【連載】横田一の直撃取材レポート

下関市立大学で炸裂寸前の〝爆弾〞 、旧統一教会と「安倍王国・山口」

横田一

・安倍地元・下関市でも「旧統一教会と政治」問題

旧統一教会問題は、安倍元首相の地元・下関にも飛び火していた。安倍氏の秘書から市議を経て2017年に初当選、現在2期目の前田晋太郎・下関市長が8月15日、旧統一教会の会合に2回(2019年12月と2021年1月)出席したことを定例会見で明らかにした。

 

同じく安倍派で下関市長(1995年〜2009年)だった江島潔参院議員も2018年7月、旧統一教会主催のイベントに山際大志郎・前経済再生担当大臣と出席。2人で並んで韓鶴子総裁を見つめる写真が教団のホームページに掲載されていたため(後に部分的に削除)、一斉に報じられることになったのだ。

その前田市長の後押しで2019年6月に下関市立大学(1956年創立)の教授として採用され、副学長を経て2022年4月に学長となった韓昌完氏(副理事長)にも、旧統一教会と関係があるのではないかという疑問が提示されていた。

 

市内の報道関係者らに匿名の内部告発文が送られ、10月15日には「(社)日本地方新聞協会」加盟の地元メディア「市政ジャーナル」が疑問を投げかける次のような記事を出したのだ。

〈2020年10月20日の神統一世界安着のための指導者就任式(世界平和統一家庭連合NewsOnlineホームページ参照)での会場で、ZOOMハイビジョンにおいて韓氏も参加していた。韓学長は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)幹部なのか?〉

韓学長は「(記事内容の)事実はない」と関係を否定している。

記事が出た2日後の17日には、下関市議会の市出資法人特別委員会で、江原満寿男市議(共産)の同主旨の質問に対して、韓学長が事実無根と回答、虚偽告訴罪での刑事告訴を検討していると述べるやりとりもあった。

江原市議が「統一教会との関係があるのかないのか。会に入っていたのか。集会に参加していたのか。そういうことがあったのかどうか」と質すと、韓学長はこう答えている。

「韓国では統一教会は異端とされています。私は韓国でキリスト教徒として教会に通っていました。統一教会は、私は根から嫌っています。虚偽告訴罪に当たりますので、これはいま私も証拠を収集していまして刑事告訴をするつもりです。統一教会と私を結びつける斬新なアイデアをどこで持ってきたのかは私はわかりませんが、私の全ての経歴と生き方を全部調べていただければわかると思うが、この中で統一教会に一番遠いところに存在する人間です」。

近いうちに内部告発者との法廷闘争へと発展する可能性がありそうだが、韓学長には安倍元首相や下村博文元文科大臣との接点になりうる経歴がわかっている。

韓学長は韓国のウソン(又松)大学から琉球大学教育学部教授を経て下関市立大学の教授として採用されたのだが、そのウソン大学をこの2人の政治家が訪問していたのだ。

2016年10月1日の「てつ校長のひとり言」(福岡市にある中村調理製菓専門学校・中村国際ホテル専門学校「てつ校長」のブログ)には、大学訪問の様子がこう記されていた。

「私が泊めていただいた部屋の隣は安倍総理が5年ほど前に野党党首だった際、宿泊された部屋」「このときに後に文部科学大臣に就任される下村博文氏も来校されています。そして、安倍氏は構内を視察し、記念講演もされたそうです」。

こんな推論が浮かんでくる。それは「安倍元首相と下村元大臣がそろって韓学長が准教授として在職していたウソン大学を訪れているのだから、この2人の政治家との接点を活かして安倍派前田市長に食込み、下関市立大学の教授ポストを獲得したのではないか」というものだ。自民党最大派閥「清話会(安倍派)」幹部の政治力が働いたのではないか。

そこで韓学長に「安倍氏や下村氏と会ったり意見交換などをしたことはあったのか。あった場合、その内容を教えてほしい(下関市立大学での採用についての相談をするなど)」と書面で質問したが、「承知していない」という回答が返ってきた。

