すでに進んだ日本の「戦時体制」―「防衛費」を積み上げてつくる「基地の島」―
安保・基地問題(「紙の爆弾」編集部より)
安倍晋三元首相の死去以来、旧統一教会と自民党の関わりに注目が集まるものの、一方でアベ政治の総括は進んでいない。「政治の私物化」とともに、その負の遺産の最たるものが、日本を「戦争のできる国」に変えたことだ。
憲法を変えずとも、すでに軍備は増強され、法律も整備された。自公政権が揺らぎを見せるいまこそ、私たちがすべきは、「戦争をしない国」としての日本を取り戻すことである。
・アメリカ下請けのための2隻の「空母」
現在、自衛隊が持っている一番大きな船は「いずも」と「かが」である。これらは、本来は日本近海に潜っている潜水艦からの攻撃を護衛するためのもので、あくまでも「攻められたときに日本を守る」専守防衛の護衛艦であった。
ところが安倍・菅・岸田と続くアメリカべったり政権は、この「いずも」と「かが」を空母に変えようとしている。空母とは、自らが敵に近づいていって、甲板に載せた戦闘機などで先制打撃を加える「敵基地攻撃型」の船である。つまり岸田文雄政権は安倍晋三元首相の遺志を継いで、日本を専守防衛の国から先制打撃ができる国に作り変えようとしている。
そもそも空母の甲板は約300メートルしかない。通常の滑走路が3000メートルだから、その距離は10分の1。パイロットは短い甲板をめがけて猛烈なスピードで飛ぶ戦闘機に急ブレーキをかけて着陸させる。実際、空母にはワイヤーロープが張られていて、戦闘機をこのロープに引っ掛けて止める仕組みなのだ。
もちろん失敗すれば海に転落し、貴重なパイロットを失ってしまう。相当な勇気と経験がなければ離発着できない。つまり空母を持つ以上、この離発着訓練は必須である。
世界で空母を持っている国は米・ロ・中・英など8カ国しかない。ロシアや中国、イギリスが1~2隻しか持っていないのに対し、アメリカは断トツの11隻を保有。その中には米軍横須賀基地を母港とする「ロナルド・レーガン」も含まれ、湾岸戦争やイラク・アフガン戦争など、実際に空母を実践使用したのもアメリカだ。
今回、日本に2隻も所有させようというのは、今後はアメリカが果たしてきた先制攻撃を下僕である日本に肩代わりさせようというものにほかならない。
現在、日本における米軍の離発着訓練(タッチアンドゴー)は東京都小笠原村の硫黄島で行なわれている。もともとは神奈川県の米軍厚木基地で行なわれていたのだが、猛烈な爆音に周辺住民が耐えられず、空母艦載機を山口県の米軍岩国基地に移転。もちろん岩国でも周辺住民が爆音に悩まされるから、約1400キロも離れた硫黄島まで飛んで行って夜間訓練を続けている。
ちなみにこの訓練は夜間に実施される。住民への嫌がらせのために? 違う。空母による先制打撃は、夜間か未明に行なわれるからだ。
湾岸戦争やアフガン戦争を思い出してほしい。最初の一撃は全て夜間だった。フセイン軍やタリバンは相手が見えていない。
米軍は赤外線スコープをつけている。だから夜間攻撃の方が安全なのだ。こうした夜間打撃訓練のために、米軍は日本の基地を使ってきた。しかしこの移動距離が積年の米軍の不満で、2011年に日米の2プラス2(外相・防衛相会談)で、岩国から約400キロの鹿児島県の馬毛島に移転させることが決定した。
・米軍訓練地をめぐる「逆森友事件」
なぜ馬毛島だったのか?
