強化される「国民監視」体制、デジタル庁発足から一年で何が起きたか?

足立昌勝

・デジタル庁「活動報告書」が誇る〝成果〞

デジタル庁は9月1日、発足1周年を迎え「活動報告書」を公開し、“成果”を誇った。この一年で、「着実に改革やサービスを前進」させたといい、次のように列挙している。

2021年9月1日 デジタル庁発足10月20日 マイナンバーカードの健康保険証としての利用開始
10月26日 ガバメントクラウドの対象となるクラウドサービスの決定
12月20日 新型コロナワクチン接種証明書アプリ/VisitJapanWeb運用開始
12月24日 デジタル庁発足後初の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の閣議決定
2022年4月27日 キャッシュレス法の成立
5月10・11日 独G7デジタル大臣会合への大臣の出席
6 月3日 デジタル臨時行政調査会「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」を策定
6月17日 デジタル田園都市国家構想推進交付金の交付決定

また、「業務推進や判断に必要な情報として、デジタル庁全体戦略」を定義し、次の三つの柱をもとに「組織的かつ効率的な業務推進」を行ない、「目指すデジタル社会の実現に向け、国民生活を支える公共サービス提供とインフラ整備を着実に推進」してきたという。

1.生活者、事業者、職員にやさしい公共サービスの提供―マイナンバーカードの普及、マイナポータルの改善、新型コロナワクチン接種証明書アプリの提供、事業者向けサービス・認証基盤の提供、府省庁向けオンライン行政サービス、キャッシュレス法の成立、地方自治体のシステム標準化の推進。
2.デジタル基盤の整備による成長戦略の推進―デジタル臨時行政調査会の推進、データ戦略、医療DXの推進、教育分野のデジタル化、こどものデータ基盤整備、デジタルインボイスの普及定着、デジタル田園都市国家構想の推進。デジタル改革共創プラットフォームの活用、デジタルの日の実施。
3.安全安心で強靱なデジタル基盤の実現―ガバメントクラウドの整備、ガバメントソリューションサービス、DFFTの推進。

しかし、この成果なるものには具体的な内容が含まれておらず、3つの柱とどのような関係にあるのかも不明確である。

「日経コンピュータ」2022年6月9日号は、「危うし、デジタル庁 1年たたずに課題山積」と題した特集記事の中で、「システムトラブルが止まらない」「『オープン・透明』に黄色信号」「自治体システム標準化に遅れ」などの課題を指摘している。

その通り、組織のあり方についても、これら重大な問題を抱えたままであるが、この活動報告書の内容は“デジタル社会”のあり方そのものには触れていない。

1年たっても、デジタル社会がいかなるものか、その具体像は見えてこないのだ。

Digital Agency established

 

・「デジタル社会」は権力側の無法地帯

筆者は「紙の爆弾」2021年6月号「『デジタル庁』による個人情報一元管理」の中で、同庁について、次のような危惧を表明した。それは克服されることなく、さらに深まっていると思われるので、要約して再録する。

デジタル庁の設置にあたり成立された“デジタル改革関連五法”は、「デジタル社会」が抱える危険、個人情報保護法のほぼ全面的改正、マイナンバーカードの紐づけ問題等、多くの問題を含んだ法案であり、特に個人情報保護法は全面改正に近く、新たな法律を制定するのと同様のものだった。

「個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることにかんがみ、その適正な取扱いが図られなければならない」との法案の「基本理念」は理念にすぎず、現実ではない。目に見えない社会を見えるように説明すること・規定することは困難であろうが、その法律で規制されるのは、この社会で生活するわれわれである。

News headline labeled “Personal Information”

 

この理念を実現するために列挙された基本方針に共通するのは、教育・人材育成、経済活動、社会生活の向上、データベースの構築等、デジタル社会における情報の国による一元管理を目指すことである。

デジタル社会をどのように定義づけたとしても、結局のところインターネット社会、サイバー社会であるといっても過言ではない。それは、コンピュータを媒介としなければアクセスすることのできない社会である。われわれが現に生活しているこの社会=市民社会とは全く異なるものだ。

市民社会には、基本的規律として憲法が存在するが、デジタル社会には存在しない。デジタル社会の基本を定める憲法なくして、デジタル社会の細部を定める法律などは存在するはずがないし、存在してはいけない。

憲法が存在しない現状で、デジタル社会を規律する法律を制定することは、制定者の恣意的意思で内容が定められる危険性がある。基本原則である憲法が最優先で作られるべきである。

デジタル庁の任務は、政府のデジタル関係政策の企画・調整、マイナンバーの普及、国・自治体・公共サービスを担う民間企業の情報システムの企画である。したがって、デジタル庁のもとには、民間企業を含め、膨大な情報システムが存在することになる。これにより、首相は公務員に対するだけではなく、民間に対しても強大な権力を持つことになるだろう。

個人情報の国による一元管理を可能にするとともに、マイナンバーカードの利用を促進するため、国はカードを多くの国家資格に紐づけようとしている。マイナンバーカードに可能な限り多くの情報を集約させ、個人管理を強力に推し進めているのだ。

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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