帝国のプロパガンダ装置としての『ニューヨーク・タイムズ』② ―構造化しているCIAや「安全保障国家」との癒着―
国際「自由に対する格別の危機は、報道機関のメンバーが政府の腐敗行為を監視して暴露するのではなく、政府機関と共謀する際に生じる。不幸にも共謀は、安全保障国家(the national security state)の活動に関する報道であまりにも一般的パターンだ。米国民はそれゆえに、誠実な報告や分析を装った公的なプロパガンダを受け取っている」(注1)。
これは、米国のシンクタンク「ケイトー研究所」(Cato Institute)のテッド・カレン・カーペンター上級研究員が2021年3月9日に、「いかに安全保障国家はニュース・メディアを操るか」と題し、同研究所のインターネットサイトで発表した記事の冒頭部分だ。
同研究所は「小さな政府」や「個人の自由」、「対外不介入」を主張する「リバタリアニズム」と呼ばれる潮流を代表している。
ここでいう「安全保障国家」は、広義には軍産複合体という用語に近く、軍・諜報機関が圧倒的比重を有して国家に君臨している形態を指す。それは世界の戦争や紛争、緊張、介入を常態化させ、同時にそれを正当化あるいは隠ぺいするための「プロパガンダ」が欠かせない。
そしてカーペンター上級研究員は、その任を一見国家とは乖離しているかのような民間の「報道機関」に負わせている構造に警告を発している。
さらにカーペンター上級研究員は、「ほとんどの主流メディアが、CIAや安全保障国家の他の機関によって提示されたシナリオを拡散している例がいかに多いか」とも指摘しているが、今日のウクライナ戦争などはまさにその典型だろう。
米国(そして日本や欧州)の「主流メディア」が振りまく言説(すなわち「プロパガンダ」)は「安全保障国家」のそれとほぼ同一であり、前者に後者をチェックするような機能はほぼ期待薄だ。
しかも日頃「安全保障国家」に対しては批判的であるかのような印象の「平和勢力」や「リベラル派」が、ウクライナ戦争に関しては「ロシア=悪、ウクライナ=善」という二項対立の図式に固執し、「安全保障国家」と歩調を合わせているという今日の現象は、「プロパガンダ」の効果なのだろうか。
「モッキンバード作戦」の発動
問題は「報道」に接することで、結果的に世論が「安全保障国家」の「公的なプロパガンダ」に誘導されているという今日の構造であり、それは冷戦初期から今日まで基本的に一貫して存続している。
それほど米国の主流メディアの「共謀」は歴史的に根が深く、国民が「誠実な報告や分析」とは無縁である「報道」に日々影響される弊害は著しい。そしてそのような構造の起源をたどると「モッキンバード作戦」(Operation Mockingbird)と命名されたCIAの秘密工作から始まっている。
今日、ウクライナ戦争で全盛を極めている「主流メディア」の報道という名の「共謀」と「プロパガンダ」の乱舞は、冷戦期におけるこの諜報機関の秘密工作の延長上にあるのだ。
「モッキンバード」とは北米に生息するマネシツグミの一種で、ピアノや車のクラクションといった多様な音を真似て鳴く奇妙な習性がある。「安全保障国家」の意図を報道機関がそのまま拡散するよう期待しての命名と思われるが、マネシツグミと違って裏工作なしに報道機関が自ら「音源」に忠実になるのではない。
この「モッキンバード作戦」の存在は、1963年から1991年まで『ワシントン・ポスト』紙の発行人だったキャサリン・グラハムの伝記である『Katharine the great: Katharine Graham and Her Washington Post Empire』が1979年に発行されてから、初めて明るみに出た。
「作戦」を開始したのはCIAの諜報・防諜部門である政策調整局で、1948年の末とされる。この伝記によれば、CIAはキャサリンの夫で『ワシントン・ポスト』社の社長兼会長だったフィル・グラハムを「採用」し、ジャーナリズム界での諜報機関の秘密工作を管轄させた。その結果、CIAはすでに50年代初めの段階で『ニューヨーク・タイムズ』や『ニューズウィーク』、CBSといった有力報道機関のいくつかを「所有」していたという。
だが、「モッキンバード作戦」という名称が世に知られるようになる前から、CIAのメディアに対する秘密工作は明らかにされていた。その一つが、米国の「諜報活動に関して政府の活動を研究するための上院選考委員会(the United States Senate Select Committee to Study Governmental Operations with Respect to Intelligence Activities)」が1975年に調査を開始し、1976年4月26日に公表した最終報告書に他ならない。
1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。