【連載】鑑定漂流ーDNA型鑑定独占は冤罪の罠ー(梶山天)

第6回 赤頭巾ちゃんの狼

梶山天

実は園長は90年4月からバス運転手に雇った菅家さんが松田真実ちゃんを殺した犯人ではないかと内心、疑っていたようだ。茂串警部補にそう打ち明け、その理由(わけ)を尋ねられた園長は「菅家さんが戻ってくるから」と遊戯室へと場所を替えて1時間余、話をした。茂串警部補を煽るような内容だったのだ。その際に取られた司法警察員面前調書(供述調書)の中身を引用する。

他の運転手や独身の人が幼児に接するのと違い、菅家さんはすごくねちっこいのです。私は長年園児と接していますので、教員等の幼児との接し方についてはよく知っていますが、菅家さんは女性教員が幼児に接する態度以上のねちねちした感じかあるのです。

ねちねちしたと感じたというのは、子どもの体を触りまくるというのではなく、言葉ではどうしても表現できません。

菅家さんは男児よりも女児を多く相手にして、手を引いたり、両手をつないで飛び上がるホッピング遊びをよくしていました。

その時の顔は、普段では絶対見せたことのない顔中満面の笑いで大満足という感じなのです。具体的に女児のパンツを脱がしたり、イタズラ行為をしたところは見てませんが、童話に例えると、赤頭巾ちゃんを狙うオオカミみたいに感じられたのです。

赤頭巾ちゃんと仲良くしているオオカミの顔は満面の笑みを浮かべていますが、狼の目の奥は光り、心の中ではいつも食べてやろうという下心がうずいているのです。

園児と笑顔でねちねちたわむれている菅家さんを見て、そう感じ、こういう人が幼児を殺したり、イタズラするのではないか、と思うようになったのです。何の証拠もありませんが、長年幼児の世話をする仕事をしている者の勘とでもいうのでしょうか、そう感じました。

 

しかし、園長の息子である理事長以外に菅家さんのそうした一面を認める職員たちは一人もいなかった。菅家さんが幼女に性的関心があるなんて、園長と息子以外には誰一人思いもよらないことであった。他人の内面をどう評価するかは、時に、その人の立場や主観によって大きく変わることは否めない。

足利事件が起きてことで園長が普段より神経を配るようになったのは保育園児を預かるトップの姿勢として当然ではある。しかし、ここまで菅家さんを疑うには、トラウマがあったからではないだろうか、と朝日新聞時代に事件記者として、かなりの痛ましい事件の取材をしてきた経験からそう思わずにはいられない内容だ。

この幼稚園には、足利事件の約6年前の84年11月に起こった未解決の幼児殺害事件(時効成立)の被害者である長谷部有美ちゃん(5)が通っていたのだ。足利事件の松田真実ちゃんと同じように有美ちゃんも別のパチンコ店で行方不明になり、1年4カ月後に同園から1㌔程離れた畑で白骨死体で発見された。

発生当時、園児を預かる責任上、園長と理事長は、保護者たちを集めて、私設の捜索隊を結成し、1カ月間山狩りを続けた。自前でチラシを作り、連日街頭に立って情報提供を呼びかけることもした。その上で、警察とマスコミ対応に追われ、1年半近く疲労困憊の日々を送ってきたのだ。

精神的ダメージが大きかった有美ちゃんの時のことと今回の足利事件とが重なったと見えたからかもしれない。「もう二度とあんなことに巻き込まれるのはごめんです」。警察にそう漏らしていたという。

 

連載「鑑定漂流-DNA型鑑定独占は冤罪の罠-」(毎週火曜日掲載)

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(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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