帝国のプロパガンダ装置としての『ニューヨーク・タイムズ』① ―暴露された米国政府との「共生関係」―
国際なぜ他紙・誌よりも「利用価値」があるのか
ただ、それでも『ニューヨーク・タイムズ』は、特別の位置にあるのは疑いない。「ウォーターゲート事件報道」で名を馳せた、やはり伝説的な存在である元『ワシントン・ポスト』記者のカール・バーンスタイン氏は、すでにMSMの内幕を暴露している。
後述するCIAの諜報活動における「ジャーナリスト」と呼ばれる米国のMSMの社員の活用について、「過去25年間にCIAの仕事を密かにこなした」のは400人以上であったと指摘し、実名で数々の社名と社員の名前を記している。そして、以下のように強調している。
「CIA関係者によれば、こうした提携のなかで圧倒的に(利用)価値があるのは、『ニューヨーク・タイムズ』とCBS、TIMEである」(注6)。
ただ当時はCNNがなく、今日の雑誌ジャーナリズムがかつてのような精彩を欠いている現状からすれば、そしてCIAのこうした活動が中止に及んだと推測しがたい点を考慮するなら、やはり「情報戦の道具」としての『ニューヨーク・タイムズ』の価値は、現在も特筆すべきものがあるに違いない。
たとえ「イラクの大量破壊兵器」以降も、「ロシアが密かにタリバンに米兵を殺したら報奨金を払っている」(“Russia Secretly Offered Afghan Militants Bounties to Kill U.S. Troops, Intelligence Say”:2020年6月26日付)といった粗雑極まる誤報のみならず、膨大な記事の量とは裏腹に、結局は何の根拠もないフェイクニュースの山だった「ロシアゲート」報道が象徴するように、「米国が経験したあらゆる政治的不都合をロシアのせいにするという『ニューヨーク・タイムズ』の数年にわたるキャンペーンの歴史」(注7)があったとしても、同紙の「名声」や「権威」が揺らいだという兆候はなぜか見いだせない。
だからこそウクライナ戦争の真相を見極め、「津波のように押し寄せているプロパガンダ」に抗うためにも、『ニューヨーク・タイムズ』の「報道」には一段の警戒が求められているはずで、その「権威」とは裏腹の「ジャーナリズム」とは呼べない構造的な政府や諜報機関との癒着の実態が暴かれねばならない。
発刊前に政府に「記事の内容を説明した」
その「情報戦の道具」ぶりが露呈した最近の事例として、トランプ前大統領によるツイッターによる批判が挙げられる。『ニューヨーク・タイムズ』は2019年6月15日付に、「米国がロシアの送電線へのオンライン攻撃を強化」と題した記事を掲載した。
そこでは、米国が「ロシアの電力網へのデジタル侵入を強化している」として、それが「ロシアのニセ情報とハッキングユニット」に対する「プーチン大統領への警告であり、トランプ政権が新しい権限を行使してサイバーツールをより積極的に展開していることを示している」(注8)と報じていた。
これに対し、トランプ氏は翌16日に、以下のようにツィートした。
「落ち目のニューヨーク・タイムズが、米国がロシアへのサイバー攻撃を大幅に増やしているという記事を掲載したことを信じるか。これは、かつて偉大だった新聞社が、たとえ我が国にとって悪い話であっても、どんな話でもいいから記事にしようと必死になっている、事実上の反逆行為だ」。
これに対し、『ニューヨーク・タイムズ』の広報が直ちに反論した。
「報道機関を反逆と非難するのは危険だ。我々は、出版前に政府に記事の内容を説明した。我々の記事にもあるように、トランプ大統領自身の国家安全保障担当者は、懸念はないと言っている」。
この短い文章から、軽くはない事実が浮かび上がる。メディアの常識として記事が政府の「サイバー攻撃」を扱っている以上、関係当局にコメントを求めるのは常識だが、ここではそうではなく事前に「記事の内容を説明した」とある。しかも、「国家安全保障」に「懸念はない」とのお墨付きを政府からもらったと認めている。
ならば、『ニューヨーク・タイムズ』にとって記事掲載の決定基準は、政府からの「懸念」の不在確認にあるとしか解釈できない。ならばこのような新聞は、「ジャーナリズム」を名乗る資格があるはずもない。
前出のベンジャミン・ノートン氏もこのツィートのやりとりについて、「まったく見落とされていたのは、『ニューヨーク・タイムズ』の声明で最も明瞭にされたことにあった。この新聞は、本質的に米国政府と共生関係にあるのを認めたのだ」(注9)と指摘している。
次号では、この「共生関係」の実態をさらに探っていく。
(注1)URL:https://www.nytimes.com/2022/04/11/technology/china-russia-propaganda.html
(注2)URL:https://mronline.org/2022/04/16/new-york-times-ridiculous-attack-on-me-exposes-its-deceitful-propaganda-tactics/
(注3)ヌーランドの会話記録については、成澤「バイデンが国務省に入れた極右の正体③(URL:https://blog.goo.ne.jp/lotus72ford/e/01e6eb8ca79cf2a2b81bfb02f3b980d2)参照。
(注4)(注2)と同
(注5)February 18,2022「WAR IN EUROPE AND THE RISE OF RAW PROPAGANDA」(URL:https://arena.org.au/war-in-europe-and-the-rise-of-raw-propaganda/#)
(注6)October 20,1977「THE CIA AND THE MEDIA How Americas Most Powerful News Media Worked Hand in Glove with the Central Intelligence Agency and Why the Church Committee Covered It Up」(URL:https://www.carlbernstein.com/the-cia-and-the-media-rolling-stone-10-20-1977)
(注7)April 20, 2022「The New York Times’ Anti-Russian Inquisition Cancels History (again)」(URL:https://www.fairobserver.com/russian-newsrussia-news/the-new-york-times-
anti-russian-inquisition-cancels-history/)
(注8)「U.S. Escalates Online Attacks on Russia’s Power Grid」(URL:https://www.nytimes.com/2019/06/15/us/politics/trump-cyber-russia-grid.html)
(注9)June 24, 2019「NY Times admits it sends some stories to US government for approval before publication」(URL:https://thegrayzone.com/2019/06/24/new-york-times-media-us-government-approval/)
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https://isfweb.org/recommended/page-4879/
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1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。