【特集】統一教会と国葬問題

Cultに遭った明治期のグローバル志士たち

浜地道雄

筆者の古い経験的にはビジネス上「政治と宗教の話は不可」といった不文律があった。が、やはり時代は変わった。グローバル時代にあっては論争Debateは別として「異文化(宗教)・歴史(治政)」の知識・認識なしにはことは成り立たない。

その観点からして、安倍晋三元首相の2022年7月8日の暗殺事件をきっかけに突然大問題として浮上した(旧)統一教会の「非社会的カルト性」は深刻なテーマだ。

閣僚の更迭はじめ、国会議員、地方議員の「ズブズブ」という追及が国政や社会システムに混乱が生じている。

そこで、この日本人には中々理解しにくい宗教論について二つの観点から考察を試みよう。

極めて難しく、微妙な論議であり、主観的な論も記したが、意見、異見を頂ければありがたい。

1)実は、Cult(英語)の本来の語源的には「反社会的」の意はない。

OED Oxford English Dictionaryではa system of religious devotion directed towards a particular figure of object~とあり、「熱心な」「信心深い」の意でありそこに非社会的、詐欺集団という意味合いはない。

米国での生活経験よりすると、このあたりの宗教感について日本との意識、認識の差がみられる。移民の国の原点は歴史的に見て本国における宗教弾圧から逃れるために移民してきたわけであり、従い、そこでは種々の宗教が「共生」する姿が見られる。(「訴訟国家」とあって、無数の訴訟対決はあるにしてもー)

ドイツから逃げてきたキリスト教徒Amish/Mennoniteは今なお「孤高の宗教生活」を維持しているが、これをもCultと分別する説もある。

筆者の米国とのビジネス取引にあってこの観点(熱心だが、非社会的とは言えない)からしてCult にはモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会The Church of Jesus Christ of latter –day Saints LDS)を意識することがある。飲酒、喫煙、麻薬を禁じ、ひたすら勤勉に勉強をする同教徒には優秀な弁護士、会計士、コンサルタントが少なくない。

同教徒として知られるロムニーMitt Romneyマサチュセッツ州知事(当時)は勝れた実業家でもあったし、2012年の大統領選挙では共和党員として有力候補に上がった。一般的に奇異に感じる一夫多妻polygamyは1896年に米国45番目の「州」になる際、廃止されている。

かくして、思い起こすのは明治初期、日本のグローバル化の先駆者である岩倉具視を団長とする米欧使節団だ。

1871年(明治4年)横浜を発った使節団はSan Franciscoを経て、1869年に開通したばかりのUnion Pacific Railway米国大陸横断鉄道で翌1872年2月ユタ州、ソルトレークシティーに到着した。が、その前途ローキー山脈が大雪のため鉄道不通となり、同地に結局18日間足留めを余儀なくされた。

同地はモルモン教の聖地であり、一行は教祖ブリガムヤングとも会い深夜に及ぶ大歓迎を受けた。(堂々たる日本人:岩倉使節団「米欧回覧」の旅:祥伝社、泉三郎、 p33)

 

一行は、はからずも信仰の自由政策をとる米国政府のモルモン教徒への対処について見聞し、使節団副使伊藤博文は「積極派」であるが、岩倉大使は「決して今回は解禁しない」という立場であった由。

Salt Lake City駅舎に残る岩倉使節団訪問プレート

 

「文明開化」にあたり、(キリスト教)伝道の可否論の良き準備になったと言える。

さあ150年後の今、改めて「異文化(宗教)理解」意味、意義を考えさせられる。

2)さて、ここでは、現下の国政における大混乱に鑑み、やはり「カルト性=反社会、詐欺まがい?」について筆者の個人的見地から下記試みる。

その基本は「なぜ、10年、20年、否、40年来の重要事項が徹底的に考察、検証されなかったのか?」「なぜ、2022年の今突如、国政を揺るがすほどに炎上するのか?」だ。

