ロシアに加えられている情報工作と憎悪の扇動 ―欧米はどこまで突き進むのか?-
国際敵を中傷し、憎しみを掻き立てるように民衆を扇動するのは、大昔からの指導者たちの手口だった。そして現在もウクライナでの戦争で、この手口はロシアとプーチンを悪魔化するために使われている。もし戦争に向かう動きに加わりたければ、憎しみのお祭り騒ぎに入ればいい。しかし、もし私たちが現実に起きている戦争について客観的かつまっとうな見方をしたければ、政府と戦争を煽り立てる主流派メディアが見てほしくない事実にまず立脚する必要がある。
ロシアのウクライナ侵攻以降、すべてのロシアに関係することは懲罰の対象になった。ロシアの運動選手は障害者の選手も含め、世界競技から締め出された。トルストイといった古典的な作家の作品は書店の棚から排除され、チャイコフスキーのような作曲家の作品はコンサートの曲目から消えている。ロシア産の猫すら、品評会から締め出された。
もしこうした数々の行為が正当化されるのなら、米国のイラク侵略後になぜ米国の運動選手や音楽家、作家たちは同じような扱いを受けなかったのか。それ以上に、なぜ37万のイエメン人に対する空爆による殺害について怒らないのだろうか。なぜ米国が外国に預金してある国家財産を凍結し、多数のアフガニスタンの人々が飢えに直面している現実に怒らないのか。
いまやウクライナに関しては、巨大で広範な宣伝が横行している。その宣伝は、ハリウッド映画のように単純な台本に基づいている。ウクライナは天使で、ロシアは悪魔、ゼレンスキーは英雄だということ。それに影響され、多くの善良な人々はブルーとイエローのリボンを離さない。こうしたイメージを人々に植え付けるためにはプロパガンダのみならず、同時にそのプロパガンダを打ち破ろうとする試みを妨げる検閲も必要となってくる。
欧米は「言論の自由」を誇ってきたが、しかしながら異なった見解に対する検閲は広範化している。ロシアの国際放送のRTや他のメディアは、インターネットやケーブルテレビでブロックされている。皮肉なことにRTの番組は、クリス・ヘッジといったジャーナリストや、俳優のリー・キャンプといった米国人も登場していたが、政府が自国民を排除しているわけだ。
・消された『ウクライナ・オン・ファイアー』
検閲あるいは裏からの排除は、ソーシャルメディアでも広がっている。2022年4月6日、海兵隊出身の傑出した軍事分析家で、イラクでは国連の一員として「大量破壊兵器」の査察経験もあるスコット・リッターのツイッターが削除された。理由は、「ブチャの虐殺」が宣伝されているロシア軍ではなく、ウクライナの極右集団の犯行であり、米英もこれに加担しているとツィートしたからだ。
ネットフリックスで見られる『ウィンター・オン・ファイアー:自由へのウクライナの闘い』という、15年のドキュメンタリーがある。13年から14年にかけての暴力でロシアに協調的な大統領を追い出した「マイダン革命」と称されるクーデターを扱っているが、この事件での最も本質的な事実が無視されている。演出したのは米国で、実行したのは「ライトセクター」と「アゾフ大隊」というネオナチであったという事実だ。警官隊に対する攻撃や殺害は、完全にそこからカットされている。
これとは対照的に16年のオリバー・ストーン監督による『ウクライナ・オン・ファイアー』は、クーデターの背後や本質的な問題を解説しているが、ネットフリックスでは見ることができない。YouTubeでも、ある時期から消されてしまった。
そのため、欧米の大多数の人々は米国が14年のクーデターに加担していた事実など知らないし、その後も米国がウクライナの極右やネオナチに資金援助し、訓練していた事実も、そして1万4000人もの死者を出しながら8年も続いているウクライナ東部の紛争も知らないままだ。
米英の諜報機関に支えられ、ウクライナは情報戦の重要性に気付いたようだ。ウクライナはセンセーショナルなロシア批判を口にし、欧米の御用メディアがそれを無批判に報じる。ところが真実が明るみに出ると、御用メディアは無視を決め込み、裏面に埋もれさせる。以下は、そのほんの一例に過ぎない。
・ウソの宣伝の事例
―14年に、東ウクライナの分離派が実効支配する地域でアパートに砲弾が直撃し、11人が殺された。ウクライナはロシアのせいにしたが、砲弾が飛んできたのはロシアの方向からではなかったし、殺されたのはロシア系住民だった。
―今回の戦争当初、ゼレンスキーは黒海の島のスネーク・アイランドでウクライナ兵が降伏よりも英雄的に戦死する方を選んだと述べたが、実際は全員が降伏した。
―ウクライナや欧米の御用メディアは、ウクライナ南東部マリウポリで、小児科と産婦人科の病院がロシア軍に爆撃されたと主張した。実際は、爆撃があった3月9日の2日前に、病院はウクライナ軍に接収されていた。
―最新のセンセーショナルな批判は、ウクライナ北部の「ブチャの虐殺」だ。ここでも、ウクライナや欧米御用メディアの主張とは異なった証拠が出ている。ロシアの兵士が、ブチャから去ったのは3月31日。アゾフ大隊が、4月1日にブチャに入っている。そして4月3日になって、ウクライナ国防省が「ロシアの虐殺」のビデオを公開している。
ほとんどの場合、欧米メディアは自身が非難していることを自ら調査したり、その非難がまともであるかどうかについて論理的に考察したりはしない。だが「ブチャの虐殺」については、あの『ニューヨーク・タイムズ』ですら「ウクライナ国防省が断言していることを独立した立場から裏付けるのは不可能だ」と認めざるを得なかったのだ。
こうした検閲について付け加えるなら、広く自己検閲も横行している。ロシアが何を主張しているかについて読み解く前に、欧米の「アナリスト」は奇妙な素人臭い心理学や憶測にふける。何の事実による裏付けもないのに、勝手にプーチンが望んでいるものとか本人の「精神状態」について推測するのだ。もし現実に起きている事実や論議されている中身に触れたくないのなら、便利なやり方だろうが。
サンフランシスコ在住の、フリージャーナリスト。カナダのインターネットサイトGlobal Researchを中心に、中東を始めとする世界情勢関する多彩な記事を発表する傍ら、平和運動の活動家としても知られている。