すでに進んだ日本の『戦時体制』―法律からみた安倍・菅・岸田の戦争準備―
政治・自民党政権が語る「平和」のウソ
戦争準備に向けた情報操作の第1は、憲法九条の規定を「解釈」により変更し、自衛隊容認へと世論を導いていることである。国民は、政府の情報操作により踊らされているのだ。
最高裁判所大法廷は、1959年12月16日、いわゆる砂川事件について、統治行為論を採用し、憲法判断を回避した。それ以降、政府は憲法九条を勝手に「解釈」し、自衛隊の活動範囲を拡大してきた。その意味では、司法権の放棄である。
その一方で、自衛隊を災害救助活動に積極的に参加させ、国民の目に自衛隊の存在を強く植え付ける努力も怠らなかった。結果、素直に読めば憲法に違反している自衛隊が、社会的には容認されるという不可思議な現象が誕生したのである。これは、明白な、国民に対する情報操作の結果である。
第二の情報操作は仮想敵国の想定であり、「攻めてこられたら日本や国民の安全は脅かされる」というキャンペーンである。朝鮮有事に際して、日本はどうなるのか。尖閣列島や東シナ海をめぐる中国の動きに対して、どのように対応するのか。これは、政府によって作られた危機である。いわゆる「北朝鮮」によるミサイル発射を利用した危機の創出がその例だ。
政府は2014年7月1日の閣議決定で、集団的自衛権行使を容認した。その中で、「日本国憲法の施行から67年となる今日までの間に、我が国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容するとともに、更に変化し続け、我が国は複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している」としているが、それこそが、作られた危機とそれへの対応である。
ここまでくれば、もはや「解釈」の問題ですらない。国際的環境の変化と安全保障の問題だから、憲法を無視し、閣議決定でアメリカに追随し、地球のどこまでも自衛隊を派遣することを容認したのである。この閣議決定によって、多くの国民が反対している戦争法へと歩み始めたのである。
次が「特定秘密保護法」の制定だ。2013年12月、国民の反対の声を踏みにじって、安倍政権は同法を強行採決し、成立させた。
秘密保護法では、「外交秘密」「防衛秘密」「テロ情報」「警察情報」が守るべき秘密とされたが、キーワードである「安全保障」について、当初は定義規定がなかった。そのため、範囲は無限に広がり、「一般国民にも適用される」との疑念が渦巻いた。
安倍政権は反対運動の高揚に驚き、「一般国民には関係しない」とのデマの裏付けのために秘密保護法の「修正案」に定義規定を入れた。安全保障とは「国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう」というものであった。
この定義規定には、「外交秘密」「特定有害活動」「テロリズム」等がそれぞれ何を指すのかを厳格に規定することが必要である。すなわち、われわれは、「外交秘密とは何か?」「特定有害活動とは何か?」「テロリズムとは何か?」を明確にし、批判することを、今後も続けていかなければならない。
そうでなくとも、特定秘密保護法はそれ自体、おかしなものである。明治以来の秘密保護法制は、軍機保護法や要塞地帯法を見るまでもなく、戦時体制と密接に関連し、防衛秘密の保護が主たる任務であった。
本来ならば、テロ情報や警察情報は、防衛秘密の範疇には入らないものだ。にもかかわらず保護対象とされたということは、自衛隊が国内や海外で活動するためには、国内にこそ不安要素があるとの政府の考えを意味する。そのための警察権限の強化であり、抑圧体制の確立である。
さらに2015年には、冤罪防止を目的として極めて少ない範囲での取調べの録音・録画を容認しながら、盗聴対象犯罪の大幅拡大と立会の廃止、司法取引の導入という、まったく冤罪防止とは無関係な内容を一つの法律案にまとめ上げた「刑訴法等の一部改正案」が法務委員会に持ち込まれ、不十分な審議で成立してしまった。
特に、盗聴対象犯罪が従来の組織犯罪である4類型に限定されていたものを、振り込め詐欺の防止を大義名分として、窃盗・詐欺・恐喝などの一般刑法犯罪にまで広げた。
これは、盗聴法を質的に変換させるものであり、今後は警察の判断で対象犯罪を増やすことを認めてしまうことになるだろう。
この盗聴対象犯罪の大幅な拡大は、警察による国民監視を強め、国家にとっての「悪しき人間」を、通信を通じて監視し、レッテル張りを行なうことにつながる。
