闘いは各地で続いている、安倍国葬強行に反撃する違憲裁判
メディア批評&事件検証・自民党は解体するしかない
1カ月の間に3閣僚が更迭される異常事態だ。本稿執筆の2022年11月25日時点で、山際大志郎経済再生担当相(10月24日、統一協会汚染)、葉梨康弘法相(11月11日、死刑ハンコ発言)、寺田稔総務相(11月21日、政治とカネ)の3人がそれぞれ異なる理由で辞任に追い込まれた。閣内にはまだ、政治資金を巡る問題を抱えた秋葉賢也復興相が残っている。
寺田氏の後任となった松本剛明総務相(民主党議員時代に外相)も、就任翌日のしんぶん赤旗(11月22日付)が、松本氏の資金管理団体が2018〜20年に、兵庫・姫路市内のホテルで収容人数を超えるパーティ券を販売し、政治資金規正法違反の疑いがあるとスクープ。続いて、岸田文雄首相が2021年の衆院選(10月31日投開票)に伴う選挙運動費用収支報告書に、宛名も但し書きも空白の領収書を94枚添付していたことが、週刊文春の調査報道で明らかになった。
岸田氏は11月11日から19日まで、東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議や、主要20カ国の首脳会議(G20)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席するため、カンボジア・インドネシア・タイの3カ国を訪問する予定だった。
しかし葉梨氏を急遽更迭したため、11日午後3時出発の予定だったのに10時間遅れで、12日午前1時に羽田を発った。午前8時からのASEAN首脳会議には間に合ったが、会議後に予定していたラオス・ベトナム・ブルネイとの2国間の首脳会談は取りやめとなった。
岸田氏は米国・韓国・中国などと首脳会談を行なって外交の成果を示そうとしたが、岸田内閣の支持率は回復するどころか、いずれも前回より数ポイント下がっており、危険水域の30%台に落ち込んでいる。
キシャクラブメディアは解散総選挙や岸田首相の後継問題が浮上したとして「次の首相候補」に河野太郎デジタル相らの名前を挙げているが、2020年8月以降の安倍晋三・菅義偉両首相の後継選びとは全く状況が違う。「選挙の顔」のすげ替え、看板の塗り替えではすまない。
天皇を国家元首と規定する憲法改「正」草案を持つ自民党が、天皇制を殲滅すると教義の中で公言する創立者を崇める統一協会=国際勝共連合とズブズブの癒着関係にあったのだ。
週刊現代などによると、文鮮明教祖の「御言選集」(615巻)には〈日本は一番の怨讐の国でした。二重橋を私の手で破壊してしまおうと思いました。裕仁天皇を私が暗殺すると決心した〉〈裕仁天皇を二重橋を越えて殺してしまおうとした地下運動のリーダーだった〉という記述があるという。「日本の天照大神のルーツは韓国」「西郷隆盛も吉田松陰も韓国人」「対馬は韓国の領土」という主張もある。
自由主義と民主主義の実現を党綱領とする自民党が選挙運動や壊憲運動で、統一協会信者を実働部隊に使ってきた。これは自民党の党綱領・党方針に完全に違反する。
今は、自民党が政治資金規正法で定める政党としての要件を満たしていないことを、まず問題にしたい。
自民党に政党交付金(2022年度は160億円)を受給する資格はない。岸田総裁は党解散の届け出を提出すべきだ。そして、新たな政党として出直すしかない。党改革を遂行する資質がない。
衆院の解散ではなく、岸信介・第三代自民党総裁の時代から半世紀にわたって統一協会=国際勝共連合と癒着・協働してきた政権政党・自由民主党の解党・解散を求める時だ。
・安倍氏の国葬強行と統一協会関係調査拒否
自民党が崩壊寸前となったのは、清和政策研究会の会長だった安倍晋三氏の統一協会との癒着関係について、岸田氏が「ご本人の心の問題である以上、亡くなった今、十分に(関係を)把握することは限界がある」などという理由で、調査を拒んでいるからだ。
また、民衆の6割以上が反対した安倍氏の国葬(岸田自公政権は「国葬儀」と呼ぶ)を2022年9月27日に強行した。岸田氏は安倍氏の銃殺事件(同年7月8日)から6日後の記者会見で、安倍国葬を9月に実施すると表明。国葬を通じて「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示す」と強調した。
