【連載】モハンティ三智江の第3の眼

インドは終息へ、日本は世界最多の感染国に、明暗を分けたのは?

モハンティ三智江

早いもので、帰国して9カ月近くが過ぎ、余すところひと月弱、師走に入った。

気持ちとしては、年内には1度インドの本宅やホテルのチェックに帰りたかったが、年末でチケット代も高騰しているし、何よりも現時点での水際対策が未接種者には便宜が悪く、日本で72時間前陰性証明を取れば、入国は問題ないが、出国がまた面倒なことになる。

少しは簡素化されたみたいだが、相も変わらずの日本フォーマット、英語の陰性証明なら、田舎の居住地プリー(Puri、東インド・オディシャ州=Odisha)でいくらも取れるが、日本フォーマットの場合、首都デリー(Delhi)近郊の日系企業の拠点・グルガオン(Gurgaon、現グルグラム=Gurugram)にある邦人駐在員向けの日本人女医のいる御用達クリニックに行くしかない。行きはよいよい、帰りは怖い、なのである。

未接種を決めたことに悔いはないが、海外との行来の便宜上、不便極まりない。2022年9月7日から3回接種者はフリーパスになったが、私はその恩恵にはあずからず、首を長くして水際政策全面撤回を待ちわびている現状だ。

1度出国に大変な思いをしているので、もう2度とあんな思いはしたくないと腰が退(ひ)けてしまう。3回接種者がフリーパスになった今は、領事館からのヘルプ、インド全土の居住者に自宅で無料検査サービスの提供はもうないだろう。

ただ2020年3月から2022年3月までの帰りたくても帰れないインドの隔離生活にあって、不可抗力の事態にジタバタせずに、流れに身を任せる、天任せの極意を学んだので、今回も絶好のタイミングが天から降ってくるまで、泰然と構えて待つつもりでいる。

思えば、インドを出ることを決意した時点で当分、下手すると2年は帰れないかもと覚悟したものだ。インドで強いられた待機期間2年3カ月と同じくらいの期間を過ぎないと戻ってこれないだろうと。コロナ前は毎年、インド8カ月、日本は春と夏2回に分けて各2カ月ずつ、計4カ月と、理想の日印半々生活とまではいかぬ、インドに比重の傾いた生活を送っていたが、コロナで、両国の滞在期間が、2年ずつとスパンが長くなる状況に追い込まれた。

3年前に現地人夫を亡くした私的な事情もあって、インドの本宅に私を待つ人は誰もおらず、帰る大義名分を失った。ホテルは甥と、月一度帰郷してチェックする息子に任せているが、終息後の盛況に沸き返っているようだ。私の中で、今後どうするか答はでていない。ただ天任せ、サレンダーの境地なのである。

3回接種フリーパスで、周囲の親族や友人も海外に出だしたが、彼ら経由の情報によると、ベトナムはマスクなし、シンガポールとタイは、半数マスク、インド在住の息子からの情報では、5月の時点でインドはフリーマスク、ドバイもそうだった。

インドのコロナ事情だが、私が出国した3月10日時点で終息とお伝えしたが、第4波を兆し程度に抑え、今もその状況に変わりない(12月8日現在、感染者総数4467万5413人、総死者数53万0647人)。週平均350人程度の感染者数で(12月8日現在週平均221)、インドにとって、パンデミック(世界的大流行) はもはや過去のことなのだ。

我がラッパー息子(芸名Rapper Big Deal、33歳)も、各地のライブはじめ、2023年はホッケーワールドカップ(2023年1月13日から29日、開催地はインドのオディシャ州都ブバネシュワール=Bhubaneswar=とラウケラ=Rourkela)でのパフォーマンスも控え、スケジュールがぎっしり、しかも「Rolling Stone(ローリングストーン)」誌インド版のカバー写真を飾ることになった。

同誌はアメリカで1967年に創刊された知名度の高い音楽情報誌で、トップアーティストのインタビュー記事をはじめ、映画・政治・スポーツまで網羅、日本版では過去、矢沢永吉が表紙を飾ったことがあった。我が息子がインド版カバーを飾るとは、人気・実力とも認められたということでもあり、なんと名誉なことだろう。