司法取引は、仲間を警察に売り渡すことを容認するものであり、この手法を通じて警察は、戦争に反対し、平和を志向する組織内に入り込み、幹部を追い込むことが可能となった。
・反対する者を一網打尽にする体制づくり
2017年6月15日、共謀罪法は「テロ等準備罪」と名称を変え、参議院で可決されて成立した。
2013年12月6日、安倍政権は民衆の反対をはねのけ秘密保護法を強行採決で成立させた直後に、さらに反対の声をあざ笑うかのように、悪名高き「共謀罪」の導入をちらつかせた。
高市早苗自民党政調会長(当時)は同月12日の記者会見で「共謀罪」について、「テロリズム、組織的な暴力組織に対する対応を国内できちっと行なえるようにするのは大切なテーマ。東京五輪もある。国際社会で協調し、安全な社会をつくる方向性については大変重要だと認識している」とぶちあげた。
そもそも、共謀罪の独立処罰(共謀行為のみをもって処罰すること)を認めているのは、1884(明治17)年に太政官布告で成立した爆発物取締罰則と2001年改正に伴う自衛隊法だけである。一般法では共謀罪の独立処罰は認められていなかった。
しかし、秘密保護法の成立により、一般法での共謀処罰の道が開かれた。安倍政権は、「世界的共通ルール」ということを全面に押し立てて、共謀罪成立を狙った。
跨国組織犯罪条約の批准を目的とした共謀罪制定策動は、それまで民衆の力強い闘いにより粉砕されてきた。その代表的なものが、2006年の自民党による民主党案丸呑み提案をめぐる闘いであった。
それ以降、民主党政権誕生などにより、共謀罪は永遠に葬られたかの様子を呈していたが、FATF(金融活動作業部会)の相互審査により、政府に対しパレルモ条約(跨国組織犯罪条約)の批准が勧告されたことを契機に、共謀罪の制定策動が始められた。
2016年の通常国会予算委員会での審議で政府が強調していたことは、次の3点である。
①テロ対策として必要である、②適用対象を「組織的犯罪集団」に限定するので一般人は対象とはならない、③要件として「準備行為」があるので、準備行為がなければ処罰されることはない。
①のテロ対策は、口実に過ぎないことが明らかになっている。法務省は、テロ対策に欠けている「穴の事例」として三つのものを挙げたが、審議の中で、これらの事例については準備罪で対応できることが明らかになった。
次に、②の組織犯罪集団に限定することは可能なのか。法務省は「組織的犯罪集団」を「結合の目的が重大な犯罪などを実行する団体」とする方向で検討しているとした。この定義では、一般人は対象外であると理解することはとうていできない。取締機関の主観的解釈にゆだねられた、きわめて主観的なものである。
さらに、③である。林真琴法務省刑事局長(当時)の「準備行為がなければ逮捕できない」との答弁により、法案では、合意と準備が構成要件であることが明らかになった。
それでは、条文を見てみよう。
テロ等準備罪に当たる組織的犯罪処罰法の第6条の2では、「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは」罰すると規定されている。
この条文の中で、「~した者」と書かれている部分が処罰される行為(=構成要件)を示しており、後に書かれている「準備行為が行われたとき」という規定は、構成要件に該当する行為が行われたとしても、この準備行為がなければ処罰しないことを示している。
したがって、法務省の解釈には無理があり、条文上は、計画するだけで構成要件を満たし、準備行為は処罰条件にすぎない。
共謀罪は強行採決されて成立したが、その理由とされた東京五輪・パラリンピックでは何らのテロ行為は行なわれず、その兆候すらなかった。つまり、政府が理由としたことは全くの作り話であり、それに乗せられて賛成した自公らの議員諸君は、何を考えていたのであろうか。
それら議員に告ぐ。自己の不明を恥じ、共謀罪廃止法案を国会に提出し、全国民に謝罪しろ! 今からでも遅くはない。戦争法と情報操作、反対者潰しを可能にする法律を廃止することこそ、今すべきことである。
(月刊「紙の爆弾」2022年11月号より)
〇ISF主催公開シンポジウム(11月25日開催)『ウクライナ危機と世界秩序の転換 ~情報操作と二重基準を越えて』の申し込み
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「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。