【特集】統一教会と国葬問題

ファシズム的2012年体制と日本の衰退

藤田幸久

1.日本のファシズム化を支えた政治の根底構造

1月27日は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」で、米国など5カ国の駐日大使・総領事が、広島県福山市の「ホロコースト記念館」に集まった。

米国のエマニュエル大使は「ロシアはウクライナを非ナチ化すると主張して戦争をしている」と批判した。同日、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナでは『ネオナチ』が活動している」とウクライナへの軍事侵攻の正当性を述べた。

しかし、残虐なホロコースト(人種絶滅政策)を行ったのはナチだけではなく、多くの国々で、しかも現在に至るまで闊歩しているファシズムである。

 

米国の首都ワシントンD.C.にはホロコースト記念博物館がある。その売店のカレンダーに政治学者ローレンス・ブリット博士(Lawrence Britt)の「ファシズムの14の初期警報」が書かれており、数年前に安倍晋三元首相との類似性が話題になった。

 

第二次安倍政権以来の政治は「2012年体制」とも言われるが、この間日本のファシズム化と民主主義、国民主権、国力が棄損したことが最近鮮明になった。

その契機は安倍晋三元首相の非業の死である。安倍元首相には同じ国会で働いた者として心から哀悼の意を表したい。この死は政治家の地盤を支援し継承させる下支えを統一教会が担っていた驚愕的実態を明らかにした。

後世の歴史には、安倍元首相は、その死がなければ未来永劫闇に包まれたであろう日本政治の根底構造を世に知らしめた首相として刻まれると思われる。

2.ファシズムの14の初期警報

第二次世界大戦時ドイツやイタリアなどによるホロコーストによって欧州で約600万人のユダヤ人が虐殺された。私もホロコースト記念博物館を訪問したが、アウシュビッツ収容所のガス室などの模型、写真、武器などが展示されており、当時の臨場感あふれるものとなっている。

これら展示の目的は、憎悪の危険性と残虐行為、そして社会が自由と人間の尊厳への挑戦にどう立ち向かうことができるかについて訪問者を啓蒙することとされている。

ブリット博士は2003年春季号の雑誌『Free Inquiry magazine』に「ファシズムの特徴」という論文を掲載した。論文の内容は、ヒットラー(ドイツ)・ムッソリーニ(イタリア)・フランコ(スペイン)・スハルト(インドネシア)・ピノチェ(チリ)の研究結果としてのファシズムの共通項をまとめたものである。

「ファシズムの14の特徴(The 14 Characteristics of Fascism)」(藤田幸久訳)

①強大で執拗な国家主義の宣伝(Powerful and continuing nationalism)

ファシスト政権は、愛国主義的モットー、スローガン、シンボル、歌などの様々な手段を常時駆使する性向がある。旗は至る所に立てられ、衣服や公共の場にも掲げられる。

②人権の認識の蔑視(Disdain for the Recognition of Human Rights)

敵に対する恐れや安全保障の必要性から、ファシスト政権において国民は、人権は「必要な」ケースにおいては無視できると宣伝されてきた。国民は、人権の真逆を向き、拷問、即決処刑、暗殺、囚人の長期投獄までさえも認めがちになる。

③団結の目的のための敵/スケープゴートづくり(Identification of Enemies/Scapegoats as a Unifying Cause)

国民は、民族、人種や宗教の少数者、リベラル派、共産主義者、社会主義者、テロリストなど共通の脅威や敵とみなされた人たちを排除することが必要とされ、団結して愛国主義的に熱狂するよう駆り立てられる。

④軍隊の優位性/熱烈な軍国主義(The supremacy of the military/avid militarism)
国内に様々な問題を抱えていても、軍隊は破格の政府予算をもらい、国内問題は無視される。兵士と軍隊は美化される。

⑤性差別の蔓延(Rampant sexism)

ファシスト諸国の政府は、ほぼ例外なく男支配である。ファシスト政権下では、伝統的な男女の役割は厳格である。人口妊娠中絶や同性愛に対する反対は強く、反ゲイ法案が国の政策となる。

⑥マスメディアの統制(A controlled mass media)

メディアは直接政府に支配されることもあるが、それ以外にも、メディアは政府の規制や、政府に好意的なスポークスマンやメディアの幹部によって間接的に支配される。検閲は、特に戦時中は行使されるのが通例である。

⑦国家の治安への執着(Obsession with national security)

恐れは、政府が大衆を支配する動機づけの道具として使われる。

⑧宗教と支配層エリートの癒着(Religion and ruling elite tied together)

ファシスト国家の政府は、最も大きな宗教を世論操作の道具として使う傾向がある。たとえ宗教の教義が政府の政策や方針と正反対であっても、宗教の説教手法や用語は政府の指導者と相通ずる。

