【連載】塩原俊彦の国際情勢を読む

対ロ制裁によるロシア経済への影響について〈下〉:不勉強な日本のマスコミに喝

塩原俊彦

ロシアは毎年、3年間の連邦予算を制定し、それを毎年修正している。以前から、一部について公開せず、秘密にしてきた。2022~2024年予算における2022年予算では、歳出総額23.7兆ルーブルのうち、19.7兆ルーブルだけがその予算項目を明示されただけで、17%分は非公表だったという(https://www.vedomosti.ru/economics/articles/2022/09/29/943018-v-otkritoi-chasti-byudzheta)。

2023~2025年予算案の2023年予算歳出をみても、歳出総額29.1億ルーブルのうち、22.5兆ルーブルだけが公開されているだけだ。23%近くがベールに包まれていることになる。このため、国防費の全貌はよくわからない。

それでも、推計を試みることはできる。ロイター通信の独自調査(https://www.reuters.com/world/europe/surge-russias-defence-security-spending-means-cuts-schools-hospitals-2023-2022-11-22/)によると、ロシアは2023年予算の3分の1近くを防衛と国内安全保障に費やす予定で、ウクライナでの軍事作戦を支援するために現金を流用するため、学校、病院、道路への資金は削減されるという。

ロイター通信が作成した下図をみてほしい。2023年予算案のうち、国防費はわずか1%増の4兆9800億ルーブルになるにすぎない。その理由は、ウクライナ侵攻後、2022年予算が当初予定の3兆5000億ルーブルから今年3分の1増額されたからにほかならない。

一方、検察庁、刑務所、ウクライナに派遣されている国家警備隊などの業務を含む安全保障費は50.1%増の4兆4200億ルーブルとなるという。

ほかに、2023年の予算では、道路、農業、研究開発など「国民経済」への支出が23%減の3兆5000億ルーブルになる予定である、とロイター通信は伝えている。

 

ロシア連邦予算
ウラジーミル・プーチン大統領が2018年に最後に再選されて以降のロシアの予算歳出構成
(出所)https://www.reuters.com/world/europe/surge-russias-defence-security-spending-means-cuts-schools-hospitals-2023-2022-11-22/

 

なお、11月24日、下院は、2023~25年連邦予算に関する法律(予算案)を承認し、予算案は上院に送られた。予算の第2読会で750の修正案を受け取り、合計約2兆ルーブルを再配分したという。

いずれにしても、戦争が長引けば、ロシアの財政赤字は続くことになる。2023~2025年予算案では、財政赤字は今後3年間で徐々に減少し、2023年マイナス2.9兆ルーブル、国内総生産(GDP)比2%、2024年マイナス2.2兆ルーブル、GDP比1.4%、2025年マイナス1.3兆ルーブル、GDP比0.7%となっている。

それをカバーする主な財源は、公的な借り入れにならざるをえない。2023年から2024年にかけての予算均衡のため、前述した国民福祉基金(NWF)をそれぞれ2.9兆ルーブル、1.3兆ルーブル使用する可能性がある。

基金の規模は、2022年末に8兆9900億ルーブル(GDP比6.2%)、2023年に6兆3000億ルーブル(4.2%)、2024年に5兆9500億ルーブル(3.7%)、2025年に6兆6000億ルーブル(3.9%)に達すると予想されている。

ただし、これらの連邦予算見通しは楽観的シナリオに基づいている。NWFを使い果たせば、いわゆる赤字国債に頼らざるをえなくなり、急速なインフレに襲われる可能性が高まるのである。

いま日本は防衛費増額に舵を切り、国債によってその資金を捻出しようとする安直な議論が広がろうとしている。ロシアのNWFのような準備金制度の不備を特徴とする日本の場合、赤字国債乱発が国家財政破綻を引き起こす可能性を否定できない。

財政破綻は国家存亡の危機であり、まさに安全保障の根幹をなす。そうであるならば、財政健全化をはかってこそ、日本の安全保障議論がはじめて可能となるのではないか。ロシアの財政危機は日本の将来をも暗示しているように思えてならない。

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2023年9~10月に社会評論社から『知られざる地政学』(上下巻)を刊行する) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。

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