【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

国家安全保障戦略改訂の核心、「核ミサイル基地」にされる日本列島

若林盛亮

・起源は2017年のNSS改訂

岸田文雄政権が急ぐ「日米同盟刷新」を実現する国家安全保障戦略改訂は、当然ながら日本独自の戦略構想から出たものではない。

Protection concept: newspaper headline Security on White background, 3d render

 

その起源は、2017年末に行なわれた米国家安全保障戦略(NSS)改訂にまでさかのぼる。数年の歳月をかけて隠然と実体づくりが進められてきたものの総仕上げだ。

この時、トランプ政権下で改訂された米NSSの基本内容は、以下の2点に集約される。

①主敵を中ロ修正主義勢力とした
現国際秩序(米覇権秩序)を力で変更しようとする危険な修正主義勢力として、中国とロシアを「強力な競争相手」、主敵と規定した。ここから今日の対中ロ新冷戦体制づくりが始まったといえるだろう。

②「米軍の劣化」を認め、これを補う「同盟国との協力強化」を打ち出した
このNSS改訂に基づき「同盟国」日本への「同盟義務」圧力を米国は加え始めた。

当初、トランプ大統領は日本政府に駐留経費増額などの難題を突きつけながら「増額しないなら同盟解消」などと脅しをかけた。日米同盟維持を望むならもっと「同盟義務を果たせ」との伏線を張ったのだといえる。

「同盟義務を果たせ」の米国の本音は、駐留経費増額などにはない。自衛隊の抑止力化(攻撃武力化)、専守防衛という「盾」から「矛」への転換こそが彼らの本音だ。劣化した米軍の抑止力を補うことが日本の「同盟義務」である。つまり米軍の「矛」・抑止力の役割を自衛隊が補えということだ。

NSS改訂を受けて安倍首相(当時)は、2018年初頭の演説で「専守防衛は国是ではありますが…」と「厳しさを増す安保環境」を云々しながら「専守防衛見直し」に踏み込む意思を表明、それをこの年の末に閣議決定された新防衛大綱として結実させた。

この2018年の新防衛大綱で、自衛隊の装備面での抑止力保有が正式に決定され、米国の強要する「同盟義務」遂行の第一歩が開かれた。

Conclusion of negotiations Japan-US

 

その代表例が、「いずも」型護衛艦の小型空母化改修や、スタンドオフ・ミサイル(敵の射程圏外から発射)という長射程ミサイル、最新鋭ステルス戦闘機F35A・同B型の導入だ。

空母は専守防衛では保有が禁じられた攻撃型艦船である。にもかかわらず、対潜ヘリ搭載飛行甲板を持つ「いずも」型護衛艦の小型空母化改修の目的は、短距離離陸・垂直着陸型のF35B搭載を可能とすることだ。これは米海兵隊所有の敵前上陸の強襲揚陸艦「ワスプ」と同様の性能を持たせた攻撃型の小型空母を海上自衛隊が装備するということである。

当時、あるテレビ番組に出演した香田洋二元海将は、対潜水艦哨戒が基本任務の護衛艦に小型空母の任務まで加われば「国土防衛に穴が開く」と強い懸念を示した。

次の決定的な第二歩は、2020年6月。安倍政権下で「ミサイル破片の落下の危険排除に時間と費用がかかる」として秋田県への陸上イージス・アショア(ミサイル防衛網)配備撤回を決定するも、これに替わるものとして敵基地攻撃能力保有とそのための国家安全保障戦略の改訂を初めて打ち出したことだ。

当時、安倍首相は年内に国家安全保障会議(NSC)を開きこれを検討するとしたが、安倍氏の「体調不良」による政権放り投げに続く菅義偉政権ではこれを「一時棚上げ」にした。

米国は大統領選挙中のどさくさにあり、菅首相とこれを支えた二階俊博自民党幹事長が「対中包囲への参加は国益に資さない」とする姿勢を鮮明にしていたからだろう。まだ日本政治の立ち位置はそんなものだった。

