【連載】塩原俊彦の国際情勢を読む

ゼレンスキーの「嘘」に気付け:戦争では双方の言い分に注意を払うべきだ

塩原俊彦

「増長するゼレンスキー:米国の誤算」(https://isfweb.org/post-10536/)に書いたように、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は「嘘」を平然と付くことで、自らの権力を維持しようとしている。それは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と変わらない。

そもそも戦争とはそういうものであり、戦争に関する報道も論評も、こうした「嘘」という地雷に気を配りながら、慎重に行わなければならないのだ。だが、残念ながら、欧米のマスメディア報道や政治家、それに専門家の多くが偏向した見方を一方的に押しつけてきたし、いまでもそうだ。

ちょうどいい記事があったので紹介しておこう。11月19日付の「毎日新聞」(https://mainichi.jp/articles/20221118/k00/00m/010/489000c)である。

「ロシアのプーチン氏だけが批判され、ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。ゼレンスキー氏は、多くのウクライナの人たちを苦しめている」とか、「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている。欧州や米国の報道のみを使っている感じがしてならない」と、あの森喜朗元首相が発言したというのだ。

ここでは、11月15日に起きたポーランド領へのミサイル着弾による2人の死亡という件について、ゼレンスキー氏がついた「嘘」をめぐって考えてみたい。

11月15日の出来事

まず、11月15日の出来事について、ロシアとウクライナ双方の情報に基づいて説明してみよう。ミサイルが着弾したのは、下の地図に示したように、ウクライナとポーランドの国境近くのポーランド領だった。

爆発は現地時間午後3時35分頃、旧国営農場内で操業していたある企業の敷地内で発生したとポーランドの報道機関(wyborcza.pl)は伝えている。

これを、米系の報道機関AP通信(https://apnews.com/article/nato-ap-news-alert-europe-poland-government-and-politics-ba48101fd25c86e68e57dc56fe2adf80)は、米諜報当局高官によると、ロシアのミサイルがNATO加盟国のポーランドに着弾し、2人が死亡したと伝えた。しかし、この時点では、この情報が正確であるかどうかはまったくわからなかった。

 

この日、ロシアはウクライナ領内に向けてミサイル攻撃を行った。90発とも100発ともいわれる数のミサイルがロシア側からウクライナに向けて飛んできたのである。

11月16日のロシア国防省の発表では、ロシアが同月15日に行ったミサイル攻撃はすべてウクライナ領内に着弾し、標的はウクライナとポーランドの国境から少なくとも35キロ以上離れた場所にあったとした。

さらに、同省の専門家は、ミサイルの残骸の写真から、ポーランドで爆発したミサイルはロシア製でウクライナに帰属するS-300対空システムによるものと結論づけたと説明した。ここでの記述は、「ニューヨーク・タイムズ」(https://www.nytimes.com/live/2022/11/16/world/russia-ukraine-war-news-g20#russia-denies-involvement-in-an-explosion-near-polands-border-with-ukraine)およびロシアの「コメルサント」(https://www.kommersant.ru/doc/5669061)のほぼ同じ報道に基づいている。

11月16日付のロイター電(https://www.reuters.com/world/europe/polish-president-says-missile-that-hit-village-was-probably-old-s-300-rocket-2022-11-16/)によると、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領も、爆発したミサイルについて、「我々と同盟国が持っている情報では、それはソビエト連邦で作られたS-300ロケットで、古いロケットであり、ロシア側によって発射されたという証拠はない」とのべた。ゆえに、彼は今回の出来事を「不幸な事故」と呼んだ。

さらに、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は記者会見(https://www.nato.int/cps/en/natohq/opinions_209063.htm)で、「我々の予備的分析では、今回の事件はロシアの巡航ミサイル攻撃からウクライナ領土を守るために発射されたウクライナの防空ミサイルによるものである可能性が高い」と説明した。

同時に、「はっきりさせておきたいこと」として、これはウクライナのせいではなく、「ウクライナに対して違法な戦争を続けるロシアが最終的な責任を負っている」とした。

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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