「Slumdog $ Millionaire(スラムドック・ミリオネア)」(2008年のイギリス映画で、2009年日本公開、ダニー・ボイル=Danny Boyle=監督)でゴールデングローブ賞作曲賞や第81回アカデミー賞作曲賞(いずれも2009年)に輝いた南インド・チェンナイ(Chennai)ベースの作曲家、A.R.Rahman(ラフマーン、56歳)とも顔合わせ、コラボの話が進んでいる(ラフマーンは、2016年に福岡アジア文化賞大賞も受賞)。

ジョンズホプキンス大学(JHU)による統計は既に、世界各国の日毎の感染者数を呈示するのを止めており、インドの州ごとの数字も不明だが、グラフを見ると、インドの頂点は、2021年5月のデルタ爆発時で、それ以降は急降下、まるでエレベストの頂上から一気にローラーコースターのように滑落する案配で、底辺をほぼ並行に月日と共に推移するラインが続いている。

第8波と騒いでいる日本と大違いだ。もちろん、終息までに多大な犠牲があったことは忘れてはならないが、ワクチン先進国の拡大は、世界を見ても、イスラエル、シンガポール、韓国と来て、今日本、目に余るものがある。

何故、皆、不思議に思わないのだろう。事実だけ見れば、ワクチンが拡大を促進しているとしか思えないではないか。インド人は2回接種者は70%近くだが、3回目は3%に満たない。それに、2回終了者もとっくに有効期限が切れている。つまり、全国民が無防備だ。

インドでは、英アストラゼネカ社から技術供与され、本国で開発したコビシールド(バキスゼブリア筋注)がポビユラーだ。モディ首相は、インド国産のコバキシンを接種(画像はオックスフォード=アストラゼネカ社のcovid-19ワクチン、ウィキペディアより)。

 

にもかかわらず、終息、自然免疫がいかに有効かの証左ではなかろうか。ワクチン率の低いアフリカ諸国も、予想に反して抑えられている。一説には、イベルメクチン(ivermectin)が予防になったとの説があるが、定かでない。

イベルメクチンとは、日本の大村智博士(北里大学特別栄誉教授)が発見し、ノーベル賞を受賞した抗寄生虫薬で、コロナに効くと言われ、デルタ爆発時のインドでも、効験あらたかぶりを発揮したミラクル薬だ。残念ながら、日本では臨床試験はパスしなかったようだが、少なくとも、インド在住者である私から見た限りでは、デルタ株に対しては、多大なる効力を発揮、死者数を軽減するのに役立った。

終息して活気に沸き返るインドと、ついに世界最多になり、4回、5回とワクチン接種に走る日本、明暗を分けたものはなんだろうか。

もちろん、計測されていないだけで、インドにも感染者はもっといると思うが、おおらかな国民性もあって、ちょっと熱や咳が出たくらいで、やれ検査だ、発熱外来だと、日本のように神経質にならず、在宅療養、5日くらいで回復しているのだろう、よって、社会的終息を見た、ということである。WHO(世界保健機関)が緊急事態宣言を解除する日を首を長くして待ちわびている当方だ。

水際対策の全面撤廃は、2023年春との予想もあるが、私見では6月、でなかったら、2023年秋、もしかして2023年いっぱいかかってしまうかもしれない。スペイン、ポルトガル、イギリス、フランス、イタリア、ギリシャ、カナダ、ベトナムなど、続々全面撤廃、接種いかんにかかわらず(陰性証明も不要。インド入国にあたっては72時間前陰性証明のみ必要)、誰でも入国できるようになっているが、真面目で神経質な日本人は、後手後手に回り、世界でも全面撤廃に関しては、最後部に近い部類に入るのではないかと思うが、2023年中には、終息宣言が出ることを期待したい。

 

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モハンティ三智江 モハンティ三智江

作家・エッセイスト、俳人。1987年インド移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」、「インド人にはご用心!」、「涅槃ホテル」等。

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