下関市立大学で炸裂寸前の〝爆弾〞 、旧統一教会と「安倍王国・山口」
政治・安倍元首相の県民葬
安倍晋三元首相の山口県民葬が2022年10月15日、選挙区(衆院山口4区)だった下関市で執り行なわれた。約2000人(主催者発表)が参列、自民党安倍派からは細田博之衆院議長や萩生田光一政調会長、井上義行参院議員ら約80名が駆け付けた。
弔辞を述べたのは、教団票差配など旧統一教会(世界平和統一家庭連合)とのズブズブの関係が明らかになった細田氏。10月5日、臨時国会2日目の代表質問で立憲民主党の泉健太代表が議長席を振り返りながら問い質した時には無言を押し通し、二回の文書提出のみで済ませ、「紙対応」と揶揄された。
そんな細田氏は、県民葬では“教団票差配コンビ”でもあった安倍氏をこう褒め称えたのである。
「君は、終始経済の成長および行財政と教育改革ならびに災害からの復興に心魂を傾け、また世界の繁栄と平和に力をいかし、国民生活の充実とわが国の国際的地位の向上に貢献されました。その功績はまことに偉大であります」。
遺骨を抱えて入場した昭恵夫人も銃撃事件後に初めて挨拶。ややかすれた声で「先日は国葬儀を挙行していただき、だんだんと私も実感が湧いてきて、本当に亡くなったのだと寂しさが増してきている」「今回遺骨で帰ってきたのは残念でなりません」などと述べていた。
しかし、ほぼ同じ時間帯には下関市役所前などで抗議集会が開かれ、「憲法違反の県民葬はやめようや」「県民の税金を6300万円も使わないで!!」といったプラカードを持った市民らが「内心の自由の侵害」を訴えた。県民葬も国葬と同様、民意が分断される形で強行されたのだ。
細田議長が「偉大」と絶賛した安倍元首相の功績だが、9月27日の国葬反対集会では志位和夫・共産党委員長が「戦後最悪の政権」と批判している。
「森友問題、加計問題、桜を見る会の問題、国政私物化疑惑にまみれたのはいったい誰ですか(参加者から「アベだ!」の声)。そして統一教会と首までズブズブの関係を作って、最大の広告塔になったのは誰ですか(「アベだ!」の声)。そんな政治を礼賛し、国民に押し付ける。こんなことは断固、お断りしようではありませんか!」。
まさに正論だった。自民党衆院議員の村上誠一郎元行政改革担当大臣が「旧統一教会に選挙まで手伝わせた」ことなどを理由に安倍元首相を「国賊」と断罪したとおり(後に撤回)、高額献金によって日本の国富を韓国教団に流出させる片棒を担いだのは紛れもない事実なのだ。「国賊」「売国奴」と後ろ指を指されても不思議ではない。
そんな安倍元首相に対し、十分な調査もせずに追悼することに対し、反対の声が上がるのは至極当然のことといえるのだ。しかし岸田首相は“教団差配コンビ”の調査を拒み続けている。
10月19日の参院予算委員会で辻元清美議員(立民)が「安倍元総理の調査が必要」と迫っても、「最後は心の問題。本人が亡くなられている。反論も抗弁もできない。十分に調査することは難しい」と拒否したのだ。
同日の同予算委で小西洋之議員(立民)は下村博文文科大臣時代の名称変更問題(2015年8月)について質問、「やはり旧統一教会の守護神だ」と岸田首相を突き離した。
宗教法人設立時の審査基準(宗教法人格の悪用を防ぐため法令違反等を調査すること)が名称変更時に適用されないことを問題視したのだが、岸田首相も永岡桂子文科大臣も非を認めなかったからだ。宗教法人格を悪用して法令違反を繰り返してきた統一教会の名称変更が被害拡大を招く問題を、直視しなかったともいえる。
岸田政権(首相)の隠蔽体質も露わになった。10月18日の衆院予算委員会で宮本徹議員(共産)は、旧統一教会の名称変更に関する資料を3カ月前に請求したのに、いまだに出てこないと批判した。「安倍政権時代にもこんなことはなかった」と呆れ返っている。
翌日の参院予算委でも、前述の小西議員が畳み掛けるように追及した。名称変更関連資料が出されないことについて、担当の文化庁宗務課は「確認中」を理由にしていたが、「何を確認しているのか」と永岡文科大臣を問い質した。
宗務課が8名と少人数であるとの言い逃れに対しても、岸田首相に「霞が関で総力を挙げて国会に提出するべき」「次の予算委員会の理事会に提出することを求める」と迫ることも忘れなかったのだ。
・河野大臣の逆ギレ回答
世論調査で「次の首相1位」(2022年9月18日付の毎日新聞)に躍り出た河野太郎デジタル相(消費者庁担当も兼任)も、10月17日に予算委が始まるまでは「見守り大臣」と呼びたくなるほどの待ちの姿勢を続けていた。
「紙の爆弾」11月号で指摘した通り、紀藤正樹弁護士らをメンバーとして「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」を立ち上げ、初回会合から新規立法を求める声が出たのに「臨時国会での法案成立に全力を尽くす」といった決意表明をすることはなかったのだ。
そこで新規立法(消費者契約法改正など)の日程について会見で何度も聞いたが、「検討会の議論を見守りたい」という回答を繰り返すだけ。痺れを切らして10月11日の会見で再質問すると、逆ギレしたような回答が返ってきた。
――消費者契約法改正の時期だが、岸田首相から「加速」の指示があった時に日程感、スケジュールについては特に言及はなかったのか。「臨時国会中に何としても成立させる」というような決意表明等はなかったのか。
河野大臣:「検討会の議論を注視してほしいと思う」。
――臨時国会で成立しない場合、「銃撃事件から半年も経って法改正がなされない」という事態で、政権担当能力を疑われるのではないか。「旧統一教会とのズブズブの関係を断ち切ろうとする本気度不足ではないか」と言われると思うが、それでもいいのか。
河野大臣:「記者会見ですから、個人の誹謗中傷をするなら次回からご遠慮下さい」。
――誹謗中傷ではなく、新規立法実現は元信者の方や、検討会でも臨時国会に提出するべきだという声が出ているのを受けて聞いている。それでも「(検討会の議論を)見守る」としか言えないのか。
河野大臣:「検討会が議論をしているのはご存じの通りです」。
この質疑応答を10月14日にネットニュース「データマックス」の記事で紹介した際には、私は次のように締め括った。
〈(岸田首相は)「臨時国会での新規立法を実現する」という具体的発言(決意表明)をしなくても、河野大臣がメデイアに頻繁に登場していれば、「やっている感」演出はできると高を括っているのではないか。“検討使”総理と“見守り”大臣のコンビで、来週月曜日(17日)からの予算委員会を乗り切ることができるのか。与野党激突の臨時国会での論戦が注目される〉。
記事公開から4日後の18日、ようやく岸田首相は臨時国会での法案提出について言及。これに呼応して自民党も、立民と維新が共同提出していた被害者救済法案の協議に応じる方針を決定し、臨時国会での成立を目指すことで合意した。
野党の攻勢が目に見える成果をあげるようになったともいえるのだ。
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。