総選挙〝反共キャンペーン〞の裏を読む 「共産党アレルギー」とは何か?
政治2021年10月の衆議院議員総選挙では、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)と政策協定を結んだ立憲民主党・日本共産党・れいわ新選組・社民党に、国民民主党を加えた5つの野党が協力し、289ある小選挙区のうち7割を超える213の選挙区で共闘が実現した。
しかし、勝ったのはそのうちの28%にとどまった。接戦での敗北も結構あったが、小選挙区制では、当選するかしないかが問題である。
野党が勝ったのは65選挙区にとどまる一方、自民党は198、維新は16、無所属は10の議席を獲得した。この結果をどのように見たらよいのであろうか。
立民は、今回の選挙を政権選択選挙と位置づけ、選挙区ごとに野党共闘を推進した。共産党との間で党首会談を行ない、同党から「限定的な閣外からの協力」を取り付けた。
この両党間の政権協力の合意が、多くの国民に“共産党アレルギー”をもたらしたと、一部メディアは論じている。しかし、その「アレルギー」とは何なのかについて、ほとんど納得できる説明はない。成熟した民主主義の実現のために、ここで分析を試みたい。
・衆院選における立共合意
21年9月30日、立民の枝野幸男代表(当時)と共産の志位和夫委員長は会談し、「両党は以下の点を協力する」ことで合意した。
1、次の総選挙において自公政権を倒し、新しい政治を実現する。
2、立憲民主党と日本共産党は、「新政権」において、市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際、日本共産党は、合意した政策を実現する範囲での限定的な閣外からの協力とする。
3、次の総選挙において、両党で候補者を一本化した選挙区については、双方の立場や事情の違いを互いに理解・尊重しながら、小選挙区での勝利を目指す。
この会談で志位委員長は、「今回の党首合意は市民と野党の共闘を大きく発展させる、画期的な内容になったと思います」と述べ、「とくに『新政権』において両党が協力していくことが合意されたことは極めて重要な前進です。こうした合意を得られたことを心からうれしく思っています」と語った。
さらに、「新政権」における協力を確認した市民連合との共通政策は、「あれこれの部分的な政策ではなく、9年間の『安倍・菅自公政治』をチェンジする要となる政策がしっかり盛り込まれている」として、「『新政権』において、そうした政策の実現のための協力が合意されたことの意義は大変に大きいと考えます」と述べた。
4月27日の党首会談で、志位委員長が求めた「共通政策、政権のあり方、選挙協力」の3点での合意を立民が受け入れたことにより、この合意が実現したのである。
立民からすれば、支持率が急落した菅義偉首相の元での選挙ならば勝てると思っていたところ、退陣をきっかけに自民党の支持率が上昇、彼らにとって、衆院選を戦ううえで野党候補の一本化は必須の条件となっていた。
この両党合意は、4ないし5党間の野党共闘とは別に結ばれたもので、両党首の政権奪取への思いが強くにじみ出たものとなっている。
しかし、これが、選挙では攻撃の対象とされ、結果的に両党の議席を減らすことになってしまった。
・「共産党」に対するフェイクニュース
保守の論陣を張り続け、反共キャンペーンを展開することを常とする産経新聞は、さっそく11月2日付の「主張」欄で、「立民・共産の敗北 理念なき『共闘』の結末だ」として、次のような「主張」を展開した。
〈共産は、天皇や自衛隊、日米安全保障条約の最終的解消を目指している。国の基本政策で立民と共産は相いれないということだ。
立民の前身の一つである旧民主党の政権も含め、政府は共産について、いわゆる「敵の出方論」に立った暴力革命の方針に変更はないとみて、破壊活動防止法上の調査対象団体にしてきた。
これらから目をそらし、選挙共闘を進めても、有権者から政権を託すに足ると評価されるのは難しい。立民の最大の支援組織である連合の芳野友子会長が、立民と共産の共闘について「連合の組合員の票が行き場を失った。受け入れられない」と批判したのはもっともである。〉
11月1日のヤフーニュースで「議席減の立憲民主、共産との共闘は失敗か」と題し論文を発表した、国際ジャーナリストを自称する高橋浩佑氏も同じようなことを言っていた。
連合も、立民の敗北は「共産との共闘が要因」と主張。「衆院選総括」(素案)について報じた読売新聞(11月22日付)によると、立共合意について「多くの有権者を困惑させたことは否めない。政権を任せてよいと思えるような枠組みを示せたのかどうか、十分な検証が求められる」、22年の参院選に向けては、立民・国民・連合が「十分に政策を共有し、力を合わせることが何より重要」と述べている。
しかし、なぜ彼らは、このようにしてまで共産党を毛嫌いするのであろうか。
産経新聞が主張する「政府は共産について、いわゆる『敵の出方論』に立った暴力革命の方針に変更はないとみて、破壊活動防止法上の調査対象団体にしてきた」とは、戦後、日本の政権が、共産党への悪しきイメージを国民に植え付けんがために、破防法の調査団体としてきたのである。その破防法は、今や存在意義もなく、公安調査庁を存続させるための道具にしかなっていない。
そもそも、なぜ共産党が政権に協力してはいけないのか。彼らの誰も、その理由を明確に述べていない。すなわち、これらはフェイクニュースそのものである。
多くの国民も、本質を見極めようとはせず、ただ鵜呑みにしてしまった。そこには進歩は存在しない。このまま続くようであれば、日本の将来は暗いものとなるだろう。
「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。