【連載】帝国のプロパガンダ装置としての『ニューヨーク・タイムズ』(成澤宗男)

帝国のプロパガンダ装置としての『ニューヨーク・タイムズ』③―政府・CIAとの馴れ合いがフェイクニュースを生む―

成澤宗男

米国の三大テレビネットワークの一つである『NBC』は2022年4月6日、注目すべき政府の情報操作の一環を報じた。

そのHPに掲示された「米国は過去と異なり、ロシアとの情報戦を戦うため、情報が確実でない場合でも情報を使用する」という記事によれば、「複数のバイデン政権関係者は、情報の正確性に対する信頼が高くない場合でも、米国は情報を武器として使用してきたと認めた」(注1)とされる。

つまり政権自身が「あまり信用していない情報」や「信頼が高くない」怪しげな情報でも、「その情報が100%確信できるまで待つ」のではなく、「先手を打って(ロシアの情報戦を)阻止」し「予防」するため、その情報の「機密解除と公開」によって「モスクワのプロパガンダを弱体化させている」のだという。

だがどのように言い繕おうが、これは政府自身がニセ情報・フェイクニュースの発信源を演じているという事実を認めたに過ぎない。

しかも『NBC』は批判するどころか、逆に「これは大胆な戦略であり、今のところ成功している」、「ロシアが情報戦を展開している最中に、これまで米国は手をこまねいていた」などと正当化する「識者」らのコメントを満載したのは、米国の主流メディア(MSM)の体質を考えれば驚くに値しない。

「言論機関」が政府のウソ垂れ流しを受容し、それが「情報戦」の強力な手段であるかのように吹聴するのは、MSMが軍産複合体の一員だからだろう。

しかもこの「機密情報の解除と公開」と称するプロパガンダは、ウクライナ戦争でも日常的に展開されている。以下は『NBC』が「情報を武器として使用」している例として列挙し、かつ『ニューヨーク・タイムズ』が飛びついた記事の一部だ。いずれも、後になって発信源の政府自身が否定する見え透いた茶番劇が続いている。

『ニューヨーク・タイムズ』社屋

 

①「米国政府によると、プーチン大統領が開始したウクライナ戦争で、ロシアは中国に軍事と支援の提供を要請した。……米国政府関係者は、ロシアの要求に関する情報を収集する手段を秘密にすることを決め、モスクワが求めている軍事兵器や援助の種類について、これ以上説明するのを避けた」(2022年3月13日付。注2)。

②「機密解除された米国の情報によれば、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナにおけるロシア軍の戦闘について側近から誤った情報を得ていることが分かった。……ロシア軍の戦闘状況に関し、不完全あるいは過度に楽観的な報告を受けており、軍事顧問に不信感を持っている」(同年3月30日付。注3)。

③「新たに機密解除された米国諜報機関の情報によれば、ロシアは北朝鮮から砲弾やロケット弾を数百万発購入しており、それは世界的な経済制裁がロシアへの兵器のサプライチェーンを制限しており、軍事的支援のためにロシアが北朝鮮のようなのけ者国家ら(pariah states)に接近している兆候を示している」(同年9月5日付。注4)。

CIAと二人三脚で記事を作成

CIA(米中央情報局)のマーク

 

繰り返すようにこれらの記事はすべて現在まで、信ぴょう性を失っている。「機密解除された情報」もずいぶん安っぽくなったものだが、これらの記事にはその都度、何らかの政権の意図が反映されていたのは間違いない。そして政府のニセ情報を正当化するこの『NBC』の報道自体が、そうした政府との馴れ合いの産物なのは明白だ。

事実、このNBCの記事は作成者に4人の記者の名前が明記されているが、筆頭のケン・ディラニアン氏こそ、そうした悪しき関係の象徴のような人物に他ならない。

米国の暴露情報で知られるインターネットメディアの『The Intercept』は2014年、情報公開法でCIA(米中央情報局)が『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』、『ウォールストリート・ジャーナル』といったメディアの10人の記者とやり取りした数百ページの記録を入手した。