馬毛島は種子島の西方約12キロに位置する無人島だ。面積わずか8.2平方キロメートルの平坦な島で、周辺の海域はトビウオ漁で有名な好漁場。無人島なのに島の中央には小中学校の跡地があり、舗装された道路や廃屋、なんと製糖工場の跡地まである。
かつての馬毛島は500名の人口を抱えていた。戦後の食糧不足から“二男、三男対策”として開拓民が移住を始める。しかし島での生活は厳しかった。島には河川がないので飲料水の確保に悩まされ、せっかく育てた作物を、今や絶滅危惧種の馬毛鹿(まげしか)に食べられてしまうこともあった。
農業の不振から島の人口が減少に転じ始めた1970年代、 大規模レジャー施設を作ろうとした平和相互銀行が馬毛島開発(株)を設立し、島の土地買収に着手する。
この時期オイルショックに見舞われた日本では、石油の安定的な供給が喫緊の課題となっていた。土地買収の目的はレジャー施設から石油備蓄基地建設になり、追い出されるような形で人々が離島。1980年、馬毛島は元の無人島に戻ってしまう。
石油基地の誘致合戦に敗れた後(鹿児島県志布志湾に決定)、平和相互銀行は右翼の人物を使って自民党に金をばらまき(竹下金屏風事件など)、自衛隊レーダー基地を誘致しようとするがこれも失敗。1995年、立石建設(株)が馬毛島開発(株)を買収、社名をタストンエアポート(株)に変更し、島の買収をどんどん進めていく。
立石建設は豊かな森を伐採し、島を十字に切り裂く2本の滑走路を建設する。宇宙循環機(日本版スペースシャトル)の着陸場、使用済み核燃料貯蔵施設など、「売れたらなんでもええんかい!」という悪あがき状態。
そんななか、島は沖縄・普天間基地の移転候補地(辺野古に決定)になり、最終的に空母離発着訓練の候補地になったわけだ。
さて、2プラス2で馬毛島が正式に基地候補に指定されてから、防衛省とタストン社、つまり立石建設の立石勲氏との間で売買交渉が始まった。もともと立石氏はこの島を4億円で購入したと噂されている。
当初、防衛省が提示したのは45億円、立石氏側の売値希望は約400億円だったとされる。この後8年間にわたって交渉が続いたようだが、ここで交渉を仲介したのがリッチハーベストという不動産会社だった。
このリッチ社は故・加藤六月元農水大臣と旧知の仲で、六月氏の女婿が菅政権時代の加藤勝信官房長官(現厚労相)。立石氏はこのリッチ社に借金があったようで、立石建設の自社ビルなどに根抵当権をつけられており、立石建設が東京・世田谷区の公共工事を落札した際には、その工事費を差し押さえ請求されたりもしている。つまり立石氏側は馬毛島を「なんとしても高値で売らねばならない」事情があった。
リッチ社と防衛省、政府要人の面談記録によると、2018年10月から12月にかけてリッチ社は加藤官房長官(当時は自民党総務会長)と4回面談し、菅前総理の懐刀といわれた和泉洋人総理秘書官とも3回会っている。
交渉がこじれるなかで、それまで防衛省は「いくら吊り上げられても100億円以上は無理」との態度だったようだが、この面談後に事態が動く。リッチ社と加藤長官の面談直後、2019年1月にタストン社から160億円で買い取ることになり、この無人島は4億円→45億円→160億円となって、政府のものになった。なぜ価格が急騰したのか?
「馬毛島に2本の滑走路を作って、島の価値が上がった」と説明されてはいるが、実は立石氏が作った滑走路は舗装されておらず、また風向きを考慮すれば、タッチアンドゴーの滑走路には不適切なため、「今の滑走路は撤去し、新たに2本の滑走路を引く」ことになる。
これは「逆森友事件」ではないか。森友問題は、あの国有地にゴミが埋まっているという「ストーリー」を作って、9億円の土地を約8億円も値引きした。
馬毛島は「滑走路があるから」と値を吊り上げたが、こちらも「ストーリー」で、一から滑走路を建設しなければならない。そして森友の背後には安倍元首相とアッキーこと妻・昭恵氏の影があり、馬毛島の背後には菅前首相・加藤前官房長官の影があるのだ。
大阪府吹田市役所勤務を経て、フリージャーナリスト。NGOイラクの子どもを救う会代表。新刊『自公の罪 維新の毒』(日本機関紙出版センター)。