権力者たちのバトルロイヤル:第42回「ヒラリー復活」計画

西本頑司

・ハウス・オブ・カード

2022年2月のロシア・ウクライナの開戦以降、関連する情報をあれこれと調べてきた。当然、怪しげな情報にも触れることになるが、なかでも極めつきだったのが、「ヒラリー復活計画」だ。

2023年早々、あのヒラリー・クリントンが米大統領に就任するという計画である。

次回(2024年)の大統領選に出馬するという意味ではない。2022年10月に来日していたヒラリーだが、彼女自身、前々回の大統領選(2016年)でドナルド・トランプによもやの敗北後、表舞台での活躍は控えてきた。

London, England – November 10, 2016: British newspaper front pages reporting on the US presidential election result in which Donald Trump became the 45th president of the United States.

 

トランプが2024年の大統領選出馬に意欲を見せていることもあり、不人気のジョー・バイデン現大統領、カマラ・ハリス副大統領では「戦えない」と、民主党の周囲からは「リベンジマッチ」の期待が強まっていた。

しかしヒラリー自身、2022年6月、CBSのインタビューで「出馬はしない」と明言。また74歳と高齢の問題も抱えている。

そのヒラリーが、どうして2023年、大統領になるのか?

Saint Louis, MO, USA – March 12, 2016: Democratic presidential candidate and former Secretary of State Hillary Clinton campaigns at Nelson-Mulligan Carpenters Training Center in St. Louis.

 

その情報をたぐっていくと、荒唐無稽な陰謀論と切り捨てるには意外なほど蓋然性が高かったのだ。まずは、この陰謀論にお付き合いいただきたい。

この計画は「オペレーション・ハウス・オブ・カード」と呼ぶらしい。「ハウス・オブ・カード」は2013年、ネットフリックスが自主製作しエミー賞を受賞した政治ドラマ。2018年までにシーズン6が配信されてきた。

内容をかいつまんで説明すると、下院議員が謀略を駆使して副大統領を排除し、その後釜に座る。そして大統領に致命的なスキャンダルを仕掛け、メディアと国民を煽って弾劾裁判に持ち込み、大統領の座から追い出す。こうして「選挙戦」を経ずに大統領の座を射止めるというストーリーだ。

この内容を踏まえて「オペレーション・ハウス・オブ・カード」の具体的な内容は、以下となろう。

まず2022年11月の中間選挙で共和党の優勢が明らかとなり、バイデン政権の求心力が落ちる。その後、国民に不人気のカマラ・ハリスのスキャンダルが炸裂、辞任へと追い込まれる。

カマラ・ハリスは、政権発足時こそ有色人種かつ女性とあって「次期大統領候補」と目されていた。しかし夫がビジネスで中国共産党とベッタリという点と、なまじ女性副大統領として目立った結果、「自己アピールするしか能がない」と民主党内でもすでに見切られている。事実、次期大統領候補の調査で支持はわずか2%だ。

そのハリスを政権から追い出す。そして死に体のバイデン政権を支える強力な「副大統領」として登場するのが、もうおわかりだろう、ヒラリー・クリントンという筋書きなのだ。

この11月に80歳の大統領となったバイデンは、ドラマ同様に翌年早々、「新型コロナ」に感染するなどして病気を理由に退任。こうしてヒラリー・クリントンが、その後を継ぐというのが、先の計画の骨子となる。

・バイデンが無能な理由

ここで重要なのは、計画発動のスイッチとして中間選挙の「敗北」をあらかじめ織り込んでいる点なのだ。

2022 Election message written over rippled American flag. Horizontal composition with copy space. Front view. 2022 US Midterm Elections Concept.

 

国民の支持の低かったバイデン政権は、総選挙となった下院では、民主党221対共和党212、3分の1が改選の上院は民主党51対共和党50と拮抗していた。しかも選挙の焦点は「アメリカ国内のリセッション(景気後退)」。これが致命的となりそうなのだ。

10月13日に発表された消費者物価指数では、前年同月と比べて8.2%増と40年ぶりという水準で米国内のインフレは加速し続けている。

Groceries, Retail, Stock Market Data, Moving Up, Growth

 

バイデン政権は2022年3月、FRB(連邦準備理事会/日銀に相当)に金融引き締めとインフレ沈静化を強く要請したが、まったく効果がないどころか、「遅すぎた」公定歩合の引き上げで単に株価が暴落しただけという無能ぶりを見せ、「民主党大敗北」もありえる情勢となっている。もし大敗北となれば、バイデン政権は完全にレームダック(死に体)となる。

ウクライナ戦争の対応を抱えた状態で死に体政権となれば、アメリカの国益を大きく損ねかねず、ならばいっそ、民主党内における支配力と政治実績を持つヒラリーに大統領選までの「暫定政権」を委ねるプランは、ある程度、国民に受け入れられる可能性は高い。

Vector map. The disputed territories of Ukraine.

 

荒唐無稽な計画どころか、意外に信憑性が高そうな“陰謀”と思えてこよう。この計画が水面下で動いていたから、8月9日、ドナルド・トランプのFBI強制捜査が起こったとも考えられるのだ。

さらに付け加えれば、前回の大統領選(2020年)でヒラリーが出馬しなかったのも、当時、コロナ禍の対処などで誰が大統領になろうと社会混乱とインフレの加速、景気後退は目に見えていた。その露払いを忠臣のバイデンに押しつけ、中間選挙で民主党の“みそぎ”をすませた後、ヒラリーがフレッシュな暫定大統領となって颯爽と登場する。その予定だったならば、出馬を見送ったのも納得がいこう。

暫定とはいえ女性大統領が登場すれば国民の期待が高まる。そこで就任演説で不況の原因を「独裁者プーチンと悪逆なロシアの暴走」と決めつけ、次期大統領が決まるまで、「挙国一致で対処しよう」とアピール、アメリカ国内を「まとめる」というわけだ。

とくにヒラリーは大手メディアや米ビックテックといったメディア情報産業と深い関係にあり、世論誘導に長けている。

ドラマ「カード・オブ・ハウス」でも、ヒラリーが敗北後の2017年に配信となったシーズン5から、大統領夫人だった妻が「大統領になる」までを描き、夫の大統領は退任後、あっさり「死亡」しているのもなかなか意味深ではないか。

 

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西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

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