米中新冷戦を前面に掲げたバイデン政権の登場、そして菅・二階を排除した岸田政権誕生で、改めて国家安全保障戦略改訂、敵基地攻撃能力保有が再浮上し今日に至る。

この経緯からは、安倍氏が強引にレールを敷き、菅・二階氏が政財界内部の動揺を表現し、「ハト派宏池会」岸田現首相が米国に屈するという日本政治の構図が見えてくる。このことは頭に置く必要があるだろう。

self defense classes in classified section of newspaper

 

・日本が核ミサイル基地となる危険

ここまで述べてきたように、岸田政権下で断行される国家安全保障戦略改訂は、安倍政権が推進した自衛隊の抑止力化の実体を合法化し、国家路線として確定する「日米同盟刷新」、日米軍事「統合」の最終仕上げだといえる。

国家安全保障戦略改訂の基本の一つは反撃(敵本土攻撃)能力保有だが、最も危険と思われるのは、日本が対中国・対朝鮮の中距離核ミサイル基地化されることだ。

Launching military rockets in the woodlands, war shot defense attack

 

2021年、米インド太平洋軍は「対中ミサイル網計画」として、日本列島から沖縄・台湾・フィリッピンを結ぶ、いわゆる対中包囲の「第一列島線」に中距離ミサイルを配備する方針を打ち出した。

米軍の本音は日本列島への配備だ。しかも計画では米軍は、自身のミサイル配備とともに自衛隊がこの地上発射型の中距離ミサイルを保有することも求めており、すでに防衛省は地上配備型の日本独自の中距離ミサイル開発を決めている。

2022年8月の新聞に「海上イージス艦に長射程弾搭載検討」という小さな記事が出た。また「長射程弾1000発保有」に向けた防衛予算が立てられている。

政府は「長射程弾」と表現をごまかしているが、この長射程弾というのは射程1000キロあるいはそれ以上の「中距離ミサイル」といわれるものだ。

対中ミサイル基地としては、南西諸島にすでに自衛隊の短距離対艦・対空ミサイル基地があるが、これらのどこかが中距離核ミサイル基地になるであろうし、日本本土の陸自基地にも米軍が望む配備が進むのは明らかだ。

バイデン政権はベトナムに続くイラク・アフガンの惨敗体験で米国民に広がる厭戦気運によって、欧州やアジアの戦争に米軍投入はできない。それは「ウクライナ戦争」で実証済みだ。

これとの関連で安倍元首相の持論である「米国との核共有」論を見ていくと、有事には自衛隊の地上発射型中距離ミサイルに米国の核を搭載できるようにするための論理ともいえる。

中距離ミサイル搭載の核は「戦術核」、「使える核兵器」といわれるものだ。あるテレビ番組で河野克俊前統幕長は「核を使えば相手国の10万、20万人が死ぬ」、その責任と覚悟を日本国民が持つべき時だとまで述べた。それぐらいの覚悟を同盟国として日本が示さないと、米国は核の拡大抑止・「核の傘」を提供してくれないというのがその理由だ。

自衛隊の反撃(敵本土攻撃)能力保有、その基本に中距離核ミサイル配備が置かれ、日本列島が対中朝本土攻撃のための核ミサイル基地になる方向に事態は動いている。

しかもそれを自衛隊に担わせるのが米国の狙いだ。これが「日米同盟刷新」、日米軍事「統合」のめざす核心であろう。

これにゴーサインを出すことこそ、国家安全保障戦略改訂の危険な本質だといえるのではないだろうか。

ウクライナは対ロ・ミサイル基地化を急ぐことによってロシアによる「先制的軍事行動」を引き起こした。日本列島の中距離核ミサイル基地化は「東のウクライナ」化への道を開くもの。自衛隊に対中代理戦争を押しつける、そんな「国益に資さない同盟義務」を国家路線として確定するのが今回の国家安全保障戦略改訂なのだ。

これに納得できる日本国民があろうはずがない。このような視点で、岸田政権が断行する国家安全保障戦略改訂阻止の議論が巻き起こることを、遠くピョンヤンの地にあって心から願っている。

(月刊「紙の爆弾」2022年12月号より)

 

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若林盛亮 若林盛亮

1947年生まれ。同志社大学で「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕。よど号赤軍として渡朝。「ようこそ、よど号日本人村」(http://www.yodogo-nihonjinmura.com/)で情報発信中。

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