【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ロシアに加えられている情報工作と憎悪の扇動 ―欧米はどこまで突き進むのか?-

リック・スターリング(Rick Sterling)

・プーチンの捏造された「発言」

大多数のアナリストやジャーナリストは、実際にロシアの指導者たちが語っていることを自分で読んだり、聞いたりするのを恐れ、嫌がる。これでは適切さを欠き、彼らの発言こそが宣伝工作や捏造に依拠する欧米の政治家とは違い、より鮮明で直接的に事実を反映しているのにだ。

ロシアの外交政策に対する無知はこうした態度から生じており、インターネットサイトのTruthoutは最近、プーチンの発言から引用したというセンセーショナルだが完全に捏造された内容が含まれている記事を掲載した。つまりプーチンが「ウクライナは、ロシアが尊重せねばならない国家の権利など持ち合わせていない。母なるロシアとのウクライナ再統合と再吸収、あるいはその亜流の地位にふさわしい別の称号を準備せよ」と述べたという。実際にプーチンはそうした発言をしておらず、少しでも常識があれば誰しもフェイクだと理解するはずだ。

私はこの記事を書いた共著者のカール・デビットソンにメールを送り、このプーチンの発言なるものは、どこからの引用なのかと質問したが、彼は捏造したのを認めた。これは、重大な捏造だ。なぜなら、この「発言」は現在の戦争のコアな部分に関わっているからに他ならない。ロシアが、ウクライナを丸ごと吸収しようとしているのだろうか。ウクライナを、占領しようとしているのだろうか。プーチンや外相のラブロフの発言に目を通したら、そんなことはあり得ないとわかる。デビットソンの捏造は、自分で彼らの発言を読んではいないという証明だろう。

捏造の引用があるこの記事は、「プーチンは20世紀を『転覆』させようとする世界的な右翼の権威主義的運動の一人だ」とも主張している。こうした物言いは米国の民主党に近く、民主党によれば、世界は「権威主義」と「民主主義」とに二分されているのだとか。
きわめて米国中心で党派的であり、なぜか、プーチンをトランプと一緒にしている。同時に自己中心的で、民主党が「民主主義」を体現しているという話になっている。まともな分析からすると、大間違いだ。

・欧米に戦争を止めさせる気はない

こうした誤った民主党の自己分析は、大きな矛盾がある。バイデンの不人気は知られており、最新の世論調査では42%しかない。だがウクライナへの侵攻以降、プーチンの支持率は80%を超えている。

同時に欧米では大方知られてはいないが、世界の大半は米国のウクライナでの戦争に対する見解を支持していない。国連安保理におけるロシア批判の決議に対し、世界人口の59%を代表する国々が反対かあるいは棄権に回った。これらの諸国は米国の自国だけは何をしても許されるとする「例外主義」や、経済・軍事の一極支配こそが世界の主要な問題であると見なしている。ロシアを「悪魔化」するのは有益ではないと考え、戦争に対しては交渉とすみやかな解決を促しているのは言うまでもない。

欧米の反戦運動の多くは、ロシアの侵攻に批判的だ。一方で、米国平和評議会(The US Peace Council)にように、米国とNATOも同じように責任があるという見方もある。しかしいずれもすべてが、最悪な事態に陥る前に戦争を止めるよう圧力を加える必要性については同意している。

対照的に、欧米の軍産複合体は、さらに戦争を激化させることしか考えていない。プロパガンダや検閲、削除、ロシアの「悪魔化」、そして更なるウクライナへの兵器供給によって、まるで彼らは解決など望んでいないかのようだ。これまでロシアが報復攻撃に出るような挑発の危険性があるのを承知でNATOの東方拡大を支援したように、いまや世界に大惨事をもたらす危険性があるのを知りながら、ウクライナで流血の戦争を長引かせるようプッシュしているように思える。

火事の現場にガソリンをまくような行為にふける一方で、戦争の悲惨さに同情して涙を流す風情を装いながら。

原題:”Fabricating Putin Quotes and Banning Paraplegic Athletes to Undermine Russia How Low Can the West Go?” (翻訳:成澤宗男)

 

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リック・スターリング(Rick Sterling) リック・スターリング(Rick Sterling)

サンフランシスコ在住の、フリージャーナリスト。カナダのインターネットサイトGlobal Researchを中心に、中東を始めとする世界情勢関する多彩な記事を発表する傍ら、平和運動の活動家としても知られている。

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