「専守防衛」と「全方位・アジア重視外交」の原則を変えてはいけない 中国敵視の「安保戦略」閣議決定を撤回せよ
政治・「台湾は極めて重要なパートナー」とは何事か
ところが非常に重大な問題はNSSが、台湾を「基本的な価値観を共有する極めて重要なパートナー」としたことだ。萩生田自民党政調会長は、3文書閣議決定直前の12月10日にわざわざ台湾を訪問し「パートナー」と称えた。ペロシ米連邦下院議長がそうだったように中国政府にケンカを売りに行ったと言える。
一昨年の日米首脳会談で菅政権は、1969年以来初めて台湾問題に踏み込んだ。それでもこのときはまだ、「台湾海峡の平和と安定が重要」としたにとどまった。今回は、台湾自身について、国家安全保障の「極めて重要なパートナー」と断定する。
この決定は、「台湾は中国の領土の不可分の一部」との日中国交正常化時の約束を完全に反故にする暴挙だ。台湾問題は、中国の最も敏感な問題だ。これでは日中両国関係は後戻りできないところまで追いやられる。
日本はアメリカと共に「台湾有事」をつくり出す側に立つことになる。これは侵略・植民地支配の反省に立ったわが国戦後史の完全な否定でもある。今からでも遅くない。岸田首相は撤回すべきだ。自公与党の良識ある政治家たちはそれを迫るべきだ。
わが国の隣国関係は、基本的に政治、とりわけ侵略・植民地支配の反省の上に、自主外交で解決できる問題だ。中国も韓国も朝鮮も「敵」ではなく、大切な隣人だ。これまで懸案は外交で解決してきたし、これからもそうである。わが国の政治姿勢にかかっている。
・「敵基地攻撃」で対抗は米国の策略
「敵基地攻撃」では国を守ることはできず、敵をつくるだけだ。
中国の軍事費が急増し、軍事大国となったことが脅威として語られる。だが、国土が広く国境も長く、経済も驚異的急成長、しかも、人口も多い国だ。中国の人口一人当たり軍事予算は、米国の10分の1以下、日本の半分以下にとどまる。
中国にしても朝鮮にしても、事実上「敵」と扱われた国々は、当然にも対抗を強める。わが国と対立する「意図」を持つに至って、本当にわが国の「脅威」となる。
ミサイル迎撃が難しくなったので、発射前に、「相手領域」を攻撃するという。だが、ミサイルは発射されて一定時間経過しないとどこに向かうか判明できない。だから、「先制」しない限り防げない。敵基地は、相手国本土にあり、そこを攻撃することになる。相手もミサイルで対抗する、双方、相手国本土基地へのミサイルの撃ち合いだ。日本側は、ミサイルを集中配備する南西諸島だけでなく、米軍、自衛隊の基地のあるところどこでも攻撃対象となる。国民に多大な犠牲が避けられないが、そんな説明はどこにもない。
まったく「抑止力」にはならず、むしろ戦争を引き寄せる。際限ない軍拡競争になる。最後は核保有ということになる道に踏み込んだ。
NSSでは日米同盟、すなわち米国の核の傘、拡大抑止のいっそうの強化が謳われる。すなわち、わが国の運命はアメリカにますます決定的に握られる。逃れられないが、アメリカが日本を守る保証はまったくない。不安からか、安倍元首相や日本維新の会のように「核共有」などと言い出す。
しかも、背伸びをした軍拡路線は膨大な軍事費負担を伴う。岸田首相のGDP2%提案でいくとわが国は世界第3の軍事大国となる。世界、とりわけ歴史の経験を持つ東アジアの国々が身構えるのは当然だ。
力の衰えたアメリカの策略は、ウクライナでウクライナ人をロシアと対立させ戦争をさせているように、アジア人同士を戦わせ犠牲にして、自らの覇権を維持することだ。しかも、武器を大量に売りつけ大儲け、自らは傷つかない。
そんな米軍との一体化で戦争になりかねない道を歩むなど時代錯誤も甚だしい。
敵基地攻撃のような軍事力での「抑止」は不可能で、国を誤らせるものだ。
・経済は破綻、国民は飢えに苦しむ
他方、経済的に苦しいわが国国民も生きていけない。そうでなくても教育費も不足し、急速に進む技術革新の世界で立ち遅れる。
むしろ「経済安保」は、日中と東アジアのサプライチェーンを分断して、日本経済はもちろん、世界経済も大打撃だ。わが国大企業が存立を脅かされる。NSSは、「自由で開かれた国際秩序が死活的に重要」だと言う。ならば、サプライチェーン分断に反対すべきだ。
そもそもわが国は、食料も自給できず、エネルギーもない。国土も狭く、高齢化が急速で、しかも、原発が全国の海岸線に林立する。戦争ができる国ではない。NSSは、「食料安全保障の強化」を言うが、政府の2030年目標でも45%しかない。絵に描いた餅で空腹を癒やしミサイルに耐えろというのか。
・世界はすでに変わった。中国や韓国、ASEANやインドと共に
そもそも今日は、BRICSやASEANなどの国々が、自立と平和、貧困脱出・発展を求めて大きく登場する世界である。わが国の生きる道、展望はここにある。侵略・植民地支配の「大東亜共栄圏」の暗い歴史を持つわが国には夢のような世界ではないか。
中国をはじめ近隣諸国は敵ではないし、敵にしてはならない。日中首脳会談、さらに12月の林外務大臣の訪中を踏まえ、日中首脳の交流が深まり、また、国民間の、とりわけ青年の友好交流が深まるよう努力しなくてはならない。
3文書閣議決定は、わが国を亡国に導く、重大な歴史的転換だ。にもかかわらず、直前わずか6日前に閉会した国会で政府は、「検討中」と曖昧な答弁に終始した。国会軽視も甚だしい。平和の危機は民主主義も危機である。
どの党も、いかなる政治家も、歴史の審判に耐え得る選択に責任を持たなくてはならない。
平和と発展を願う国民の皆さんに訴える。アメリカの中国敵視・包囲網形成に反対し、対米自主、平和・アジアの共生をめざして壮大な戦線形成に共に立ち向かおう。
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月刊『日本の進路』(毎月1回、1日発行)、発行人:加藤 毅、発行所:「自主・平和・民主のための広範な国民連合」