【対談】 小坂浩彰(NGOレインボーブリッヂ事務局長)×木村三浩(一水会代表) 政府とエセ保守勢力による「拉致問題」利用の大罪
政治・われわれは何をすべきか
木村:私はこの間、元駐レバノン日本国特命全権大使の天木直人さんと、豊臣秀吉の朝鮮出兵で殺された朝鮮の人々の、日本国内にある耳塚・鼻塚の鎮魂供養を進めています。われわれ日本人の呼びかけで、総連と民団の方々が一緒になって、三者で供養する。これも、環境整備の一つです。
小坂:木村さんや天木さんがやっておられるのが客観的環境整備とすれば、私は元来、主観的な人間なので、現場で相手が誰と呼応するかを具体的に決める、そういう役割というところですね。それはさておき、若い人に歴史を知らせる意味でも、耳鼻塚供養というのは理にかなっていると思います。
木村:われわれの感覚からすれば、歴史のなかで祀らわれざる人たちを一所懸命に鎮魂するというのは、われわれの主義に適っているわけです。
小坂:歴史でいえば、日本と朝鮮というのは、秀吉以降も江戸時代の朝鮮通信使など、非常に親密な時期もあります。そして現在、日本と韓国の若者がポップカルチャーでともに盛り上がっている。ただし現在の若者は、過去の歴史に関係なく、「カッコいいじゃん」と、それでイキイキしています。彼らを見ていると、過去のしがらみは切って捨てるのも一つの方法かもしれない。「日本が悪い、韓国が悪いなんて、こんな話やめよう」と。それもアリなのかな、という気もしてきます。
木村:2000年に金大中大統領が、そういうことを言っていました。
小坂:日本製のCDも金大中政権のときに、韓国で売れるようになりましたよね。こういう議論を、いまZ世代と言われているような人も混ぜて、行なわなければいけないのでしょう。正直に言えば、こんな昭和のジジイ2人で話しているだけではダメなんです(笑)。
木村:いや、まずジジイがしゃべって、基本的なラインを提示する。そのあと、若い人の柔軟な感覚を求める。「ジジイの考えをどう思うか?」と、聞いてみたいですね。しかし、拉致問題というのは、若者にとって自分の生活とどうリンクするかがイメージしづらいかもしれない。だからこそ、よけいなチャチャを入れられないので、「取り返す」と言っとけばいい、という状況が生まれるのかもしれません。
小坂:拉致被害者が死んでるか生きてるかのウラも取れませんからね。思考停止ですよ、今の状況は。
木村:一方、北朝鮮の人々についてはどういう印象をお持ちですか。
小坂:私が思うのは、人間が純真であるということは間違いありません。政治体制は極めてファシズム的だけれども、軍国主義を含めて、さっき連絡網を例にとって言ったように、北朝鮮の置かれている立場がそうさせているということを知るべきでしょう。やむをえずやっているところはあると思う。私は、ああいう仕組みの国が、もし発展すればどうなるのかを知りたい。むしろ応援すればいいと思っています。体制が違う国の一つの見本として。
木村:民主主義的な国家が標準で普遍だ、というのはアメリカの論理にすぎません。
小坂:中国にしてもそうでしょう。国が発展するうえで、それぞれ独自のやり方があるわけです。われわれからすると、北朝鮮の政治体制は理不尽だと思うかもしれません。しかし、それはそれで勉強してみればいいのではないでしょうか。
木村:朝鮮の自主独立、そういう哲学は尊重すればいい。それがないために、問題が解決した先の話というのが、まったく見えてこない。解決したらどういうことがあるのか、国交を結んだ先に、どんな未来が描けるのか。
小坂:日本にとっても、まずアジアの平和が築けるということが大きいわけで、平和じゃないことを好む国や人たちがいるからおかしくなるわけです。
木村:その通り。脅威を煽り、国家間の対立構造を温存することで利益を貪っているのがアメリカの軍産体制じゃないですか。日本もいま、対米従属・翼賛体制の数歩前なのです。
小坂:日本でも「敵基地攻撃能力を持つべき」といった主張が幅を利かせつつある。もしそれをするなら、最終的には核を持たなければなりません。日本が攻撃能力を持てば、相手もこちらを脅威とみなすでしょう。日本国内に米軍基地が130カ所(うち81カ所は米軍専用基地)もあり、北朝鮮は有事になれば日本の米軍基地を攻撃するとハッキリ言っている。そうなれば日本は火の海になっても、アメリカには何の痛痒もない。そこまで腹を据えて言っているのか。そもそも、北朝鮮も韓国も、侵略戦争を一度もしたこともない国です。金王朝が恐れているのは、侵略されることなんです。
木村:一度、植民地になっていますからね。さて、北朝鮮という国のポテンシャルについては、どうみられますか。
小坂:人口は約2200万人ですが、地下資源が豊富で、かつ地政学からいっても日本からすると重要なところにあります。たとえば北朝鮮に物流基地を置けば、ユーラシア大陸を繋ぐ拠点としてとても便利です。また、やはり教育が行き届いているから、秩序が乱れない。そういうインフラ、ようするにソフトインフラも整っていると思うんですね。
木村:秩序立った国民性は、むしろ日本人と相性が良いかもしれない。
小坂:極めて実直ですからね。ただ商売のルールをまったく知らないので困るでしょうね。「利益を付けて売ることは罪悪だ」と思っているから(笑)。
木村:しかし、現在の指導者は若いころに海外留学を経験していますから、国民を富まし、民生を向上させようという意志があるように見えます。北朝鮮版の“富国強兵”というところではないでしょうか。そして、国家の自立と、防衛を担っていこうとしているのでしょう。したがって、同国を取り巻く経済制裁を解除し、ソフトランディングさせることで、普通並みの国家になっていくのではと思います。20年前の韓国の太陽政策を批判して、「北朝鮮は北風で倒れる」といった論が飛び交いましたが、実際には倒れていません。そろそろ日本も独自の戦略を考えた方がいいと思います。
(月刊「紙の爆弾」2022年2月号より)
株式会社鹿砦社が発行する月刊誌で2005年4月創刊。「死滅したジャーナリズムを越えて、の旗を掲げ愚直に巨悪とタブーに挑む」を標榜する。