【特集】統一教会と国葬問題

すでに進んだ日本の『戦時体制』ー米国覇権を超克する『真の安全保障』ー

木村三浩

・「国葬儀」反対の声が次に向かうべき課題

9月27日に執り行なわれた安倍晋三元首相の「国葬儀」には国民の大半が反対の意を示し、当日までデモや集会が多数を集めた。当初は非業の最期に同情の動員がうまくいっていたが、目的が故人への弔意よりも、政権の延命・維持に集約されていることが国民に見透かされたからだ。

state funeral

 

もちろんこれは、明らかになった安倍氏と旧統一教会のつながりや、開催の根拠や経緯、予算など「安倍国葬」そのものへの批判だが、今回、左右を問わずに高まった“声”を、無駄にしてはならない。

今回の国葬問題は、ある意味において岸田文雄政権を象徴していた。55年前の吉田茂元首相の国葬では、当時の佐藤栄作首相の指示のもと、野党第一党の社会党を“説得”する作業が行なわれた。その中身はまさに裏工作だったが、一応は合意の形成が図られたのである。

しかし岸田政権は、策を弄することすら放棄した。しかも、その強権的な論理も自前ではなく、安倍元首相がつくったのを、菅義偉政権を経て継承してきたものだ。

国会を軽視し、法を軽視し、国民を軽視しての、安倍氏の霊魂の政治利用。それが「安倍国葬」の本質といえる。

そんな岸田首相は、一方で、ロシアの軍事行動において即座にウクライナ支持を表明、日本とは無関係のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席し、関係強化を図った。そして、国内に向けてはアジアにおける「危機」の演出にいそしんでいる。

「新しい資本主義」しかり、政策にことごとく魂がないのも岸田政権の特徴である。アジア危機演出も、米国の安保マフィアと日本の安保マフィアが、お互いの現状維持に協力しあう策謀の一環といえる。岸田首相本人がどのような考え方を持っていたところで、従米改憲路線の流れでしかない。

安倍国葬は強行されてしまったが、反対で集った声を、安倍・菅・岸田政権の政策全般への検証につなげなければならない。

その際、第一に対象とすべきは、安倍政権以降、露骨なまでに加速した対米追従、自国の安全保障の米国売渡しではないか。

・「安保3文書」改定の必要なし

本年末には「安全保障3文書」の改定が予定されている。安保3文書とは、国防の基本方針である「国家安全保障戦略(国家安保戦略)」、防衛力のあり方を規定する「防衛計画の大綱(防衛大綱)」、今後5年間の防衛経費や主要装備の方針を示す「中期防衛力整備計画(中期防)」の3つを指す。

岸田政権は安倍氏の意向をもとに防衛費をGDP(国内総生産)比2%にするとぶち上げたが、3文書はそれを具体的に根拠づけるものだ。

A news headline reading ‘Defense Expenditure’

 

残念ながら、現状において日本における「防衛費増」とは、そのほとんどは米国の軍産複合体への貢献を意味している。5年以内にGDP比2%を目指すとは、現在、5兆円のところを11兆円に増額するということだ。

実現すれば、アメリカの90兆円、中国の25兆円に続く世界第3位となる。その理由として、ロシアや中国の脅威がまた強調されることになるだろう。ゆえに、国家安保戦略がどのように改定されるかは注視しなければならない。

そのようななか、安倍氏の最側近といわれ、第二次政権の諮問機関で副座長を務めた政治学者・北岡伸一氏が、冷静な意見を述べている。

〈この(=国家安保戦略の)中には、中国の脅威については、十分強調されてはいないし、ロシアの脅威についての言及もない。また16年以後安倍内閣が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)という概念には触れられていないし、QUAD(クアッド、日米豪印の協力枠組み)についての言及も当然ない。しかし、この文書を改定して、中国の脅威をさらに強調し、ロシアの脅威を強調したら、日本はより安全になるだろうか。答えは否である。この文書の範囲で必要な政策を進めればよい。(中略)つまり、国家安全保障政策は、必ずしも改定する必要はないのである。〉(nippon.com9月6日付)

すなわち、わが国の国防はわが国の事情を見極め、粛々と不足を補うべきということだ。

現状において、台湾有事の可能性を私は否定しない。しかし、それがいかなる類の危機であるか、その危機を避けるためにどう対処すべきかは、日本としての総合的な安全保障の中で考えるべきである。テーマは軍事・外交だけでなく、経済・エネルギー・食料をはじめ多岐にわたる。

しかし、実際に行なわれている議論は対米偏重・中国敵視一辺倒で、きわめて単純化されている。シミュレーションなどといって、パフォーマンスに終始している。

前号で「横田基地入国の国辱」として触れたとおり、8月に台湾・日本等アジアを歴訪したナンシー・ペロシ米国下院議長の目的は、明らかに中国への挑発だった。日本に対しては属国ぶりを世界に見せつけた。しかしそれを指摘するマスコミは皆無だった。

そして、安倍国葬では弔問で訪日したカマラ・ハリス副大統領が、やはり米軍横田基地から専用機で日本に入国した。いつまでこんなことを許すのか。

一方で隣国・韓国の尹錫悦大統領は、国連総会出席のために訪れたニューヨークで、米議会を批判する発言を漏らし、「暴言」として非難された。

しかしこれは、米韓の貿易交渉中に、米政権が電気自動車(EV)への補助金を唐突に撤回したのを理不尽な手続き無視であるとして「舐めるなよ」と本音を語ったものである。米国の優越的地位を認めてはならないのは当然のことだ。

Businessman or politician making speech from behind the pulpit with national flag on background – South Korea

 

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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