【特集】日本の安保政策の大転換を問うー安保三文書問題を中心にー

「専守防衛」と「全方位・アジア重視外交」の原則を変えてはいけない 中国敵視の「安保戦略」閣議決定を撤回せよ

日本の進路編集部

岸田政権は12月16日、外交・防衛政策の基本方針という「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を閣議決定した。「敵」基地攻撃など、わが国政府の外交・防衛政策の歴史的大転換である。明らかに憲法違反で、しかも先制攻撃で国際法違反になりかねない。こうした重大な決定が国会を完全に無視して強行された。

敵基地攻撃の「抑止力」強化で、平和を確保することはできない。アメリカの対中国包囲網、戦争政策の最前線に立たされ、不測の軍事衝突がいつでも起こり得る。際限なき軍拡競争となり、アメリカから大量の武器を購入し、国民は軍事費負担に耐えられない。新たな「戦前」を引き寄せてはならない。

中国敵視の安保関連3文書閣議決定の撤回を強く求める。

・外交・防衛政策 歴史の経験と教訓

安保3文書は、▽「国家安全保障戦略」(NSS)▽「国家防衛戦略」(NDS)▽「防衛力整備計画」の3つ。NDSはこれまでの「防衛計画の大綱」を改称したもので、米国防総省の戦略文書と同じ名称にすることで、日米の戦略的な一体化を促進する狙いとみられる。

わが国戦後の安全保障政策は、NSSの前身である「国防の基本指針」(1957年5月)や同年9月の「外交3原則」で定められた。そこには国連を中心に世界平和をめざし、仮想敵国を持たずアジア重視の全方位外交、防衛力は専守防衛(その後防衛費はおおむねGDP1%以内、「非核三原則」も)などの原則が貫かれていた。従属的関係の日米安保体制に縛られていたが、それでも過去の侵略戦争の反省に立ち、ないがしろにされてもきたが「平和主義」の憲法の下に成り立ってきた。

この70年近くに国際情勢は激変した。冷戦の一方のソ連は崩壊し、中国やASEAN、インドは劇的な発展を遂げ、他方アメリカは衰退した。しかし、冷戦激化のさなかも、冷戦終焉後もわが国安保政策の基調には対米従属の枠内とはいえ、変化はなかった。

むしろ体制が異なり敵対関係にあった中国とも国交正常化を実現し平和共存に導いた。田中角栄首相の決断とはいえ、アメリカの政策変更なしには困難だった。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮労働党)とも1990年、政権党である自民党は社会党(当時)と共に国交正常化を合意し、2002年小泉政権も国交を約束するなど、関係安定が試みられた。これらはいずれもアメリカに止められた。安倍晋三首相はトランプの懐に飛び込みながら、ロシアと「未来を共にする」関係を築こうとした。

このようにわが国の安保政策は対米関係に縛られながらも、「敵」をつくらない全方位外交と専守防衛の自衛隊を基本に進められてきた。

2013年、第2次安倍政権は「かつてないほどパワーバランスが変化」したとの認識の下に、「国家安全保障戦略」を定めた。14年には集団的自衛権行使容認を閣議決定、15年には法改正(戦争法、安保法制)も行われ、日米安全保障ガイドラインも改定された。それでも「敵」基地攻撃などは決められず、軍事費GDP1%枠もそのままだった。

日米安保条約、米軍に守られ日本は安全だったと言う人もいる。だがウクライナ戦争で米国は自国優先でロシアとの戦争を恐れウクライナを守らず、日米安保を信奉してきた人びとの中にも疑心暗鬼が広がる。日米安保体制は、むしろベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争と、日本が米国の戦争に協力・加担させられるテコになっただけだった。

沖縄県民は日本復帰後も日米安保の下で塗炭の苦しみの中に今もあり、むしろ再び戦場かと恐怖に怯える。首都を今も米軍基地が包囲散在し、空は米軍管制下でわが国の自由にならない。これで日本の安全が守られたというのか。

戦後の「『敵』をつくらない全方位・アジア重視の外交と専守防衛原則」の堅持こそ、わが国の安全保障の基本となるべきである。米国に依存せず対米自主で、アジア近隣諸国と平和協力の関係こそ築くべきである。

・強大化した中国を「敵」にしない自主の政治が必要

安保3文書の要点は――

①中国については「深刻な懸念事項」「これまでにない最大の戦略的な挑戦」。台湾は、「極めて重要なパートナー」。朝鮮は、「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」

②5年で約43兆円の防衛費、うち5兆円ほどで「敵」基地攻撃能力を確保(米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得、自衛隊の輸送機や潜水艦に長射程ミサイルを搭載)

③敵基地攻撃は「日米一体で」、司令部の統合強化

④南西諸島方面の機動的防衛力を整備

⑤サイバーから宇宙まで統合的な作戦能力

⑥弾薬などの備蓄を増やして戦闘継続能力増強

――といった内容である。「中国は脅威」との規定は公明党への配慮で入らなかったようだが、言葉を「深刻な懸念事項」と言い換えたにすぎない。

自民党内の議論はもっぱら「財源論」だった。もちろん借金財政のわが国で財源問題は極めて重要だ。歴史に照らして軍事国債など論外だし、生活困難な国民への増税・負担増も認められない。

だがまず、そもそも中国が「深刻な懸念事項」なのか、ならば「敵基地攻撃」が必要で効果的なのか、という本質的問題の検討が必要である。

・これまでは「懸念事項」も外交で解決してきた

中国の「重大な戦略的挑戦」の根拠として、東・南シナ海問題や台湾統一での武力行使問題などを挙げている。どの問題も重要な問題である。政府やマスコミは、国民の間にあるウクライナ戦争が引き起こした戦争への不安感、「国を守る」危機感を巧みに利用し、3文書も一方的に中国脅威をあおっている。

日中間の懸案は尖閣諸島問題と言われる。確かに石原慎太郎当時都知事の「買い取り」策動などに端を発する国有化で、国交正常化時の「事実上の棚上げ」合意を反故にするかの動きがあって、一時不安定化・緊張したのは事実である。しかしそれすらも2014年、安倍首相の下で4項目の基本合意ができて安定してきた。

日中の漁業協定もあり、事態安定化に役立っている。日本の海上保安庁も水産庁もきちんとそれを執行している。マスコミを賑わす問題を引き起こしているのは、「漁船」を装う一部の右翼活動家だけだ。それを口実に自民党やマスコミなどが「中国の脅威」の見本かのように騒ぎ立てる。ウクライナ戦争が機運を加速した。1972年の、田中角栄首相と周恩来総理の対立にしない「棚上げ」と呼ばれた知恵に学ばなくてはならない。それが国を愛する政治家の責務である。

台湾については、中国共産党大会で武力統一方針を決めたように言われるが、まったく為にする作り話だ。中国は平和統一の原則を変えたわけではない。

バイデン大統領もたびたび口にするが、アメリカが「台湾独立」をあおり、中国に武力介入させる「有事」をつくり出そうとしている。菅首相以来の日本政府もそれに呼応している。アメリカは高みの見物で、日中衝突の危機だ。まさに、東アジアのウクライナだ。

わが国がこの危機から逃れるには、台湾についても72年の合意を誠実に守ることだ。

 

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月刊『日本の進路』(毎月1回、1日発行)、発行人:加藤 毅、発行所:「自主・平和・民主のための広範な国民連合」

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