【連載】鳩山友紀夫の部屋

ロシアによるウクライナ侵攻の深層

鳩山友紀夫

昨年の12月中旬に、ロシアは米国との間で、ウクライナのNATO加盟をさせないことや東欧における米国やNATOの軍事活動を行わないことなどの協約を結ぼうと努力したが、米国は一顧だにしようとしなかった。事ここに至り、ロシアはついに堪忍袋の緒が切れて、ウクライナに軍事侵攻を行ったと思われる。

それでもウクライナがロシアに親近感を持った政権であったならば、軍事侵攻などしなかったと思われる。かつてはウクライナも親ロ派の政権であったこともある。その親ロ派のヤヌーコヴィチ政権は2014年に市民の蜂起によるマイダン革命によって倒されたが、小さなデモが政権を倒すまでの巨大な革命に至ったのは欧米、特に米国の画策によるものと言われている。

なお、マイダン革命の結果、9割近くが親ロ派が住むクリミアでは危機感が募り、住民投票の結果、ロシアに帰属することを決めた。私はその翌年にクリミアを訪問して、クリミアの指導者や住民の方々にお話しを伺ったが、決してロシア軍による強制的な圧力が住民投票の結果を左右したわけではないことを理解した。まさに百聞は一見に如かずである。

今回、プーチン大統領がキーウを攻撃したのは、親欧米派のゼレンスキー政権を倒して、親ロ派の政権を樹立したかったのではないかと思われるが、そのために軍事力を行使すること自体は決して許されてはならないことであった。

ところがプーチン大統領の思惑通りにはキーウは早期に陥落しなかった。なぜならウクライナに対して欧米が武器を輸送供給し続けているからである。とくに歩兵が携帯して使用できる対戦車用ミサイル「ジャベリン」や、低空低速で飛行するヘリコプターに有効な地対空ミサイル「スティンガー」は非常に効果的であった。イェルサレム・ポストによれば、ウクライナでのロシアの26日間の損失は、アフガンでの10年間の損失を上回っているとのことである。

プーチン大統領としては、戦争が長引けば長引くほど損失が拡大するので、できるだけ有利な形でできるだけ早く戦争を終結に持ち込みたいのではないか。また、ウクライナとしても、戦場がウクライナであるので、戦争が長引けば民間人を含めて犠牲者が増大し、地域が破壊されていくので、常識的な指導者であるならば、ロシアと同じくできるだけ有利な形でできるだけ早く戦争を終結させたいと願うはずである。

ところが米国はどうかと言えば、戦争が長引くほどロシアに対して制裁を科す一方でウクライナには武器を提供し続けられるので、プーチン政権を倒せる可能性が増すし、軍産複合体にとっては武器を提供し続けられるので、米国には戦争を早期に終結させたいとの意思は働かないのである。米国のパペットとなっているゼレンスキー大統領が国家の利益を考えて、米国の意思に逆らって戦争を終結させることができるかが最大の問題である。

プーチン大統領としては、ウクライナがNATOに加盟しないことと、東部のドネツク、ルガンスク二州の自決権を認めさせることさえ満たされれば、和平に持ち込みたいと思っていると思われる。そしてその要請は決して無理筋ではなく、国際的に十分に理解できる要請である。

The Encounter of Tanks on the Map of Ukraine. 3d Rendering http://www.lib.utexas.edu/maps/world.html

 

日本は米欧と協調して既に経済制裁などロシアに対して制裁を科しているが、さらにそれを強めて石炭の輸入を段階的に禁止したり、外交官らを追放したりしている。その結果として、長年の懸案であった北方領土問題は議論の余地すらなくなってしまうことは間違いない。

私としては、ロシアのウクライナ侵攻問題に関しては、戦争継続を望んでいる米国に追随することではなく、イスラエルやトルコなどと共に、停戦の条件づくりに協力すべきではないかと思料する。それがロシアとウクライナ両国にとって望ましいことであるし、政治的にも経済的にも道義的にも日本の国益に叶うと信じている。

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鳩山友紀夫 鳩山友紀夫

第93代内閣総理大臣。現在は東アジア共同体研究所理事長。政治家引退後、友愛の思想を広めるため、由紀夫から友紀夫に改名。近著に『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)などがある。

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