否定できない蔡政権

観念的議論が多く、退屈だったかもしれない。台湾自身を縛る「法統」の具体例を挙げよう。蔡は2016年5月20日に総統就任式に臨んだ。彼女は「中華民国国歌」を声を上げて唱和した。「三民主義をわが党の宗とする」で始まる「国歌」は、もともとは国民党歌だ。だから民進党員の多くは斉唱を拒否してきたのだ。

「三民主義」とは、国民党を作った孫文が主唱した社会主義的スローガンだ。総統府で行われた就任式(写真:2016年の就任式 総統府HP)には、孫文の肖像画に向かって総統は手を挙げ宣誓しなければならない。

 

「中華民国国旗」の左上の太陽に似たロゴは、もともとは国民党の党章だ。これは何を説明するのか。「中華民国」は国民党の一党独裁下の「法統」に基づくシステムで作られた。李登輝時代に「民主化し台湾化」した台湾だが、民主化から30年以上経た今も、「一つの中国」を前提にした憲法と、国民党一党独裁時代の「法統」は生き続け否定できないのだ。

台湾の民主化とIT技術をバネにした経済発展は、世界で孤立を深めた台湾の地位を向上させた。中国が国力を増強させるのと比例するかのように、日本では対中脅威論が翼賛世論化した。「中国に親しみを感じない」が約8割に上る(注12) 一方、台湾に「親しみを感じる」割合は75・9%とアジアではトップ(注13)になった。

その理由は「日本に友好的」「自由・民主主義などの価値観を有している」など、台湾民主化が好感度を押し上げていることが分かる。中国の大国化に台湾の政権交代、米中対立の激化の三要因が、米日の対中関係正常化を中心とする「1972年体制」を大きく動揺させていると見る台湾研究者(注14)もいる。

しかし、これまで検証してきたように、「民意」と矛盾する「法統」を拒否できない台湾の現状も知っておくべきだ。台湾がそれを変えられる展望は当面ないだろう。中国が主張する「統一の法理」を頭から排除することもできないのである。(了)

注1 習近平党活動報告(2022年10月16日 新華社)
(受权发布)习近平:高举中国特色社会主义伟大旗帜 为全面建设社会主义现代化国家而团结奋斗——在中国共产党第二十次全国代表大会上的报告-新华网 (news.cn)
注2 台湾TBVS新聞網(2022年10月16日)
習近平重申反台獨!蘇貞昌嗆:台灣人自己當家作主│中共20大│蔡英文│台海局勢│TVBS新聞網
注3 「台湾問題と新時代の中国再統一事業」に関する白書(2022年8月10日 国務院新聞弁公室)
https://www.guancha.cn/politics/2022_08_10_653104_s.shtml
注4 「中華民国憲法」
https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/cat/15.html)
注5 蔡英文演説(10 October, 2020 台湾中央広播電台)
双十国慶節演説、蔡・総統「主権と民主を堅持、両岸関係の安定を維持」 – ニュース – Rti 台湾国際放送
注6 「中華民国台湾」(2021/03/21 中華民国外交部HP)
中華民國是一個主權獨立的民主國家,只有台灣人民有權決定台灣的未來 (mofa.gov.tw)
注7 「台湾の蔡総統、『われわれはすでに独立国家』 中国に警告(2020年1月15日 AFP通信)
https://www.afpbb.com/articles/-/3263571
注8 台湾民衆の台湾人、中国人認識の趨勢(2022年7月 国立政治大学選挙研究中心HP)
國立政治大學選舉研究中心-臺灣民眾臺灣人/中國人認同趨勢分佈 (nccu.edu.tw)
注9 岡田充「バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言」(Sep. 27, 2022  Business Insider Japan)
「バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言。それでも「なぜか」中国と台湾が静かな理由 | Business Insider Japan
注10 国家安全保障戦略2022(2022年10月 whitehouseHP)
Biden-Harris Administration’s National Security Strategy.pdf (whitehouse.gov)
注11 「台湾民衆の統一、独立に関する趨勢」(2022年7月 国立政治大学HP)
(國立政治大學選舉研究中心-臺灣民眾統獨立場趨勢分佈 (nccu.edu.tw)
注12 内閣府外交世論調査(2022年1月)
外交に関する世論調査 2 調査結果の概要 1 – 内閣府 (gov-online.go.jp)
注13 「約8割が『台湾に親しみ』日本人意識調査」(2022年01月20日 時事通信)
約8割が「台湾に親しみ」 日本人意識調査、「友好的」「民主主義」で信頼:時事ドットコム (jiji.com)
注14 福田円「『台湾海峡の平和と安定』をめぐる米中台関係と日本――動揺する『1972年体制の含意』」(「外交」=Vol74 Jul/Aug)88頁下段

この記事は、「海峡両岸論No.144」(2022年11月7日)からの転載です。
原文は、コチラ→海峡両岸論NO.144 民意は台湾統一防ぐ万能薬か 「法統」から独立封じる中国 

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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