【連載】横田一の直撃取材レポート

岸田政権の〝鈍足対応〞、統一教会「救済新法」めぐる与野党攻防

横田一

・野党からの突き上げ

「(被害者救済新法への)政府与党の『初動の遅れ』は明らかだ。最初は『次の(通常)国会だ』という意見もだいぶ聞こえていた。事態の深刻さが呑み込めていなかったのだと思う」。

2022年11月18日の幹事長・書記局長会談後の会見でこう断言したのは、立憲民主党の岡田克也幹事長。消費者庁で「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」が立ち上がって2カ月以上も経つのに政府案の概要(要綱)しか出てこない動きの遅さについて、私が質問した時のことだ。

しかも、河野太郎デジタル担当大臣(消費者庁担当相も兼務)が検討会メンバーに抜擢したのは、長年にわたって統一教会問題に取り組んできた紀藤正樹弁護士ら。それなのに政府案には、いわゆるマインド・コントロール下における献金への規制が明確な形で盛り込まれていなかった。

安倍晋三元首相銃撃事件により韓国教団への日本人の富(財産)の流出を阻止する新規立法が緊急政治課題になったにもかかわらず、岸田文雄政権(首相)の動きは非常に遅く、かつ不十分だった。内閣支持率が下落を続けるなかで野党に突き上げられて少しずつ動き出すという“鈍足対応”を繰り返し、12月10日閉会予定の臨時国会での成立すら危ぶまれる状況に陥っていたのだ。

統一教会による被害者の救済に長年取り組んできた「全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)」は11月4日、高額献金規制・被害者救済法案の今国会成立を求める会見を開いた。

年明けからの通常国会に先送りされた場合、予算審議が優先されるため、法案審議が始まるのは春頃になってしまう。川井康雄弁護士が「この機会を逃してしまったら、新しい法律の整備は非常に難しくなる。皆さんの関心が高まっている時に法整備を進めていただきたい」と強く訴えたのはこのためだ。

状況が暗転したのは10月下旬。同月17日から始まった予算委員会で岸田首相は新規立法への前向きな姿勢を示し、それに呼応して与野党4党(自民・公明・立民・維新)の協議会が発足、21日の初回会合で臨時国会での成立を目指すことで合意した。

A news headline written in Japanese as “legal development”.

 

しかし協議を重ねても、マインド・コントロールの定義などをめぐって与野党間の考え方のギャップはなかなか埋まらず、11月1日の4回目の協議では「与党側から今国会での成立断念を示唆する発言が相次いだ」と野党側は報告。通常国会への先送りの可能性が取り沙汰されるようになった。

Concept of control. Marionette in human hand. Close-up. Black and white.

 

3日後の4日に開かれた第5回協議でも議論は加速せず、それどころか立民と維新が共同提案をした法案について、自公から54項目にわたる質問事項が示された。対案を出さずに野党案にケチをつける与党に対して、立民の協議担当・長妻昭政調会長は「条文を早く出していただきたい」と求めた。そのうえで「(野党と与党案の条文を)一つずつすり合わせて、より良いものを作ることが必要」と強調したのだ。

そして同日の支持者向けの国政報告会で長妻氏は、岸田首相が旧統一教会の被害者と次週(11月7日以降)の早い時期に面会すると国会答弁で表明したことを紹介。「面会後のぶら下がり取材で被害者救済法案についてどう語るかに注目している」と語った。この時に今国会成立を表明しないと、日程的に厳しいという見方を示したのである。

「(岸田首相は)被害者と面談したあと、番記者によるぶら下がり会見があるわけです。その時に『いろいろ党内にも公明党にも意見はあるが、やはり悪質献金防止の被害者救済法案、一番の本丸の新法を今国会中にやる。私はそれを支持します。それを党内に厳しく言いました』というようなことを言うきっかけを作るために『被害者と来週会う』と答弁したのではないかと思っている。これが空ぶったら『やっぱり岸田さんダメだな』と言わざるを得なくなってしまう」(長妻氏)。

野党にダメ出しの期限を切られた岸田首相はG20の外遊出発3日前の11月8日、ようやく膠着状態の打開に動いた。新規立法に消極的とされる公明党の山口那津男代表と会談後の会見で岸田首相は、被害者と面会して凄惨な経験を聞いたことを明らかにしたうえで、「政府としては今国会を視野に出来る限り早く(被害者救済)法案を国会に提出すべく、最大限の努力をすることにします」と述べたのだ。

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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