【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第4回 犯人には同居人がいる

梶山天

茨城県警の捜査1課長の話では、遺棄された状況をよく見ると、その手前に大きな木が横たわっていることから、もしかしたら犯人は遺体を抱えて足場が見えないで降りていったところ、木に足がひっかかって、そこで遺体を落としてしまったとすればよく説明できる、と話していたが、見事な推理だと本田元教授は思ったという。当時は12月でやや寒い日であったことを考えると、気温も低く、犯人は少しでも早くそこから立ち去りたかったのでは、ということが読み取れる。もしも用意周到に死体を遺棄するとすればもっと場所を選び、土を掘って埋めればいいだけのことである。そうなると、遺体は未発見、あるいは、発見されても傷んでしまっていて、死体はあまりにも無計画であるとしかみえないばかりか、あまりにもあわてて遺体を遺棄している。もしかしたらここにこの事件の謎を解く鍵が潜んでいるように思えたという。

本田元教授は解剖してから少なくとも5回以上は現場に足を運んで、死体状況と現場の状況を重ね合わせてきた。法医学者はあまり現場の状況に興味を持たないことが多いが、解剖室には現場は運べない。したがって、正しい鑑定には未解決事件ほど現場に何度も足を運び、犯人の行動からその心を読み取ることは大変大事な作業である。これと死体所見を合わせた交点に、真犯人が浮かび上がる、というのは教授の信念だった。

発見された遺体はその後、茨城県警大宮署で警察官による検視が行われた。これには、栃木県警も立ち会い、遺体の全ての部位からサンプルを採取し多量のDNA鑑定用の試料が採取されたという。そしてDNA鑑定は茨城県警ではなく、栃木県警でやることに決めたという。これは性犯罪が想定されたからであったが、このとき遺体に付着していた犯人逮捕に極めて重要な証拠物件を栃木県警が持って帰ったことを、解剖の時には教授には知らされていなかった。翌日の司法解剖には、栃木県警の検視官の立ち会いはわずか1人。死因は解剖するまでもなく、明らかで、遺体に関する試料は栃木県警は全て持ち帰っていたせいか、あまり関心がないように思えたのは錯覚ではなかったようである。というのは、それから容疑者が捕まるまで、解剖に関する問い合わせはまったくなかったからだ。

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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