【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

岡田充氏講演録まとめ(その6):中国の台湾政策について

宮城恵美子

1.中国の台湾政策とその論理

では、中国は台湾への軍事侵攻についてどう考えているのだろうか。

China written newspaper close up shot to the text.

 

まず中国の台湾政策を見てみよう。中国にとって、台湾統一は、帝国列強に分断・侵略された国土を統一し、「偉大な中華民族の復興」という戦略目標の一つである。すなわち、祖国統一」は「現代化」とそれを保証する「平和的国際環境」とならぶ「三大任務」の一つなのだ。

「三大任務」の優先順位は「現代化建設」と「平和的国際環境」にあり、「台湾統一」の優先順位は一番低い。ここで注目したいのは、中国的思考である「大局観」で、「偉大な中華民族の復興」を実現するには、平和的な国際環境の下で近代化を達成しなければならない。大局を優先させ、様々な難題が待ち構える台湾統一は後回しになる。これが中国共産党の「大局観」である。

中国の習近平国家主席は、2019年1月に自身の台湾政策を発表した。その内容は、①台湾の平和統一の実現、②台湾統一を「中華民族の偉大な復興」と初めてリンクさせた。

中国・習近平国家主席

 

中国の長期戦略は、中国の建国100年目の2049年に「社会主義大国として偉大な復興を実現する」ことにある。ゆえに、アメリカが言う「6年以内」に台湾に侵攻する必然性はない。

ただ、ゼロコロナ政策をはじめ、少子化や米中対立激化に伴う成長制約要因が多数存在している。中国共産党の最優先順位は「体制維持」にあり、リスクの高い台湾の武力統一はそのことを危険に晒す。

一方、中国が武力行使を否定しない理由はどこにあるのか。それについては、日中平和友好条約が結ばれた1978年、来日した鄧小平が福田赳夫首相との会談で、「我々が武力を使わないと請け負えば、かえって台湾の平和統一の障害となる。そんなことをすれば、台湾は怖いもの無しで、尻尾を1万尺まではねあげる」と述べた。

つまり、武力行使を否定しないのは台湾独立の動きを抑えるのが目的で、独立の動きに歯止めをかけないと、平和統一は遠くなるという危機感を持っているのである。

2.台湾武力行使の三条件

では、中国はいかなる場合に武力行使に踏み切るのか。2005年3月に成立した「反国家分裂法」では、中国が台湾に非平和的方式(武力行使)を取る三条件を定めた。

その内容は、①台独分裂(台湾独立推進)勢力が、台湾を中国から分離しようとした場合(たとえば独立宣言など)、②台湾の中国からの分裂をもたらしかねない重大な事変が発生したとき(外国の干渉を含む)、③平和統一の可能性が完全に失われたときである。

この三条件を裏読みすると、現状は「独立していない」ことになり、台湾の蔡英文政権も「現状維持」を強調している。

問題は、中国の台湾海峡の現状認識で、それは「中国と台湾は統一していないが、中国の主権と領土分裂していない」というものである。したがって、台湾が独立宣言をしたり、現状を破壊しない限り、中国は武力行使しないことを約束している。

Soldier holding machine gun with national flag on background – Taiwan

 

3.一党支配揺さぶる武力行使

ここで、中国が台湾に武力行使をした場合に想定される3つの可能性を検討してみたい。

第一に、艦船数では中国が米国を上回るが、総合的軍事力では依然として大きな差がある。米国が保有する核弾頭は5000発弱であるのに対して、中国は500発しか保有していない。

アメリカのキッシンジャー元国務長官は2021年4月30日、「米中衝突は核技術と人工知能の進歩によって「世界の終末の脅威を倍増させている」と述べ、核戦争に警告を発している。

第二は台湾の民意である。台湾の「統一支持」は1~3%に過ぎない。将来的には独立を望む人や統一を望む人も含めて、80%は「現状維持」を望んでいる。問題は、この台湾の民意に逆らって無理やり武力統一すれば、台湾は戦場化する。たとえ中国による台湾の武力統一が成功したしても、新しい「分裂勢力」を抱えるだけであって、「統一の果実」はない。

第三に、武力行使への国際的な反発と経済制裁は、「一帯一路」にもブレーキをかけ、経済発展の足を引っ張る。ウクライナ戦争におけるロシア制裁どころではない打撃を受けるであろう。まして武力統一は最悪の選択であり、結果的に中国共産党の最優先課題である「一党支配」が揺らぐ可能性がある。

【その6についての宮城の感想】

岡田氏はキッシンジャーの発言にも言及している。アメリカの軍産複合体は中東での戦争戦略が「終了」し、次の獲物をねらっている。中東からアジアへの方向転換が図られている。

代わりにアジア人の命を使って戦争継続をはかろうと考えている。米国の若者は殺さないようにしたいし、米国人の血を流すことは議会では通過が難しい。また米軍の保持する戦闘機も艦船も消耗をできるだけ避けたいのだ。

だから米軍は「戦争=有事」になれば、第1列島線からも退避する。「戦争シナリオ」はまさに米国のエゴの限りを尽くしているのだと思われる。

 

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宮城恵美子 宮城恵美子

独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。

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