⑨企業権力の保護(Power of corporations protected)

ファシスト国家の産業、経済界の首脳たちは、政府の指導者達に権力を与えて、経済界と政界との相互利害関係と権力構造を構築する。

⑩労働者の力の抑圧(Power of labor suppressed)

組織された労働者の力はファシスト政府に対する唯一の脅威であり、労働組合は全面的に排除されるか、厳しく抑圧される。

⑪知性と芸術の軽視と抑圧(Disdain and suppression of intellectuals and the arts)

ファシスト国家は高等教育や学術に対するあからさまな敵対を示し、許容する。教授や学者が検閲を受けたり、逮捕されることさえある。芸術の自由な表現はあからさまに攻撃され、政府はしばしば芸術に対する財政支援を拒否する。

⑫罪と罰への執着(Obsession with crime and punishment)

ファシスト国家においては警察に法の執行に関する無制限に近い権力が与えられる。国民は愛国主義の名のもとに、警察権力の濫用を看過し、市民の自由権すら放棄してしまう。ファシスト国家においては、しばしば無制限に近い権力を有する国家警察が存在する。

⑬縁故主義と汚職の蔓延(Rampant cronyism and corruption)

ファシスト政権は、友人や仲間のグループによって支配されるのが常で、彼らが政府ポストを独占し、政府権力を駆使して彼らの友人達を責任追及から保護する。ファシスト政権は国の資産や国宝ですら私物化したり、公然と盗用することさえもまれではない。

⑭不正選挙(Fraudulent elections)

ファシスト国家においては、まともな選挙が行われないことがある。または、選挙が、反対派の候補者に対する中傷や暗殺、投票者の数や選挙区の境界を制限する法律、メディアの統制などによって操作される。ファシスト国家は、しばしば司法権力を使って選挙に介入したり、支配する。

3.ファシズムの初期警報と安倍政治との類似性

2018年の参議院本会議と決算委員会(テレビ入り)で、私は、ファシズムの初期警報と安倍政治の類似性を、以下のようなパネルを示して安倍首相に質問した。(一部はその後に追加)。

 

・初期警報の「強力な国家主義/熱烈な軍国主義」は、安倍政権の「解釈改憲による集団的自衛権行使と安保法制」、「敵基地攻撃論」に当てはまる。

・「国家の治安への執着/刑罰への執着」は、「特定秘密保護法」と「共謀罪」

・「マスメディアの統制」は、「ニュースキャスターの交代」、「NHKの政府に対する忖度」

・「身びいきと汚職の蔓延」は、「森友・加計問題での“そんたく”」、「日銀総裁、内閣法制局長、NHK会長人事」、「官邸主導の霞が関人事」

・「団結のための敵/スケープゴートづくり」は、「前川元文部科学事務次官への人格攻撃」、「麻生財務大臣が佐川が、佐川が、佐川がと財務省佐川理財局長のみに責任転嫁」、「民主党政権は悪夢」

・「不正な選挙」は、「ヒットラーは選挙を連発して権力奪取」、「河井克行・案里議員の選挙違反」

News headline with “Sontaku”

 

私は、「解釈改憲による集団的自衛権行使と安保法制」や「特定秘密保護法」、「共謀罪」は、歴代自民党首相の立場とは異なる点も指摘した。

安倍元首相は普段であれば、こうした質問に対しては気色ばんで反論すると思いきや、薄ら笑いを浮かべながら、「いきなりそういう飛躍されても、国民の皆様も戸惑うだけだと思います」、「何とも言えない論理展開だと思いますが、そうは思いません」などと答弁した。

 

これに対して私は、「最近トランプ大統領のメラニア夫人がホロコースト記念博物館を訪ねました。メラニア夫人は、『ホロコースト記念博物館は亡くなった何百万人もの罪なき人々に敬意を表し、私たちにホロコーストの悲劇や影響を教えてくれるのです、博物館を回り、心を揺さぶられる思いがしました』と話されました。これは人権の問題、そして、まさに法と秩序の大きな問題です」と切り返した。

2013年5月の米国議会調査局の報告書は、安倍晋三元首相は「慰安婦」や教科書、靖国神社参拝などの歴史問題で「地域の関係を損ね、米国の利益も損なわれる」と述べた。また、安倍首相は「日本の歴史について修正主義的見解を持ち、旧日本帝国の侵略とアジア諸国民の犠牲を否定する」と指摘した。この報告にはブリット博士の言葉との類似性も見られる。

 

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藤田幸久 藤田幸久

水戸一高、慶大卒。初の国際NGO出身政治家。世界52カ国を訪問。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣として10年ぶりに医療・介護予算を増額。民進党次の外務大臣、民主党国際局長、横浜国立大非常勤講師、等歴任。現在国際IC日本協会会長、岐阜女子大特別客員教授

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