
沖縄のPFAS汚染問題と日米地位協定
琉球・沖縄通信沖縄のPFAS(有機フッ素化合物)汚染問題は環境・健康問題であると同時に優れて政治問題である。政治問題だというのは、その解決に日米地位協定が大きな阻害要因として立ちはだかり、しかもその矛盾が沖縄に集約され、本土の世論も政治もそして報道も極めて関心が薄く、まるで他人事のような扱いを受けていることである。オーストラリアの政治学者ガバン・マコーマックがその著書『属国』で指摘するように、日本は米国の属国であり、主権国家とは言い難い。沖縄のPFAS汚染問題は、多くの日本人が認めたくないその事実を雄弁に物語っている。
1.北谷浄水場のPFAS 汚染
沖縄のPFAS汚染問題は県内各地に拡がり止まることを知らないが、特に問題となっているのは米軍基地や自衛隊基地で泡消火剤として使用されているPFAS である。中でも大きな問題となっているのが7市町村45万県民に給水している北谷浄水場のPFAS汚染問題である。沖縄県企業局は6年前の2016年1月19日に北谷浄水場が供給する飲料水がPFASで汚染されていることを初めて公表し、汚染源は嘉手納基地と推定されると発表した。
汚染対策の基本は汚染源を明らかにすることにある。そこで企業局は同基地への立入調査を16年6月に申入れたが、日米地位協定が壁となり6年後の本年に至るまで立入調査が出来ていない。立入調査を認めない理由は、当初は「日本にはPFAS汚染を規制する法律がないから」ということだったが、厚生労働省が20年4月1日に暫定水質基準を設定したことを踏まえて同年5月に沖縄県企業局が再度申し入れを行なったがなしのつぶてである。日米地位協定が大きな壁として立ちはだかっているのである。
2.なぜ立入調査ができないのか?
米軍は日米地位協定を根拠に日本側の立入調査を拒否する。同協定第3条第1項は米軍に「排他的管理権」があると定めており、県企業局は米軍の合意なしには立入調査ができない。この問題は、沖縄では航空機事故の現場検証を日本側官憲が行なうことが出来ないという形で頻繁に発生していた問題であるが、それが県民の命の水である北谷浄水場のPFAS汚染問題の原因解明の障害になったのである。
イラク戦争真最中の04年8月13日に米軍ヘリCH53Dが沖縄国際大学に墜落した際、この条項が壁になって渡久地朝明学長はじめ日本側関係者は全員大学構内から締め出され墜落原因の調査ができなかった。この時の反省に基づいて15年9月28日に制定されたのが「環境補足協定」である。
しかしその第4条「環境事故後の調査のための基地立ち入り手続き」は、地元自治体による基地の立入調査を「環境に影響を及ぼす事故が現に発生した場合」とし、この立入についての日米合同委員会合意は「米国から日本に環境事故の報告があった場合」に限定したため、従来よりもむしろ制限する結果となったのである。米国が報告しなければ動きようがないのだ。
この「環境補足協定」が役立たずの代物であることが明らかになったのは、16年12月13日の名護市東海岸の安部沖でのオスプレイ墜落、そして17年10月11日の東村でのCH53Eの墜落であった。米国から日本に環境事故の報告がなく、日本側は墜落による環境汚染の調査を全く実施できなかったのである。
このため沖縄県は、欧州諸国を筆頭に各国が米国と締結している地位協定の比較調査を実施し、その中間報告書を18年に公表している。表1が調査結果であるが、敗戦国のドイツ、イタリアを含め、米軍基地には国内法が原則適用され、事故原因調査のための立入権が明記されている。一方、日本は米国の言いなりである。しかも問題が沖縄に集約的に現れているため、沖縄以外では気づかないか、気づいても知らない振りをしてきたのである。
表1 地位協定等5カ国比較表
(沖縄県「他国地位協定調査について」より)