改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅲ 追い詰められたロシアの「最後通牒」
国際黒海での意図的な軍事挑発
さらにNATOは「コサックのこん棒」に先立ち、3月19日から29日まで、米国やトルコ、ルーマニア等加盟8ヶ国から艦船18隻、2400を動員したクリミアを取り巻く黒海での演習「海の盾」(Sea Shield)を実施している。
続いて6月28日から7月10日にかけ、やはり黒海で32ヶ国から5000人、32隻の艦船を動員した同海でのNATOの演習としては過去最大規模の「海のそよ風」(Sea Breeze)を実施。これにはウクライナ軍も参加し、クリミアに近いオデッサ等3カ所を演習の拠点として提供した。
ロシアにとっては、ほぼ連続してクリミアと黒海で緊張を強いられた形だが、「海のそよ風」直前の6月23日には、英国海軍の駆逐艦デフェンダーが意図的にロシアの主張するクリミア周辺の領海に侵入。ロシアの国境監視船が警告弾を発射し、戦闘爆撃機Su‐24が警告爆弾を投下する一触即発の事態を引き起こしている。
英国側は「無害通航」を主張しているが、当時デフェンダーに乗船していたBBCの記者は、次のように異なった事実を伝えている。
「ロシアが占拠するクリミア南端に接近した際、兵員はすでに戦闘配置についていた。デフェンダーの兵器システムも、すでに装填されていた。これは、ロシアへの牽制を意図的に行ったものであるに違いない」(注4)。
ロシア国防省は事件直後、モスクワの英国大使館の武官を召喚して抗議したが、そもそもなぜ英国海軍がクリミアに接近して航行していたのかが国際的に問われるべきであった。これでは「牽制」どころか明らかに軍事挑発で、攻撃をかけた際のロシア側の反応を、事前に掌握する目的であったのは疑いない。それだけ、必要ならば交戦も辞さないNATOのクリミアと黒海における戦争計画が「大統領指令117号」と連動して強化されたと見なされる。これを、「防衛的」と解釈するのは困難だろう。
バイデン政権は破局を回避しようとせず
しかもロシア国防相のセルゲイ・ショイグは21年11月23日、「ロシア国境付近における(核搭載機を含む)米国戦略爆撃機の活動が顕著に増加している」と発表。それによると、「過去一か月でロシア周辺の戦略爆撃の飛行は約30回に達し、前年比で二倍半増加している」とされ、国境からの最短距離はわずか20㎞程度であったという(注5)。
おそらくこうした以前とは次元の異なる軍事的エスカレーションの一切が、ロシアを決定的に追い詰めたのは疑いない。彼らに「バルバロッサ作戦2」の悪夢がよぎったとしても、今や全世界の「反ロシア感情」を演出している欧米主要メディアのように、これを冷笑で応じることはできないはずだ。
前稿で触れたようにロシアは21年12月17日、ウクライナのNATO加盟中止と東欧における米軍・NATOの軍事活動停止を柱とする「安全保障の確約に関する米国とロシアの協約」の案文を米国に提出した。振り返えればこの案文が今回の開戦前に、従来から米国に繰り返して発せられた「レッドライン」の警告とは次元を異にする重大な決意が込められた、「通常のロシア(そして旧ソビエト連邦)の外交慣習を全面的に破る」前例のない「最後通牒」(注6)であったと考えられる。
その事実を当時、最も良く理解していたのは、ウクライナ国境付近のロシア軍の動員状況を正確に探知していたバイデン政権であったのは間違いない。だが米国政府はロシアの決意を知っていながら、交渉継続の余地すら乏しい「協約」の全面拒否と、ウクライナへのさらなる武器供与の確約で応じたのだった。
一般に「リベラル派」とは見なされてはいないが、米国の対外政策に批判的な立場で知られるケイトー研究所(CATO Institute)の研究員のテッド・カーペンターは、「米国とNATOはウクライナをロシアに対する戦略的な手駒として利用し」、それが「最終的に地政学的な爆発をもたらしたと批判しながら、次のように述べる。
「ロシアの侵攻は確かに過剰反応ではあったが、何も挑発されなかったわけでは決してない。ウクライナの国民は不幸にも、自国の指導者たちの騙されやすさと、米国の政治家たちの驚くべき傲慢さのために、自らの流血で高い代価を払っているのだ」(注7)。
(注1)6 February,2020「Operation Barbarossa II: Setting The Stage For War」(URL: https://peacefromharmony.org/?cat=en_c&key=930)
(注2)17 May,2021「US Navy SEALs are training to fight on land and water in a ‘strategic location’ near Russia」(URL:https://www.businessinsider.com/navy-seals-swcc-training-for-land-water-combat-near-russia-2021-5)
(注3)3 April,2021「Military from five NATO states to take part in Ukrainian-British drills」(URL:https://www.unian.info/society/cossack-mace-2021-military-from-five-nato-states-to-take-part-in-ukrainian-british-drills-11376019.html)
(注4) 23 June,2021「HMS Defender: Russian jets and ships shadow British warship」(URL: https://www.bbc.com/news/world-europe-57583363)
(注5)24 Nobember,2021「US bombers practiced using nuclear weapons against Russia this month」(URL:https://tass.com/defense/1365179?utm_source=google.com&utm_medium=organic&utm_campaign=google.com&utm_referrer=google.com)
(注6)December 19, 2021「Russia’s ultimatum to the West」(URL: https://thesaker.is/russias-ultimatum-to-the-west/)
(注7)March 27, 2022「Washington Helped Trigger the Ukraine War」(URL:https://www.globalresearch.ca/washington-helped-trigger-ukraine-war/5775501)
1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。