ディラニアン氏は前職が『AP通信』の記者で、さらにその前には『ロサンゼルス・タイムス』に在職していたが、『The Intercept』が入手した2012年の記録には、ディラニアン氏が『ロサンゼルス・タイムス』に在職していた際、「CIAと密接な協力関係を有し、好意的な報道を(事前に)約束し、時には発効前から記事原稿をすべてメディア担当官に送り、確認してもらっていた」(注5)事実が示されている。

当時、26人の連邦議員がオバマ大統領に対し、強化された無人機攻撃による民間人殺傷に懸念を表明して話題になっていた。

そこでディラニアン氏は「メールでCIAメディア担当官に対し、CIAの無人機攻撃について『世論を安心させる』ような記事を書くつもりであることを確約」し、紙面に掲載する前の原稿を見せ「これに異議を唱えるかい」などと問い合わせるなど、互いに打ち合わせて記事を作成していた。

およそジャーナリズムとは縁遠い行為であり、実際の記事は2012年6月25日付に掲載されたが、そこにはパキスタンの「アルカイダ指導者」を無人機で殺害した際に、十数人の民間人を巻き添えにして死傷者を出した事件について、「アルカイダ指導者が一人だけ殺された」というニセ情報が書かれていた。公開されたメールは2012年3月から7月までに限られているが、ディラニアン氏の類似する行為は他にも少なからずあったと思われる。

掲載前の原稿を事前にCIAに送信

さらに『The Intercept』のこの記事は、公開された文書で「CIAが定期的にヴァージニア州ラングレーの本部にジャーナリストを招き、ブリーフィングやその他のイベントを開催している」事実を明らかにし、参加したのは『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』を始め、テレビ局の『FOX』らであったとしている。

『ロサンゼルス・タイムス』は登場しないが、こうした関係がディラニアン氏のような記者を生む土壌と無縁ではないはずだ。

さらに、『The Intercept』の創立者ながら後に内部対立で去った著名なジャーナリストのグレン・グリーンウォルド氏は、情報公開制度を利用して政府や政治家の不正を暴いている保守系の市民団体Judicial Watchが入手した資料を使い、『ニューヨーク・タイムズ』の国家安全保障担当記者マーク・マゼッティ氏とCIAの癒着関係を暴いた記事を英『ガーディアン』紙(2012年8月29日付)に発表している。

以下のように、マゼッティ氏とCIAのマリー・ハーフ報道官がやり取りしていたメール内容を暴露した内容だ。

「CIAはオバマ大統領の再選の可能性を高めるため、ビンラディンの急襲に関する情報を映画製作者に流した。さらにCIAは映画制作にあたって果たしたCIAの役割について、(『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニストで論説委員の)モーリン・ダウト氏がコラムを書こうとしているのを聞きつけ、心配になった。そこで2011年8月5日、報道官のハーフは、記者のマゼッティにメールを送った。……その内容は、CIAが『ニューヨーク・タイムズ』の記者からの情報を期待していたことを示唆していた」(注6)。

これを受けてマゼッティ氏は、何と「ダウトの未発表コラムの原稿をCIA側に転送」した上、CIAのハーフ報道官に「ほら、何も心配することはないだろ」とのメールを送っていた。こうしたやりとりについてグリーンウォルド氏は、「CIAを取材する『ニューヨーク・タイムズ』の記者が、自社の新聞が報じることによる影響を想定し、CIAの広報官と結託した」としながら、次のように続ける。

「これは残念ながら、公権力に関する報道において、『ニューヨーク・タイムズ』の一般的な行動と矛盾はしていない。権力に対する監視役ではなく、政治権力の従順なペットやメッセージの伝達係として奉仕するのは、彼らにとって当然なのだ。……(こうした例は)同紙が政府に敵対的なチェック機関としてではなく、国家で最も強力な機関に組織を挙げて協力し、その利益に奉仕している有様を実証している」。

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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