【特集】統一教会と国葬問題

〝ステルス信者〞が政治家支援、旧統一教会と自民党現在も続く癒着

片岡亮

・〝守り〞だけでお茶を濁す自民党

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する被害者救済法が成立したが、二世信者や高額献金、果てに政治家との癒着といった問題そのものの解決まではほど遠いのが実情だ。

A news headline in Japanese that reads “Relief New Law”

 

最も深刻なのは、教団が政権を担う自民党政治家と癒着してきたことであり、彼らをフォローする一部の文化人は、「信教の自由」を持ち出し反論を代弁していた。

しかし、「信教の自由」とは、個人が国や組織から信仰や宗教を強制されないことであって、いま問題なのは、権力側に宗教組織が接近した場合にどうするか、である。

法外な寄付や信者の隔離など「人権侵害をもたらす組織活動を禁じる」反セクト法をもつフランスの宗教ライター、アルディ・ハサニ氏にまず話を聞いた。

「内心の信仰においては、たとえカルトそのものの邪教であっても、『信じるのは自由だ』といえますが、健全な信仰の前提には、他者が持つ権利に害を及ぼさないことが必要。宗教団体が個人の人権を無視していたら、それはただの反社会的組織です。その宗教団体に厳格な運用基準があることが前提で、フランスのセクト規制は日本の憲法下でも適用できる理屈です」。

また「信教の自由」には、国や機関が宗教的活動をすることを禁じ、「国はいかなる宗教からも中立」という政教分離も前提といえる。日本の政治では創価学会を支持母体とする公明党が政権与党となっており、同党の選挙協力なしに議席が保てない自民党こそが、政教分離の線引きを曖昧にしてきた。

cult

 

自民党議員の若手秘書は「議員はみんな、公明党がいるから宗教法人法には手をつけられないと口を揃えている」と話す。

「それこそ自公政権自体が政教分離違反ですよね。本来、公明党は統一教会との違いをハッキリ示すべきなのに、ただ規制強化に反発しているのですから、これでは同じ穴のムジナ」。

統一教会の問題とは、言ってしまえば、社会的に問題のある団体があった場合、政治がどう対処するのか、ということだ。その方法には大別して「攻めと守りがある」と、同秘書は続ける。

「攻めとは悪質な宗教団体の取り締まりです。統一教会であれば解散で、宗教団体という認定を外すこと。法人格や税優遇を取り消せます。公的な認定がなくなれば、自然と信者の脱会も促せるでしょう。実際、それを提案して、脱会信者の専門サポート体制も作ろうとした人は自民党にもいましたが、大きな反発を受けています。

一方、守りは被害者の保護。契約法改正や献金規制で、被害を食い止めること。ただ、あくまで被害があった場合の救済措置なので、被害自体をなくす作業ではありません。いま自民党は教団と繋がっている議員ばかりなので、攻めには反対が多く、守りだけで世間の批判を収めようという流れになっています」。

Kyoto Japan – 1 June, 2014: Japanese politicians speech about politics in Kyoto downtown in Kyoto Japan.

 

そのとおり、日本政府は自民党議員が教団と癒着していたことで鈍い対応を見せている。世間の批判に押される形で「高額献金などの被害者救済」=守りの方を主体とし、消費者契約法と国民生活センター法の改正案を閣議決定。救済新法で、霊感商法で結んだ契約を取り消せる取消権を現在の5年から10年に、被害に気付いてからの期間を現在の1年から3年に、それぞれ延長した。

A news headline written in Japanese as “Spiral Marketing”.