市大採用での政治力の関与を疑ったのは、不可解な採用決定過程のように見えたためだ。経済学部のみの単科大学である下関市立大学に突然、特別支援教育特別専攻科の新設と韓教授(当時)ら3名の採用が提案され、教授会の九割以上が反対したのに撤回されなかったのである。

文科省高等教育局大学振興課もこれを問題視しており、 2019年8月に「(採用について)学内規程に沿った適切な手続きをとること」を文書で助言したが、大学側は定款の変更で対応した。ルール違反と言われたのでルール自体を変えてしまおうと考えたわけだ。これに市議会で過半数を占める与党会派は賛同、市大の定款を変更する議案を賛成多数で可決してしまったのである。

これを機に経済単科大学として評価が高かった市大は激変していった。

2019年以降の3年間で教員の約3分の1(27名)が中途退職・転出し、2022年4月15日付の地元紙・長周新聞は「ここ数年は『日本で一番崩壊している大学』と評されるようになっている」と指摘。岩波ブックレット『「私物化」される国公立大学』にも同大学の教員有志が寄稿、「大学が『私物化』されるとはどういうことか」と銘打った第一章で実態を紹介していた。

そして、2022年1月には山口県労働委員会が大学側の行為(規程)を「不当労働行為」と認定した。2月23日付の長周新聞が「労働委員会が不当労働行為と認定 下関市立大学巡り組合との誠実な団体交渉を求める」として報じたのはこのためだった。

・下関市大に見えた〝アベ友優遇政治〞

そこで、「こうした大学側の行為が多数の中途退職者が出ている原因と考えていないのか」という質問を韓学長と前田市長に行なったが、いずれの回答も「退職者の個別の理由については把握していない」だった。

地元の記者も首を傾げていた。

「特別支援教育の新設専攻科には学生があまり集まらず、市大の“ドル箱”になってはいません。新設に伴って韓学長と関係があった職員も採用され、その人件費を学費で十分に補えない事態に陥っているようです。前にいた琉球大学でも定員割れだったと聞いていますが、前田市長がなぜ市財政の負担増となる異例の人事(韓教授らの採用)を推し進めたのかが謎なのです。

なお、他大学で採用されるほどの優秀な教員が市大から出て行く一方、下関市役所OBの砂原雅夫氏が特命教授(実務家教員)になるという珍しい人事がまかり通っています。市役所の退職者にとって市大は美味しい天下り先なのです」。

2020年2月1日には「下関版モリカケ問題を考える!“桜を見る会疑惑”&“下関市立大学私物化”シンポジウム」と題する集会が市内で開かれ、元検事の郷原信郎弁護士や文科省OBの寺脇研氏らがパネラーを務めた。

さらに郷原氏は、「『桜を見る会』の構図 下関市大の人事にも」(日経グローカル380号。2020年1月20日発行)という見出しの記事で、こう指摘した。

〈政治的な意図から、違法な教授人事と、公立大学を安倍首相直系の政治勢力の支配下に収めようとする策謀が進められようとしていることは紛れもない事実である〉。

安倍元首相が亡くなっても、モリカケ桜に代表される“アベ友優遇政治”は生き続けているのではないか。その典型的事例が、お膝元の下関市立大学のように見えてしまうのだ。

そして旧統一教会に対しても、自民党への選挙支援(信者の無償労働提供)を受ける一方で、高額献金を野放しにしてきたことは“アベ友(教団)優遇政治”といえる。こうした負の遺産をいかに清算するのかが、政治の緊急課題なのだ。

(月刊「紙の爆弾」2022年12月号より)

 

ISF主催公開シンポジウムのお知らせ(2023年1月28日):(旧)統一教会と日本政治の闇を問う〜自民党は統一教会との関係を断ち切れるのか

ISF主催トーク茶話会(2023年1月29日):菱山南帆子さんを囲んでのトーク茶話会のご案内 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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