【連載】平成・令和政治史(吉田健一)

第1回 竹下登内閣期(1987年11月~89年6月)~宇野内閣期(89年6月~89年8月)

吉田健一

3.宇野内閣の成立と第8次選挙制度審議会の発足

89年4月末にリクルート事件の責任をとって竹下が退陣表明をした後、自民党の後継総裁の選出には時間がかかりましたが、同年6月2日午前、自民党は、党本部で両院本総会を開き、竹下首相(総裁)に代わる新総裁に宇野宗佑を選出しました。

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宇野は組閣後の記者会見で、自身の内閣を「改革前進内閣」を位置づけ、自民党に専任の副総裁を中心とする政治改革推進本部(仮称)を設置し、政府・自民党をあげて政治改革に取り組む決意を表明しました(朝日89.6.4)。

政治改革については、政府の選挙制度審議会で中・長期の課題の検討に早急に入る方針を示し、自民党が今国会に提出した政治資金規正法改正案など政治改革関連3法の早期成立を目指す考えを表明します。

また、中・長期の課題についても坂野重信自治相(留任)に政府の選挙制度審議会を早急に再開するよう指示したことを明らかにしました(朝日、毎日89.6.4)。

第8次選挙制度審議会は宇野内閣時に発足しましたが、設置が決まったのは竹下内閣の時代でした。選挙制度審議会は、72年に第7次選挙制度審議会の任期が切れて以来、休眠状態になっていました(朝日89.2.7)。89年6月18日になり、選挙制度審議会の委員27人が内定します。第8次選挙制度審議会のメンバーは以下の通りで、合計27人でした1)。

会長 小林与三次(日本新聞協会長、読売新聞社社長)
委員
【財界】亀井正夫(日経連副会長)、石原俊(経済同友会代表幹事)
【労働界】竪山利文(「連合」会長)2)
【学者】佐藤功(東海大法学部長)、堀江湛(慶大法学部長)、阿部照哉(京大教授)、内田健三(法大教授)、佐々木毅(東大教授)
【官界・選挙関係】河野義克(元参議院事務総長)、皆川迪夫(元総理府総務副長官)、新井裕(元警察庁長官)、山本朗(都道府県選挙管理委員会連合会長)、藤田晴子(元国立国会図書館専門調査員)、坂本春生(第一勧銀顧問)
【法曹界】江幡修三(元検事総長)、吉国一郎(元内閣法制局長官、プロ野球コミッショナー)、堀家嘉郎(弁護士)
【マスコミ】幡谷実(読売新聞論説委員長)、川島正英(朝日新聞編集委員)、斎藤明(毎日新聞論説委員長)、清原武彦(産経新聞論説委員長)、新井明(日経新聞社長)、成田正路(NHK解説委員長)、中川順(民放連会長)、草柳大蔵(評論家)、屋山太郎(評論家)

一見してマスコミ関係者の存在感が非常に大きいことが分かります。読売新聞、朝日新聞、毎日新聞の全国紙3紙に日経新聞、産経新聞、NHK、民放連からも代表者が入っていました。会長の小林与三次自身がこの時は読売新聞社社長で日本新聞協会会長であったことから、マスコミ界としては最強の人物でした。

小選挙区制については、この頃、野党各党は基本的には反対の姿勢でしたが、この時点でも既に社会党・共産党と公明党、民社党の間には微妙な、しかし、大きな違いが生まれていました。

社会党、共産党が比例代表を加味するか否かに関わらず、基本的に小選挙区制度を主軸とする選挙制度改革に反対であったのに対し、既に公明党、民社党には、比例代表制度の加味と、組み合わせ次第では、必ずしも小選挙区制を基軸とする選挙制度改革には絶対反対ではないという姿勢でした。

「小選挙区制導入」といった時、それが単純小選挙区制を指しているものなのか、比例代表を加味させるのかということは、この時点では、まだそこまで洗練された議論がなされていたわけではありませんでした。

比例代表制導入については、社会党の土井たか子委員長は西独方式 3)を提唱、公明党の石田幸四郎も小選挙区比例代表制の導入には慎重ながら選挙制度の見直しには前向きの姿勢を示していました(毎日89.6.17)。以上が、竹下内閣及び宇野内閣期における政治改革についての動きです。時期的にいえば、89年の1月から8月上旬までの、わずか7ヶ月強です。

退陣後の竹下は、宇野、海部、宮沢のこの後の3代の内閣ではキングメーカーとしての影響力を行使します。ですが、竹下は退陣までに力を入れていた程には、選挙制度改革には熱心に取り組むことはありませんでした。この後、改革論議は政界再編を主導したいと考えた小沢一郎の登場で、複雑な流れに展開していくこととなります。

【脚注】

1)メンバーの肩書きは89年6月19日『読売新聞』朝刊による。

2)「連合」からの委員は後に山岸章に交代している。

3) 西独方式とは小選挙区比例代表「併用制」を指す。自民党から小選挙区中心の「並立制」が出てきた中、野党は小選挙区制を前提とする制度には絶対反対という勢力と、比例代表に軸足を置いた「併用制」なら検討に値するという勢力に分かれて行く。

◎本稿は拙著『「政治改革」の研究―選挙制度改革による呪縛―』(法律文化社、2018年)の第1章「竹下内閣期及び宇野内閣期」を大幅に要約した上で再構成しました。

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吉田健一 吉田健一

1973 年京都市生まれ。2000 年立命館大学大学院政策科学研究科修士課程修了。修士(政策科学)。2004 年財団法人(現・公益財団法人)松下政経塾卒塾(第22 期生)。その後、衆議院議員秘書、シンクタンク研究員等を経て、2008 年鹿児島大学講師に就任。現在鹿児島大学学術研究院総合科学域共同学系准教授。専門は政治学。著作に『「政治改革」の研究』(法律文化社、2018 年)、『立憲民主党を問う』(花伝社、2021 年)。

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