 

結果的に安倍晋三元首相銃撃事件によって旧統一教会と政治の癒着の解明、教団の悪質な行為に対する法整備が進んだ事実を見れば、細野豪志衆院議員をはじめ一部の自民党議員が「テロリスト(山上徹也容疑者)を成功者にしてはならない」などと視点のズレた主張を続けていようとも、問題の根源が何かは明らかだ。

河野太郎消費者担当相は改正案を「霊感商法の被害者救済、再発防止のために非常に重要な法案」としたが、「再発防止」と言うならば、むしろ前出の秘書の言うように「守り」だけでは不足している。

・萩生田政調会長は統一教会との窓口か

しかし、「こんな状況でも、まだ議員を支援する信者はいて、水面下でもっと巧妙に関係を温存する動きが出始めている」と前出秘書。実際、統一教会との関係の深さを指摘された代表格、萩生田光一政調会長の通った東京・八王子家庭教会の関係者からも、「本部はどうか知りませんが、ウチはまだ萩生田さんを支持していますよ。同じ志を持ち心で繋がっていますから」という話が聞けるほどだ。

その萩生田氏は、統一教会問題で「党内調整」の責任者となっている。また萩生田氏は同教会とのズブズブの関係で経済再生担当相を更迭された山際大志郎氏を、「私の判断」で新型コロナ対策本部長に起用。まさに教会系議員の助け合いにしか見えない有様だ。

「党内調整とは要するに、ピンチの議員をうまいこと収める役目。党内では、萩生田氏は教団側との窓口になったという話も聞かれます。それも、気の弱い岸田首相が(問題議員に)口を出せないから。教団と密接だった当事者に丸投げして、揉めごとから逃げたわけです」(前出の秘書)。

萩生田氏は教団との関係について、言うことがコロコロ変わる信用ならない議員だ。元信者の証言で、信者を前に「一緒に日本を神様の国にしましょう」と呼びかけたとも伝えられる。

「統一教会で神様というのは、真のお父様である文鮮明教祖のこと」と語るのは、八王子教会関係者。彼は筆者の取材にこう答えていた。

「教団では、神をあらゆる存在の創造主として、時間と空間を超越して永遠に存在する者としています。韓国語でハナニムと言います。邪悪にまみれたこの世に神の支配を回復すること、地上天国の実現がわれわれの願いです。その神の子を産むためにあるのが合同結婚式。この結婚によって、男女はアダム・エバから受け継いだ罪を清算して教祖から神の血を受け継ぐんです。

そうした神の御意思を正確に伝えられるのが、神様から願いを託されたお父様(文鮮明氏)。真の神様とも呼びます。第一がアダム、第二がイエス・キリスト、第三がお父様です。これに政治家の皆さんが理解を示してくださったのは、それが正しいからでしょう。逆にそれをおかしいと言うのがサタンに心を侵された人々です。テレビで教団を批判した弁護士の顔は悪魔そのものでしたね」。

信仰の自由はあっても、こうした不可解な主張に、萩生田氏は「理解を示して」いた。いくら「関係を断ちます」と言ったところで、別の信者はいまだ「教団に理解を示さない悪(世間)に向けた表向きの姿勢でしょう」とも口にしていた。

この状況に、2022年10月に脱会した元信者男性は「いま連合には“ステルス信者”というのがたくさんいて、信者であることを隠して信仰し、特定の政治家を応援していこうとしている」と言う。

「私自身、ステルスで政治活動をしてくれと言われたので、脱会を決めました。もう教団にはついていけない」。

ステルス信者というのが可能なのは、統一教会には基本的に正式な入信制度がないからだ。実際、十数名の信者が一様に「入会申込書のようなものを書いたことは一度もない」と話している。信者数が不明瞭なのもそのせいだ。

創価学会はじめ他教団と違い、統一教会の組織図は非常に曖昧で、だから「関連団体」なるものが無数に存在する。話を聞いた十数名も、約半数が教団の関連団体の所属で、平和ボランティア団体に属する40代女性は「私は間違いなく家庭連合の信者ですが、合同結婚式に参加したこともありませんし、社会生活の中で一度も信者だと名乗ったことはないんです」とまで言っている。

まるで隠れキリシタンのような状態が以前からあったというわけだが、それこそ彼らが隠密に政治や行政に取り入るための方法でもあった。そして皮肉にも、それを加速させたのが今回の教団にまつわる騒動である。

 

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片岡亮 片岡亮

米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。

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