【連載】岩田昌征が読み解く国際情勢

第3回 死せる孔明生ける仲達を走らす―ブレジンスキー対プーチン―

岩田昌征

今日、全世界が眼前に目撃する露宇戦争、すなわちプーチン侵略は、社会主義ソ連と社会主義ユーゴスラヴィアの解体、それに続く資本主義移行期のロシア連邦と新ユーゴスラヴィア(セルビアとモンテネグロからなる連邦国家)が北米西欧の外圧に直面しつつ、新しく安定し自分達に適合した国家構造を追求する過程で生起した一大悲劇である。

新ユーゴスラヴィアの場合は、すでに二十余年前、1999年にNATO=北米西欧市民社会の軍事力による78日間にわたる大空爆戦争、すなわちクリントン侵略を経験していた。

これら二つの解体と二つの戦争を分析する際に、アメリカの地政戦略家、カーター大統領の国家安全保障問題担当補佐官ズビグニェフ・ブレジンスキーの政略・軍略を想起する必要がある。特にクリントン侵略の時のタカ派リーダーアメリカ国務長官マデレーン・オルブライトは、ブレジンスキーの直弟子である。

3d illustration of national flag with background texture

 

ブレジンスキーの旧ユーゴスラヴィア工作を具体的に例示する。1978年8月13日から19日までスウェーデンのウプサラで第9回社会学者世界大会が開かれた。全世界から5000人を超える社会学者が参加した。旧ユーゴスラヴィアからも50人ほどの社会学研究者が参加した。

大会直前に一定数のアメリカ人社会学者を集めてブレジンスキーは、秘密会合を開き、そこでアメリカ政府のソ連東欧政策についてレクチュアした。その一部、対ユーゴスラヴィア政策に関する部分をユーゴスラヴィア連邦構成共和国クロアチアの内務省公安部が入手していた。

Душан Вилић、Бошко Тодоровић、РАЗБИJАЊЕ JУГОСЛАВИJE 1990-1992、Бeоград、1995、pp.102-104とRAIF DIZDAREVIĆ OD SMRTI TITA DO SMRTI JUGOSLAVIJE SVJEDOĆENJA Sarajevo、1999、pp.428-429

以下に要約整理して紹介する。

(1) ソ連に抵抗する力としてユーゴスラヴィアの中央集権勢力を支援するが、同時に共産主義の「天敵」である分離主義的・民族主義的諸勢力すべてに援助を与える。ソ連におけるロシア人とウクライナ人、ユーゴスラヴィアにおけるセルビア人とクロアチア人、チェコスロヴァキアにおけるチェコ人とスロヴァキア人の間の緊張と不和が物語るように、民族主義は、共産主義より強力である。

(2) ユーゴスラヴィアにおける反共産主義闘争においてマスメディア、映画製作、翻訳活動など文化的・イデオロギー領域に浸透すべきである。

(3) 共産主義的平等主義に反対する闘争においてユーゴスラヴィアにおける「消費者メンタリティ」を一層刺激する必要がある。

(4) ユーゴスラヴィアの対外債務増大は、将来、経済的・政治的圧力手段として用いることができる。それ故、ヨーロッパ共同体諸国の対ユーゴスラヴィア新規信用供与は続けられるべきである。債権者にとって一時的にマイナスであっても、それは、経済的・政治的措置によって容易に補償される。

(5) ユーゴスラヴィアの様々な異論派グループをソ連やチェコスロヴァキアの場合と同じやり方でシステマティックに支援すべきであり、彼等の存在と活動を世界に広く知らせるべきである。必ずしも、彼等が反共産主義的である必要はなく、むしろ「プラクシス派」(チトー体制を左から批判していたユーゴスラヴィアのマルクス主義哲学者グループ:岩田)のような「人間主義者」の方が良い。この支援活動でアムネスティ・インターナショナルのような国際組織を活用すべきである。

(6)Xデイ(チトーの死)の後に、ユーゴスラヴィアの「軟化」(強調は岩田)に向けて、組織的に取り組むべきである。民族間関係が主要ファクターである。ユーゴスラヴィア共産主義者同盟(SKJ)とユーゴスラヴィア人民軍(JNA)がユーゴスラヴィア維持の信頼できるファクターであるのは、チトーが生きている限りである。SKJは、すでに政治的独占を失っているし、JNAは、外的には強いが、内部からの攻撃には弱い。全人民的防衛体制は、諸刃の剣である。

たしかに、1990年代の旧ユーゴスラヴィア多民族戦争の勃発からNATO大空爆を経て、2000年10月5日のセルビア民衆によるミロシェヴィチ打倒の大衆暴動に至る歴史的事実を目撃した後で、ブレジンスキーの政略軍略を読み返すと、その適格さに納得する。1999年NATO大空爆という大軍事力行使も1978年以来の文明力工作があってはじめて有効となったのである。

 

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岩田昌征 岩田昌征

千葉大学名誉教授、専門:経済体制論

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