・注目すべきは、統一教会・KCIA大韓民国中央情報部についての450ページにも及ぶ「Fraser報告書」だ。米国ミネソタ州選出の民主党フレイザー下院議員(当時)を委員長とする国際機構小委員会の「韓国の対米関係に関する調査」最終報告書が発表されたのは1978年。すでに45年前にアメリカや日本で政治工作を行っていることを明らかにしている。それが日本では全くと言っていいほど、話題にならず、検証されていない。

Ex-Director Informs on KCIA Action – The Washington Post

・多くの日本人女性(男性も)が参加、人気歌手の桜田淳子さんの参加で話題になった合同結婚式は1992年。30年前だ。今回、合同結婚の結果、夫からDVを受けるなど、離婚(日本に逃げ帰った)例も記事化されている。が、さて、これら10,000人(要確認)とも言われる日本人妻のうち、何人(%)が離婚となったのであろう。

・霊感商法や「献金」による被害も取り上げられている。が、献金(お布施)とは本人の安堵感(自己満足ともいえよう)に直結している。歴史を振り返っても世界の諸宗教にあっては布教活動とともに、(膨大な)資金を集め、絢爛豪華をとも言える立派な聖堂,教会、神社仏閣、記念碑等々が建設され、世界各地での観光名所にすらなっている。

・「信者2世(3世)の「悲劇」が話題になっている。が、親(父、母)として、愛する我が子に自分の宗教感、人生観、価値観、道徳感、趣味等々を伝える、即ち、養育・教育を施すのは極く当然のことであろう。その子が長じてそこに「違和感」が生じて離脱し、はたまた「金銭トラブル」が発生したということであれば、それは「法律に従い裁判」での解決を試みるほかなかろう。

本件で危惧されるのは報道される「民間団体」による信者2世の「強要・虐待」のネット調査。対象は3団体、計1130件(人)とのこと。しかし、この母数は統計的に有意ではない。かつ、調査方式は「スノーボールサンプリング」(即ち、Aが同立場のBに照会、BがCに、と「雪だるま式」に対象が増えていく)。実施代表萩上チキ氏自身が「一般的代表ではない=隔たりがある」と強調している。が、それを「注釈無し」に報ずるメディア。信仰強要や虐待訴える声 荻上チキさん、宗教2世ら1131人調査 | 毎日新聞

再び翻って米国。平均週末参加2,000人以上と言われるメガチャーチMegachurchは全米に1,300以上のプロテスタントのキリスト教会。米国のキリスト教徒の実に1/10、約500万人が礼拝に出席とも言われる。又、テレビ伝道televangelismはテレビ媒体を活用し広く伝道活動をする。いずれも信者数の拡大と同時に「金銭的基盤」即ち献金fundシステムが重要な要素だ。このあたりの活動をもって「(日本語的)反社会的、詐欺まがいのカルト」とは言えない。

要するに、ことの本質は「信じる者は救われる」という個人の心の問題=信仰の自由である。そこに他者(行政)による「政治的介入」は当を得ないのではないのか。官権力の介入に委ねるのであろうか。

こうして見てくると、グローバル化とともに進む「世界混乱」。我々市民レベルでの「異文化(宗教)理解」が不可欠になる。混乱時にあって「この世にリスクゼロはあり得ない」「それを承知したうえでしなやかに生き抜く」ということばが蘇る。

五輪実施~コロナを正しく知り、正しく恐れる | ISF独立言論フォーラム

 

※この記事は、「浜地道雄の『異目異耳』」(2022年11月14日)からの転載です。

原文はコチラ→【第280回】Cultに遭(あ)った明治期のグローバル志士たち 

 

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浜地道雄 浜地道雄

国際ビジネスコンサルタント。1965年、慶応義塾大学経済学部卒業。同年、ニチメン(現・双日)入社。石油部員としてテヘラン、リヤド駐在。1988年、帝国データバンクに転職。同社米国社長としてNYCに赴任、2002年ビジネスコンサルタントとして独立。現在、(一財)グローバル人材開発顧問。「月刊グルーバル経営」誌にGlobal Business English Fileを長期連載中。

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