「嫌中世論」に頼る対中外交の危うさ Z世代の中国好感度と世代格差

岡田充

・なぜ世代によってこれほどの開きが生まれるのか。

私自身の経験を踏まえて分析したい。私は19歳になった大学1年の1967年夏、全国学生の中国訪問を組織する「斉了(ちいら)会」の訪中団に参加、文化大革命下の中国を約3週間旅行した経験がある。その活動を記念する展示・講演会が22年11月開かれ、その時の経験や対中観の世代間格差について話をした。

写真:訪中学生団57周年記念展示会のテープカット 中国文化センター提供

 

当時、私の中国への関心は①文革の「造反有理」のスローガンは、ベトナム反戦運動で盛り上がった日本の学生運動と共振、②社会主義社会へのあこがれ、③中国侵略に対する贖罪意識―などだった。この旅行に参加した100名以上の全国の大学生の認識もほぼ同じだったと思う。

つまり中国という「他者」に自分を投影して、期待するイメージを勝手に膨らませたのである。その後、文化大革命は巨大な権力闘争だったことが分かった。天安門事件で社会主義への期待が破られ、香港での大規模デモ報道をみて、中国から距離を置いていった同世代の人がいかに多かったか。中国に委ねた「幻想の皮」が一枚ずつはがされていったのだ。

現在も同じような中国観は形を変えて生きている。中国を他者としてではなく、その政治・社会に日本や欧米の統治システムを投影し、欧米のモノサシから判断する観察方法だ。これが60、70歳代で「中国に親しみを感じない」理由の背景だと思う。

・「等身大」で他者をみる

一方、Z世代の意識は異なる。私が教えた大学の学生の例を挙げると、生まれた時から経済成長の経験がない彼らにとって、中国は物心ついた時にはアメリカを追い上げる大国。IT技術では日本に先行し、ゲームやマンガは質量ともに日本を越える。

おまけに大学やバイト先では、日常的に中国人留学生と触れ合う機会がある。つまり中国に自己を投影せず、他者として「等身大」で見ようとする視点だ。思い入れがないから、幻想も抱かない。

内閣府調査を少し長いスパンから見ると興味深い事実が浮かぶ。中国が高度成長を続ける2000年調査では「親しみを感じる」が48.8%と「感じない」の47.2%をやや上回っていた。この時は、Z世代の「親しみを感じる」が51.5%に対し70歳代は42.15%と、世代間で大きな差はない。

格差が顕著になるのは「尖閣諸島国有化」直後の2012年11月調査。「親しみを感じる」が全体で18.6%。このうちZ世代が30.1%に対し70歳代11.8%と開きが拡大していく。この傾向は2016年「親しみを感じる」が全体で14.8%のうち、Z世代は25.8%に対し、60代は8.3%、70代は13%だった。その差は2019年で顕著になり、「親しみ感じる」22.7%のうちZ世代は40.8%だったが、70歳は20.1%と倍以上に開いた。

・「スマホ」が変えた対中観

世代間格差が広がる第1の要因は、いびつな人口構成だ。22年発表の調査のサンプル数は約1600名。家庭訪問式の調査のため家にいることの多い60、70歳代が計740名と4割を越える。少子化に加え学校や仕事を持つZ世代は在宅しないことも多く、調査対象は164人と1割に過ぎない。全体として対中好感度が低くなる要因かもしれない。

第2はメディアの違い。日本のZ世代は、固定電話はもちろん新聞も読まずTV受信機もない。ニュースを含めあらゆる情報と人とのつながりはスマートホンを介するケースが多い。従って新聞やTV報道の影響は、高齢者に比べるとあまり受けない。

これに対し高齢層は、朝から家でTVワイドショー番組を視る割合が高いと推定される。ワイドショー番組の中国報道について言えば、客観的事実に基づかない中国批判や、脅威を煽る内容が目立つ。高齢者はこうした中国観を注入される機会が多く、それが中国を好感しない原因の一つではないか。

日本では、若者を中心にスマートホンが普及するのは、東北大震災のあった2011年ごろとされる。ニュースを受容するメディアの世代間の違いが中国観に影響を及ぼしているという仮説は成立すると思う。

・台湾でも脱イデオロギー

中国の軍事威嚇に曝されている台湾のZ世代にも同じ傾向がある。4年前の少し古い世論調査だが、経済誌「遠見」注4 によると、18~29歳の53%が中国大陸での就職を希望し、前年比で10・5%増えた。理由は「(大陸のほうが)賃金など待遇が台湾より高く将来性がある」。脱イデオロギーの進行ぶりがうかがえる。

台湾では、「産まれた時から台湾は独立国家だった」と考えるミレニアル世代(22年段階で、26~41歳)を「天然独」(自然な独立派)と呼ぶ。中国大陸は既に「他者」であり、思い入れはない。

習国家主席は3年前の2019年に発表した台湾政策「習5項目」で、統一政策の重点のひとつとして「中華文化の共通アイデンティティを増進し、特に台湾青年への工作を強化」を挙げている。「中華離れ」するZ世代やミレニアル世代を強く意識しているのが分かる。

・選挙結果左右するパワー

Z世代は、選挙や政治的選択の帰すうを決するパワーを持ち始めた。22年11月の米中間選挙では、苦戦が予想された与党の民主党が健闘した。AP通信によると、民主党への投票者はZ世代で53%と共和党より13ポイント多かった半面、45~64歳は共和が54%と民主に11ポイント差をつけ、65歳以上も共和が民主を大きく上回った。Z世代の支持が民主党を支えたと言える。

岸田内閣支持率は、朝日新聞(11月14日)の調査注5で、37%と政権発足以降の最低を記録した。このうち自民党支持層での内閣支持率は68%だったが、そのうちZ世代の支持率は半分以下の29%に過ぎなかった。Z世代は支持政党にかかわらず、岸田政権を見放しつつある。政権はかなり危ない。

私を含め団塊世代は、70歳代後半に差し掛かった。一方、Z世代やミレニアル世代が社会の中枢を占めるようになると、日本人全体の中国観にも変化が表れる可能性がある。

中国の台頭と日本衰退という歴史的な潮流変化を依然として心理的に受け入れられず、アジアを上から見下す「脱亜入欧」意識を持ち続ける世代が後景に引けば、「嫌中」「反中」世論も次第に変化するはずだ。これが国交正常化50周年を迎えた2022年にみえた、わずかな「光明」だ。

(注)本稿は「東洋経済ONLINE」から出稿した「Z世代は『中国に好感』世代で分かれる好感度の理由」、「岸田政権『嫌中世論』に頼る対中外交の危うさ:『Z世代は中国に好感』世代で分かれる好感度の理由」 | 中国・台湾 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)を大幅に加筆した内容である。

注1 习近平会见日本首相岸田文雄_中华人民共和国外交部 (mfa.gov.cn)
注2 安保3文書、自公が合意 中国情勢「地域住民に脅威」:朝日新聞デジタル (asahi.com)
注3 外交に関する世論調査 2 調査結果の概要 1 – 内閣府 (gov-online.go.jp)
注4 53%年輕世代有意赴陸發展 – 兩岸要聞 – 中國時報 (chinatimes.com)
注5 岸田内閣支持率37%、初の3割台:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

この記事は、「海峡両岸論No.145」(2022年12月15日)からの転載です。
原文はコチラ→海峡両岸論NO.145 「嫌中世論」に頼る対中外交の危うさ Z世代の中国好感度と世代格差

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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