すでに進んだ日本の「戦時体制」―「防衛費」を積み上げてつくる「基地の島」―
安保・基地問題・標的になる「基地の島」
そして問題の購入費160億円だが、これはなんと沖縄・辺野古基地の建設費を流用して支払われている。基地建設反対の玉城デニー沖縄県知事が9月に再選したように、沖縄の人々はずっと辺野古新基地建設には反対の意思を示している。
美しい海を汚して、埋めても埋めても沈んでいく膨大な建設費。その一部を姑息な手段で馬毛島の基地建設に使おうとし、さらにはその決定方法が秘密になっている。これは二重三重の国民に対する裏切りではないか。
現在、馬毛島基地建設に反対を表明していた種子島・西之表市長が揺らいでいる。おそらく政府の圧力に屈したのだろう、基地建設容認に傾き始めているようだ。種子島には3市町村しかなく、中種子町・南種子町は当初から賛成なので、西之表市が賛成に転じると馬毛島基地建設は今後、粛々と進められていくだろう。
そうなれば地図を見てもわかる通り、北から馬毛島・奄美大島・沖縄本島・宮古島・石垣島・与那国島が全て「基地の島」になってしまう。与那国島には自衛隊のレーダー基地がすでに完成していて、宮古・石垣には自衛隊のミサイル基地が建設中だ。
この事実を中国側から見ればどう見えるだろうか? もし台湾で何かあれば、まずは一番近い与那国島のレーダーがキャッチ。その情報を宮古・石垣の基地に伝達。やがて両ミサイル基地から中国本土に弾道ミサイルが発射。そして馬毛島で訓練を積んだパイロットを乗せた空母「いずも」が、東シナ海に出撃する。
そうなれば世界第2の軍事大国である中国は、これら「基地の島」を攻撃してくるだろう。そう、ウクライナのザポリージャ原発で明らかになったように、基地や原発は、持てば持つほど危険なのである。
・護憲だけではなく憲法9条の実践を
「安全保障のジレンマ」という言葉がある。相手がミサイルを10発持てば、こちらは20発持とう。すると警戒した相手は40発に増強する、そうなればこちらが80発を……。こうして米ロは核兵器を互いに約6000発も持つに至った。
簡単に言えば、アメリカはこのようにして軍事に膨大な予算を使ってきたので、国家予算の限界を迎えてしまった。だから「下僕たち」にその肩代わりをさせようとしている。
トランプ大統領と一緒にゴルフをしてバンカーから転げ落ちた安倍元首相は、その後、空母に載せるF35戦闘機を147機も購入することを決めた。6兆円を超える巨大な「献金」をアメリカ様に差し上げたわけだ。
こうした人物の国葬にまたまた税金を使う。これは「高額なツボを買わされた上に、印鑑まで売りつけられている状態」であることに納税者は気付かねばならない。
ASEAN(東南アジア諸国連合)では、1967年の結成以来、加盟国同士での大規模な戦闘は行なわれていない。もちろんミャンマーの軍事クーデターや東ティモール紛争など、個々の国での問題はあるが、基本的には友好善隣を旨に日常的に話し合うという姿勢が、戦争を未然に防いでいるといえる。
本当の安全保障は、日本・中国・韓国で「東アジア共同体」を作ることではないか。様々な問題はあるものの、日常的な話し合い、友好善隣の精神に基づくウィンウィンの貿易体制を構築すれば、空母もミサイル基地もいらない。なにしろ日中での経済的な結びつきは、アメリカを抜いて一番なのだ。
つまり戦争より話し合い。武器の配備より貿易の方が儲かるのだ。今の自公政権は、特に安倍・菅政権以来、「アメリカについていけば、なんとかなるだろう」という思考停止状態に陥っている。保守本流を吹聴する宏池会の岸田政権になっても、この状態は継続、いやむしろ加速している。
防衛費をGDP2%に引き上げるという方針を決定して、アメリカには「相当の増額」を約束した岸田首相。2%になれば11兆円だ。これは世界の軍事費でいうと、1位アメリカ90兆円、2位中国25兆円、3位インド8兆円……と続き、日本は5.4兆円で第9位なのだが、今後インドを抜いて世界第3位の軍事大国を目指すと宣言したということだ。
憲法9条を持ち、二度と戦争をしない、と誓った国が世界第3位の軍事大国になる。そうなればコロナ対策を含めたほぼ全ての社会保障費が削られ、年金は半額、消費税は20%と、とんでもない未来を迎えることになる。
少子高齢化、財政危機を迎えている日本にいま一番必要なのは、軍事費を削って社会保障に回すことと、富裕層や大企業への課税強化だ。そのためには財界代表、アメリカ下僕の自民党政治を変えなければならない。
各地で盛り上がりを見せた安倍晋三国葬反対運動を、岸田内閣倒閣運動に発展させ、次こそ野党共闘による政権交代を実現させなければならない。岸田内閣にとっての「黄金の3年」を「終わりの3年」に、私たち市民にとっての「反撃の3年」に変えよう。
私は今年8月に、自身13回目となるアフガニスタン取材を行なった。首都カブールから車で約6時間、中村哲さんが築いた用水路を訪れた。砂漠の中にクナール川からの一本の用水路が流れ、東京ドーム3000個分以上の砂漠が緑に変わり、65万人の命を救っていた。
農業ができれば、難民は農民に戻り、食べられるようになればタリバンには入らない。タリバン兵士になると給与が出る。貧しい地域では家計を助けるためにタリバンに入る若者も少なくない。つまり中村さんの用水路は、戦争を平和にするためのものでもあった。
一方、アメリカは20年間にわたる「テロとの戦い」で、主にイラク・アフガン人を90万人殺害してしまった(アメリカ・ブラウン大学調べ)。日本はどちらから学ばねばならないのか? 答えは明白、アメリカやロシアが進める「力の外交」は失敗したのだ。
日本は今こそ憲法9条の精神に立ち返り、軍備縮小に転じ、アメリカだけではなく中国・韓国に対しても積極的な対話を進め、ある意味したたかな等距離平和外交、貿易交渉を進めながら、軍縮によって生じた予算を教育や中小企業対策に回す。そうなれば雇用拡大、賃上げへの道が見えてくる。
憲法9条は平和をもたらすとともに、軍縮による平和の配当を授けてくれる。真の立憲野党による共闘体制をつくり、日本の針路を変える。これが今、突きつけられている私たちの課題である。
(月刊「紙の爆弾」2022年11月号より)
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大阪府吹田市役所勤務を経て、フリージャーナリスト。NGOイラクの子どもを救う会代表。新刊『自公の罪 維新の毒』(日本機関紙出版センター)。