「超過死亡」との因果関係は? ワクチン接種の是非を問う
社会・経済・戦後最大の超過死亡
岸田文雄首相は2022年10月3日、この日開会された国会の所信表明で「引き続き、屋外は原則不要」と、屋外におけるマスク着用に関して方針を表明した。
岸田首相がコロナ禍への向き合い方について、新たな段階への移行を宣言する一方で、日本で死者が増加している現実がある。
日本経済新聞は2月25日付の紙面で「2021年の死亡数4.9%増、戦後最大 東日本大震災時上回る」「21年の日本国内の死亡数は145万2289人で、初めて140万人を突破し、昨年の国内死亡数は、前年よりも6万7745人(4.9%)増え、増加数は東日本大震災の2011年(約5万5000人)を上回り、戦後最大となった」と報じた。
また朝日新聞5月22日付では「2021年の国内死者、想定超える 新型コロナによる医療逼迫影響か」「厚生労働省研究班の分析の結果、昨年は予想よりも死者数が増えており、コロナウイルスの流行が始まった2020年が、国内のすべての死者数が予測よりも少なかったのと対照的な結果となった」ことを伝えている。
そして、今年の死者数の予測について、10月11日付の毎日新聞は、「今年前半の国内『超過死亡』、最大4万6000人 コロナ後で最多」と見出しを打ち、国立感染症研究所などがまとめた推計で、「超過死亡」が、2022年1~6月に1万7000~4万6000人に上り、新型コロナウイルス流行以降で最多となった、とまとめている。
超過死亡(率)とは、予測された死亡者数より実際に死亡した人が多かった場合に、その数や割合を示すものである。戦争・飢餓・自然災害・伝染病流行などによって多数の死者が出れば、その値は上昇する。
これら新聞報道は、超過死亡が増える理由について専門家の意見を次のように紹介している。
「新型コロナウイルスだけでなく、運動不足などによる心不全などコロナ禍の余波とみられる死亡数が増加した」(日経)。
「2020年は想定より約6000人から約5万人下回る過小死亡だったのに対し、21年はコロナによる医療逼迫が深刻化したこともあって死者数が押し上げられた可能性があると専門家はみている」(朝日)。
「新型コロナによる直接死のほか、医療逼迫の影響で医療機関にアクセスできず新型コロナ以外の疾患で亡くなったケース、外出抑制など生活習慣の変化に伴い持病が悪化したケース、経済的な困窮によって自殺したケースなど間接的な影響も考えられると専門家はみている」(毎日)。
一方、超過死亡はコロナワクチン接種の拡大が原因では、と疑う人もいる。2020年は超過死亡どころか逆に想定を下回る“過少死亡”が見られたのに、ワクチンが普及した2021年以降に超過死亡が増加したからだ。
2020年に死者数が減ったのは、マスクや手洗い、消毒の励行、高齢者が外出を控えたことなどにより、インフルエンザ等、コロナ以外の疾患による死者が減ったという説明が可能だ。
しかし2021年に超過死亡が増え、2022年は前年を上回るペースで増加し続ける原因については、新聞各紙が専門家の意見として挙げた運動不足・医療逼迫・自殺者の増加で、説明が可能なのだろうか。
コロナ感染による死者数は、2020年が約3500人、2021年が約1万5000人。2022年は10月20日の時点で2万7727人。累計で4万6120人がコロナによる死亡として計上されている。
国立感染症研究所の発表によれば、2022年1月から6月までの超過死亡は、最大4万6000人と史上最多のペースだが、同時期のコロナ死者数は約1万2000人。超過死亡のうち3万人以上がコロナ以外の理由によるものだ。
その理由を考えるにあたり、日本でワクチンが普及した経緯を振り返ってみよう。
・東京五輪が加速させたワクチン購入
「ダメだ、遅すぎる!」
2021年1月、首相官邸の執務室。菅義偉首相(当時)は、「ファイザーのワクチンが日本に来るのは早くても4月」と報告した和泉洋人・首相補佐官に対し、声を荒らげて怒鳴ったと伝えられた。菅首相は、同月21日の参議院本会議で「3億1000万回分のワクチンを確保できる見込み」と大見得を切っていた。
当時の菅政権は、なりふり構わずにワクチン確保に走り回っていた。
2021年4月、日米首脳会談のため訪米中の菅氏は、スピーカー越しにファイザーのアルバート・ブーラCEOと直談判。ワクチン供給の前倒しや、5000万回分の追加供給のために日本政府と協議に入ることを要請した。またブーラ氏から東京五輪・パラリンピックの選手団にワクチンを無償提供することを提案され、菅氏はご満悦だったという。
コロナの流行次第では、東京五輪の開催が危ぶまれる状況だったから、菅氏がワクチン確保にしゃかりきになったのも、無理はなかったのかもしれない。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、衆議院厚生労働委員会で、「今のパンデミックの状況で、五輪開催は普通はないわけですよね」と発言し、官邸を激怒させたのもこの頃の話だ。
2021年6月21日にワクチンの職域接種が企業や大学等で開始され、接種率は伸び続けたが、新規陽性者数も東京五輪期間中に、それまでの1日2000人前後から5000人台に増え、ピーク時の8月20日には2万5000人台になった。
11月には南アフリカで新種のオミクロン株が報告され、日本では2022年1月から流行し、2月には1日あたりの新規陽性者数が10万人台に達した。その後徐々に減ったが6月から再び急増、8月には24万人に増加。10週連続で世界最多の陽性者数を記録し、週ごとの死者数でも米ロに次いで多い時もあった。そこから1万人台にまで急減するが、再び増える傾向を見せている。
この間、オミクロン株の感染力はデルタ株よりも強いが重症化率は低いといわれ、またワクチン1回接種では予防効果は不十分、2回接種で抗体価は10倍となり十分な予防効果が得られる、しかし半年経つと効果は10分の1になるから3回目接種が必要と説明された。
さらに10月19日には、ワクチン3回目以降の接種について、従来の5カ月間隔から3カ月に短縮することが、厚労省の専門部会で決定。2022年10月から5回目接種が始まったが、3カ月ごととなれば、最大で年に4回打つことになる。「ウィズ・コロナ」というよりも、「ウィズ・ワクチン」とでもいうべき状況だ。
政府は東京五輪のためにワクチンを買い集め、大量に確保した。それで国民の健康が守られているのなら上出来だろう。ところが、コロナ陽性者は増加し続けるうえ、コロナ以外での超過死亡が増え続けているのだ。
ワクチン追加接種も、たびたび変異する新型ウイルスに対応するためのやむを得ない措置とされてきたが、ここにも疑問が残る。
京都府出身。海外情報専門誌記者を経てフリーランスジャーナリスト。