【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅲ 追い詰められたロシアの「最後通牒」

成澤宗男

第二次世界大戦での「バルバロッサ作戦」といえば、ナチスドイツが1941年6月22日に開始した、旧ソビエト連邦に対する軍事侵攻として知られている。だがそれから80年以上たって、「バルバロッサ作戦2」という用語がインターネットのオルタナティブメディアに一時登場したことがある。

A news headline that says “Russian Army” in Japanese.

 

そうした用語を使っていた一人に、カナダ・トロントの国際刑事法の弁護士で、戦争犯罪に詳しいクリストファー・ブラックがいる。ブラックは2020年1月に実施された北大西洋条約機構(NATO)の恒例の大規模軍事演習「欧州の守護者20」(Defender-Europe)について、「ナチの侵略に匹敵するロシアへの攻撃作戦のための準備」であり、「国連憲章と国際法の根本原則に違反する」(注1)と批判した。

NATOの演習は毎年、「欧州の守護者」のみならず様々な想定で多数実施されている。ブラックが指摘するようにそれをロシア周辺で意図的に繰り返すのみならず、「兵站基地を建設し、膨大な量の火薬とあらゆる種類と口径の武器を事前配備する」等の行動は、「防衛的」とするNATO戦争準備という性格が強い。

そのようなNATOの演習は21年になって質・量共にさらに強化されたのみならず、ウクライナ大統領のゼレンスキーが発し、米国が認知した形の「クリミア自治共和国とセヴァストポリ市の占領回復と再統合」を命じた「大統領指令117号」の内容が反映された可能性が高い。その一例が、「勇士の足跡」(Trojan Footprint)というコードネームの特殊部隊独自の演習だった。

 

ロシアに「攻撃をかける」

21年の「欧州の守護者21」は、4月26日から2カ月間実施された。21カ国から2万8000の兵員が動員されて、冷戦終結後のNATOの演習としては史上最大規模となった。ルーマニア等で実施された「勇士の足跡」はその一環であり、米軍の「在ヨーロッパ特殊作戦軍」が統括し、英独をはじめ、非NATO加盟国のウクライナやオーストリアを含め12ヶ国の特殊部隊が参加。特に注目されたのは米軍からグリンベレーや空軍特殊作戦コマンド以外に、海軍の特殊部隊(Navy SEALs)と、その輸送・支援を特殊水上ボートで担う特殊戦戦闘艇乗員(SWCCS)が顔をそろえた点だった。

SEALsとSWCCSが、明確にロシアを対象とした演習に登場した事実は見逃せない。なぜなら「この海軍特殊部隊にとってクリミアは、理想的な作戦環境」にあり、地対空・地対艦ミサイルで防備を固めたクリミアのロシア軍の「各種レーダー施設やミサイル基地、通信システムを対象」にし、海岸や河川から潜入して破壊するのを想定した訓練が、「勇士の足跡」で実施された形跡があるためだ(注2)。つまりこうした特殊部隊による演習は、すでにクリミアを対象とする何らかの対ロシア戦争計画が、確実に存在することをうかがわせる。

さらに「大統領指令117号」との関連で見逃せない演習の一つに、陸軍が主体の「コサックのこん棒」(Cossack Mace)がある。ウクライナ南部のクリミアに近いムィコラーイウ(現在、戦闘中)で21年7月12日から24日まで実施され、同国と英国を中軸に、米国とカナダ、デンマークの5ヶ国が参加した。

動員された数は約2000人と規模は大きくなかったが、ウクライナ国防軍によれば演習でロシアを想定し、「防衛的行動を実施した後、敵対する隣国から攻撃された国(注=ウクライナを指す)の国境と領土を回復するために、攻撃をかける」(注3)意図を隠してはいない。

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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