岡田充氏講演録まとめ(その7):台湾有事をめぐる日本の対応
安保・基地問題1.住民巻き込み、憲法違反。移動軍事拠点候補40カ所は有人島
最後に、日本の対応について述べておきたい。「台湾有事」では日本が中国の攻撃目標になる可能性がある。だから、日本は対中軍事抑止力と軍事費を強化すべきだ。これが岸田政権の発表した防衛関連三文書の落としどころだと思う。
武力攻撃を受けたらどうするのかという危機を煽って、それに対処するべきと世論を操作し、そのために軍備を増強しようとしているのだ。
移動軍事拠点候補40カ所は有人島で、中国からのミサイルの攻撃目標になる。戦場化したら住民が戦闘に巻き込まれる可能性が高い。沖縄県の玉城デニー知事は「米軍による自衛隊施設の共同使用が重なると非常に大きな不安を抱える。共同使用はやるべきではない」(沖縄タイムス)と反対を表明している。
制服組には「最悪のシナリオを想定し作戦を練るのは当然」という考え方がある。しかし、日米共同作戦計画が想定する「戦争計画」は、専守防衛(相手から武力攻撃を受けたときに防衛力を行使する)という憲法の精神に反している。
2.対中抑止に同調しないアジア、翼賛化する日本
2022年5月のバイデン米大統領による東アジア歴訪は、日米豪印のクアッド首脳会議だけでなく、新しいアジアにおける経済安保枠組み(IPEF)を構築することが目的であった。
IPEFには日・米・豪・韓・印・東南アジア諸国など14カ国が参加したものの、インドを含めてASEAN(東南アジア諸国連合)との溝はまったく埋まらなかった。それは、ASEANは米中対立において「米国を選ぶか、中国を選ぶか」「民主を選ぶか、独裁を選ぶか」という二項対立論に巻き込まれることを懸念している。
たとえば、10年前と現在の日本のASEANに対する経済力と比較すると、10年前はASEANに対する日本の輸出入がトップだったが、現在は中国がトップで日本の3倍以上を占めている。
ASEANにとって中国は、政治的、経済的に欠かせない関係にある。また、インドは核や空母を保有する軍事大国で、兵器やエネルギーの多くをロシアに依存している。ゆえに、ロシアのウクライナ侵攻でも欧米の対ロ制裁に参加していない。同時に英国の植民地支配を受けた歴史から、伝統的には非同盟を貫いている。現在はヒンズーナショナリズム色の強いモディ政権が「戦略的自律」を強調し、米国とは一線を画している。
軍事力の国際比較では、1位は米国、2位が中国、3位がインド、4位が日本である。2022年末に岸田政権は「国家安全保障戦略」を策定し、5年で防衛費を倍増する計画が打ち出された。日本はインドを抜いて世界3位の軍事大国になる。これは戦争放棄を謳った平和憲法を持つ国が進むべき道ではない。
いずれにしてもアジアは日米の対中戦略にとって「アキレス腱」であることが、バイデン訪日で明らかになった。アジアは日米の対中戦略の「アキレス腱」になっており、アジアにおける日本の「ポジション危機」も深まっている。
その一方で、日本では政治と世論の翼賛化が急速に進んでいる。それに加えて、ロシアのウクライナ侵攻が中国脅威論に輪をかけている。
台湾は、日米にとって中国を軍事抑止のためのカードにすぎない。日本も米国にとってはカードにすぎない。「自由と民主主義の普遍的価値観に基づく同盟だから死んでも守る」などという気は一切ない。台湾問題で語られる「民主」とは、中国抑止のための「価値観外交」の宣伝ツールである。
それは戦後の米国の軍事行動を見れば一目瞭然だ。米国はベトナム戦争の敗北で南ベトナムを見捨て、フィリピン、台湾、韓国など「反共の砦」だった独裁政権を見捨て、さらにイラク、アフガニスタンにも軍事侵攻したが民主化に失敗し見捨てた。つまり、第二次世界大戦後、米国は自国の利益のために軍事力を行使してきた。日本を含め多くのアジア諸国は米国の世界戦略のために利用されている。このことを肝に銘じておくべきだろう。
日本の国会では2022年3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領にオンライン演説を許し、500人の超党派国会議員が集結した。一方の戦争当事者のトップだけに演説を許すのは問題だ。政権のトップから日本共産党を含めた野党のリーダーたちまでが「祖国防衛戦争の正義」を絶賛した。これは憲法精神に反している。
確かにロシアのウクライナ侵攻は明らかな国連憲章違反だが、一方でウクライナ・ナショナリズムを煽って、ウクライナに兵器を売却するのも明白な戦争行為である。このような「祖国防衛戦争」を日本の国会が絶賛している。ゼレンスキーの国会演説の実現によって、日本の「翼賛政治」は完成したと言える。
独立言論フォーラム・理事。那覇市出身、(財)雇用開発推進機構勤務時は『沖縄産業雇用白書』の執筆・監修に携わり、後、琉球大学准教授(雇用環境論・平和論等)に就く。退職後、那覇市議会議員を務め、現在、沖縄市民連絡会共同世話人で、市民運動には金武湾反CTS闘争以来継続参加。著書は『若者の未來をひらく』(なんよう文庫2005年)、『沖縄のエコツーリズムの可能性』(なんよう文庫2006年)等がある。