日本国民の多くは、権力が不当なことをしても、既成事実を前に反対の声が消えることが多いが、安倍国葬に限っては、終了後も異論が全く減少していない。
共同通信の世論調査(10月9日発表)によると、安倍氏の国葬を「評価しない」「どちらかといえば評価しない」が計62%で、「評価する」「どちらかといえば評価する」の計37%を上回った。読売新聞の調査(11月1〜2日)で、一定の業績を残した首相経験者などを対象とした国葬を今後、実施してもよいと「思わない」は58%で、「思う」は33%にとどまっている。
衆院議院運営委員会に「国葬儀の検証等に関する各派代表者協議会」が設置され、11月14日、国会内で3回目となった協議会があり、3人の有識者から非公開で意見を聴いた。
その一人、西田亮介・東京工業大准教授はヤフーニュース(11月17日付)で、国会での議論が非公開になっていることについて、「各地で知事らの公費による国葬儀参列の差止めをもとめた住民監査請求が軒並み棄却されている。棄却の判断はやむをえないと考えるが、国葬や国葬儀に反対する立場の人たちからすれば、ますます検証に対する不信感も増すのではないか」と述べた。
・違憲・違法の国葬強行に抗い全国各地で裁判闘争
安倍国葬を巡っては、岸田氏が実施を表明した後、「安倍『国葬』やめろ実行委員会」(私は呼び掛け人の1人)が発足し、全国各地で国葬決定の閣議決定取り消し並びに予算執行差し止めの仮処分命令を申し立てた。
また、東京地裁・横浜地裁・大阪地裁・さいたま地裁に本裁判を提起した。私たちとは別の市民グループが原告になっている東京では地裁が門前払いで棄却したが、大阪・横浜では、地裁が口頭弁論を開いて実質審理に入っている。さいたまは11月25日の時点で、弁論を開くか決まっていない。
また、全国の18の自治体で、弁護士・市民が知事・市長・議会議長らの国葬参加の支出差し止めを求めて住民監査請求を申し立て、すべて請求が却下されている。広島県と北海道の申立人が、知事と議長に費用を返還させるよう求め、広島地裁と札幌地裁にそれぞれ行政訴訟を起こした。
国葬の閣議決定と予算執行の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てたのは、「権力犯罪を監視する実行委員会」(安倍晋三記念小學院・加計学園獣医学部・「桜を見る会」各疑獄を追及してきた「税金私物化を許さない市民の会」のメンバーらで構成)の50人。閣議決定の4日前だった。田中正道事務局長は申立書を提出後に記者会見し、「法的根拠がなく、国会での議論もなしで、閣議決定だけでの国葬強行は憲法違反で認められない」と話した。
申立書では、安倍氏への評価が分かれるなかでの実施は、思想・良心の自由を保障する憲法19条などに違反するとした。松野博一官房長官は同日の記者会見で仮処分申し立てに関し「今後、司法の場で取り扱われることであり、政府としてコメントは差し控えたい」と述べるにとどめた。
別の市民団体「安倍元首相の国葬を許さない会」のメンバーら約230人も8月9日、国に対し国葬の実施や国費からの予算支出の差し止めなどを求める訴訟を東京地裁に起こした。1回も口頭弁論を行なわず、訴えが「不適法」だとして却下された。
私たちはその3日後、国葬実施の閣議決定取り消しと、予算執行の差し止めを求める訴訟を横浜・さいたま両地裁に起こした。訴状では、国葬は公権力により一方的に安倍氏を崇めさせることになり、憲法19条に違反すると主張。また国葬に法的根拠はなく、閣議決定だけで費用を支出するのは違法で、政府が財源に2022年度予算の予備費を想定していることに「緊急性がない予備費の支出は違法だ」とした。
さらに8月19日、元泉南市議の小山広明氏が1人で大阪地裁へ同様の提訴を行なった。
さいたま地裁の原告団は11月8日、審理を担当する民事第4部に対し、門前払いせず双方の言い分をきちんと聞く口頭弁論の期日を決めるよう要請文を提出した。
1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。