【特集】ウクライナ危機の本質と背景

2022年6月8日のウクライナ情報

安斎育郎

今日、ある方から頂いたメールへの回答です。

「ウクライナ戦争に関して、プーチンとゼレンスキーとどちらが悪いかという議論に関しては、正直分かりません」というメールを頂きましたが、プーチンとゼレンスキーの対抗関係としてではなく、アメリカのオバマ政権以来、ジョー・バイデンやヴィクトリア・ヌーランドなどのネオコンが仕掛けている対ロ世界戦略としてとらえることが「ウクライナ戦争」理解の基本でしょう。

2014年にアメリカはネオナチ極右民族集団まで使ってユーロ・マイダン・クーデターを演出して親米傀儡政権をつくり、ウクライナへの軍事支援を行ないつつ同国の NATO加盟 をちらつかせてロシアに国家安全保障上の懸念を抱かせ、ロシアにとっての「ウクライナ版キューバ危機」を創り出しました。したがって、「ウクラ イナ紛争」についてのロシアの第1の要求はウクライナの(NATO加盟ではなく)中立化です。

もう一つはウクライナのネオナチ集団アゾフ連隊による親ロシア系住民に対する無差別攻撃です。最初は確かに「ドンバス内戦」でしたが、ロシア系住民がドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国をつくり、今のところロシア以外からは独立国家として認知されていないながらも、これらを正式に議会で承認したロシアが安全保障条約を結んで、ロシア系住民の救済のために「特別軍事作戦」という軍事支援に乗り出したというのが「ウクライナ紛争」です。

したがって、ロシア側の「ウクライナ紛争」に関する第2の要求は「ウクライナの非ナチ化」です。アゾ フはユダヤや黒人や親ロシア系住民は無差別に殺すというヒトラーの系譜をひく民族浄化思想を持っている集団で、マリウポリで民兵集団「アゾフ大隊」として組織されましたが、今や、国家防衛隊「アゾフ連隊」としてウクライナ軍に正式に編入され(ネオナチが正式に軍隊に編入されている唯一の国)、アメリカの軍事支援を得てウクライナの国家のありように深刻な影響を与えています。

ご承知の通り、ゼレンスキーはユダヤ人なので、アゾフの意に反する行動をとればアゾフから命を狙われる立場にもあります。ゼレンスキーは英雄ではなく、アメリカとアゾフの作った檻に閉じ込められているパペット(操り人形)に外なりません。

数年前まで一介の俳優だったゼレンスキーが、政治・経済・軍事の極致とも言うべき今の状況を指導できる筈もないのですが、最大野党をはじめとする10ばかりの政党を非合法化し、彼の意にそわない3つのテレビ局を潰して国営放送1局に統合するなど、ひたすら独裁体制を作ってきました。

どうしてこういう人を日本の国会が国賓として招いたのか、どうして世界の西側諸国で彼を「チャーチルに比肩する英雄」などと持ち上げるのか、現代社会の浅薄さを感じずにはいられません。

西側に住んでいる私たちには、西側陣営に都合のいい情報しか流されず、ブチャの大虐殺とか、マリウポリの劇場攻撃とか、幼児に対する性暴力やレイプとか、みんな根拠も示されずにロシア軍がやったことになっており、多くの人もそれを疑いもせずに信じています。

しかし、ちょっと調べれば、ブチャの惨劇はウクライナ保安庁とイギリスの秘密部隊MI6によって演出されたものであることが知られていますし、マリウポリの劇場攻撃も生き残った市民の証言で爆発は内部で起きたと言われていますし、少女に対するレイプ事件などはウクライナ人権委員会理事のリュドミラ・デニソーヴァという女性の作り話(彼女は任期1年を残してウクライナ政府から解任された)だったということも言われています。この国にいて新聞やテレビの情報だけで世界を組み立てるのはとても危険です。

この戦争をやめさせるには、戦争の原因を取り除くことが必要ですから、一つにはウクライナがNATO加盟を考え直し、「中立化」の可能性も排除しないで停戦交渉に臨むこと、第2に捕虜になった数千人のアゾフ連隊隊員の戦犯裁判を国際社会の環視の中で行ない、戦後のウクライナ が第二次大戦後のドイツのような非ナチ化への道を歩む 道筋をつけること、でしょう。それには、アメリカが軍事支援をやめ、和平交渉を妨害しないことも不可欠でしょう。

もっとも、和平交渉に臨むことをゼレンスキー大統領が表明した場合、アゾフから命を狙われる危険があるので、必要な措置を講じなければなりません。

しかし、現実にはゼレンスキー大統領は、いまだに「勝利は戦場で達成されなければならない」(イギリスのファイナンシャル・タイムズ紙主催のオンライン会合)などと主張し、「欧米からの軍事支援の強化」を訴えています。

前にも言いましたが、自力で戦う力もない状況でひたすら戦争の継続と見通しもない戦勝に国民の命運をかけるのは「英雄的大統領」なのでしょうか?

トルコの外務大臣が「NATO加盟国の中には戦争が続くことを望んでいる国がある」と暗にアメリカやイギリスを示唆しましたが、いいかげんに軍事支援をやめて、戦後のウクライナにとっても持続的な平和と安全が訪れる和平の道をこそ支援すべきではないでしょうか。

ゼレンスキー大統領も、上に紹介したオンライン会合で、一方では「ロシアのプーチン大統領との和平も拒まない」と表明しているのですから。

 

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安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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