【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

すでに進んだ日本の『戦時体制』―法律からみた安倍・菅・岸田の戦争準備―

足立昌勝

2月24日にロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を開始して以来、その影響は両国にとどまらず、アメリカをはじめとするNATO(北大西洋条約機構)陣営のウクライナへの軍事援助や、ロシアやベラルーシに対する経済制裁へと発展した。

この事態は、アメリカとともにウクライナ支援を行なう日本にも影響を与えている。岸田文雄首相はアメリカ支持の姿勢を貫き、NATOに急接近した。岸田首相による“戦争への道”の選択であり、戦争準備の遂行である。

 

そもそも戦争への道を構築し始めたのは安倍晋三内閣であり、その番頭を務めて首相となった菅義偉、その後の岸田文雄の各内閣が、それを継承している。

戦争への道=戦争準備にとって必要なことは、
①仮想敵国と交戦できる軍隊を持つことと「戦争法」の制定
②世論を協力させるための情報操作=国家秘密の保護
③反対者を一網打尽にする体制づくり=共謀罪の制定
である。

それらはすでに成立しており、“戦争への道”はすでに開かれている。われわれはそのことに気づき、旧統一教会問題によって政権が揺らいでいるいまこそ、平和への軌道修正を急がねばならない。

・戦争法と憲法九条

「戦争法」は、2016年9月に強行採決された重要影響事態法と武力攻撃事態法を骨子としている。そのうち、従来の「周辺事態」を「重要影響事態」に衣替えしたのが重要影響事態法だ。

「周辺事態」とは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」とされていたが、重要影響事態法では、この条文から「我が国周辺の地域における」との地理的限定を削除した。

日本に及んでくる脅威はすべて、「重要影響事態」とされたのだ。

すなわち、自衛隊は「重要影響事態」があれば、世界中のどこにでも行き、行動しなければならない。

A news headline that says “Security” in Japanese

 

かつての周辺事態法のもとでは、自衛隊が行動できるのは、「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(武力攻撃事態)」と「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態(武力攻撃予測事態)」とされていた。

これに対して武力攻撃事態法は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)」を追加した。

これは、他国に対する武力攻撃であっても「存立危機事態」であれば、自衛隊は「武力攻撃を排除」しなければならないことを意味する。

つまるところ、「日米安保条約」に基づく武力協力の一環として、アメリカへの攻撃であっても、日本の存立が脅かされるおそれを認定すれば、自衛隊は武力を行使することになる。

台湾防衛を任務とするアメリカの意向に沿い、そこで有事となった場合には存立危機事態が発生し、武力攻撃を排除するために自衛隊が行動することになろう。朝鮮半島有事の際にも同様に当てはめられることになる。

これらの3つの事態、武力攻撃事態・武力攻撃予測事態・存立危機事態に対応する自衛隊の武力行使は、その地域における戦争参加にほかならない。このような戦争法は、憲法九条の下で許されるものではない。

・自民党政権が語る「平和」のウソ

そして今、さらに事態は前進している。懸念されるのは、ウクライナ情勢に乗じた憲法を逸脱する議論の加速であり、台湾や朝鮮半島の有事などを想定し、自衛隊は敵基地攻撃能力を保有すべきとの主張が自民党内で声高に叫ばれている。

News headline labeled “Crisis”

 

しかし、攻撃能力の保有は憲法九条に明白に違反し、百歩譲って憲法九条が専守防衛を容認しているとしても、その専守防衛に逸脱している。

岸田首相は憲法改正について「国会の議論と国民の理解は車の両輪」と述べ、「国民の理解」につながる議論を憲法審査会に求めた。

ならば国民的議論は必須だ。国民を置き去りにせず、耳を傾けながら議論を尽くす姿勢が求められる。周りの状況に流されるのではなく、平和主義とは何かを、国際社会における日本の役割の中で考えなければならないはずだ。

2015年夏、この戦争法が国会で審議されていた時、国会周辺では法案反対の声がこだましていた。これについて、筆者は「『第Ⅱ期リプレーザ』08号」(2015年)で次のように指摘した。

「戦争のできる国家への転換に邁進する安倍内閣は、そんな声にも耳を傾けず、法案の早期成立を画策している。安倍首相の祖父である岸信介が、国会を取り巻く多くの声を無視し、安保条約を強行採決した時に、祖父に抱かれてデモを見ていたといわれる安倍晋三は、祖父よりも悪党である。彼は、民主主義を理解せず、自らを独裁者であるかのようにふるまい、決定するのは自分であると強調する。それは立法府の無視であり、司法府の軽視である。なぜ今、戦争法案なのか。彼は『積極的平和主義』を唱えている。彼は、平和をどのように考えているのであろうか。平和は、作り上げるものではなく、生まれるものである。作り上げるということは、現状を変革し、新たに『平和』を生じさせるのである。そんなものは平和ではない。彼の目指す『平和』を獲得するためには、紛争を創造し、そこから『平和』という名の、新たな状況を生じさせようとしているのである」。

 

このような人物が本当に国葬に値する人物なのか。答えは明白であった。

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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