【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第42号:「島民がデマを流し、民意が誘導される」という元陸幕長発言の重大性を見抜く

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

「沖縄の反対派がデマを流し、民意が誘導されやすい状態になるので、普段から自治体・警察と連携して監視が必要」という趣旨の発言を驚くべきことに自衛隊幹部が公の場でしていた。このことは全面施行を目前にした「土地規制法」の目的と深く関わっていると思われるので、ここで問題点を整理しておきたい。

岩田清文元陸幕長が2018年に開催された国際シンポジウムの「島嶼防衛における陸上自衛隊の役割」報告で、平時から自衛隊・警察の連携による治安体制作りを主張していることが、軍事ジャーナリストで当会オブザーバーの小西誠さんによるフェイスブック投稿で明らかにされた。

問題となるのは、以下の発言である。

「離島に居住する住民に対するハイブリッド戦からの防護が重要です。特にフェイクニュース等の宣伝戦、通信や電力等のインフラの遮断と併せ、旅行客を装うなど平時或いはグレーゾーンの段階から隠密裏に潜入する特殊部隊や工作員さらにジャルイズ氏が指摘された国内の支援者への対応が必要となりますが(中略)通信が断絶した場合、島内反対派が流すデマ等により民意が誘導され易い状態になることからも自治体、警察等との緊密な連携が重要となります」。

ここで触れられている「島民がデマを流す」「民意が誘導されやすい」という知見は沖縄戦前後に日本軍が島民に対して抱いていた偏見や、疑心暗鬼と住民スパイ視という負の歴史と決して無関係ではない。沖縄の地域史の仕事に従事し、沖縄戦の住民対策について調査してきた筆者の経験から、その根拠となる史実をいくつか指摘しておきたい。

・教令の中の住民対策

日本軍は、各地の戦闘の教訓を軍の中央に集約し戦訓をまとめ、戦闘教令を作成した。この教令=戦争マニュアルの中に住民対策があった。日本軍は国外国内を問わず住民の動員なしに作戦を実行できず、住民総動員を基本とした。住民は守られる存在ではなく、利用する対象だった。

1944年に発令された「島嶼守備部隊戦闘教令」は米軍の反攻をうけた日本軍が南方の島々でどう戦うかをまとめたものである。住民対策には「不逞の分子などに対しては機を失せず断乎たる処置を講じ」とあり、また敵が潜入した場合には、敵が住民から日本軍の情報収集をはかる恐れがあると指摘。それらを未然に防ぐためにも住民の取り締まりを厳しくし、場合によっては住民を強制的に移動させる必要があると述べている。

・32軍の「住民対策」と自治体

1944年8月、第32軍司令官牛島満が「防諜に厳に注意すべし」という内容の訓示を出している。沖縄戦でも住民を軍作業に徹底動員しているため、住民は軍の機密を必然的に知る存在であった。その結果、同じ国民であっても沖縄県民を保護する対象とするどころか、「防諜」の対象とみなし、少しでも不穏な動きがあれば「スパイ」視するようになる。

その年の11月には32軍司令部は「報道宣伝 防諜等に関する県民指導要綱」を策定した。注目すべきは「常に民側の真相特に其の思想動向を判断し、我が報道宣伝の効果、敵側諜報宣伝、謀略の企図及び内容の探査等敵策動に関する情報収集に努め、敵の諜報、謀略並に宣伝行為の封殺に遺憾なからしむ」という項目である。

敵のスパイ活動を防ぐには「住民の思想動向を調査」し、県当局とも密接に連絡して「民情」を調べ上げ、「行動不審者の発見」、「防諜違反者の取締」を強化しようとした。軍が警察、自治体と連携して不逞分子をあぶりだしていくという手法は、岩田報告で進言している住民対策の内容と同じである。

・「沖縄県民総スパイ視」の背景とその末路

「スパイ」視の背景には前項で述べた教令にある、「上陸した敵を誘導しスパイを働く」という軍の住民観と、軍が持っていた沖縄蔑視がその背景にある。

1934年に沖縄連隊区司令官が出した「沖縄防備対策」の中で「県民の事大主義思想」「惰弱の気風」「乏しい任侠の精神」を指摘し、敵が攻めてきた時にはなびいていくと、県民に対して露骨な不信を示している。こうした軍の沖縄への偏見は「地方人」と蔑む体質を生み、沖縄戦が始まる前にやってきた日本軍の中で気候風土、生活習慣が違う沖縄に対しての不信感を深めていった。

こうした不信感をより具体的に示した日誌がある。神直道陸軍参謀が記した日誌には「沖縄県人は精神的中核なし、かつ無気力」で、「沖縄県民のスパイは落下傘で潜入」、「電話線」を故意に切断」したという記述があり、32軍の高級幹部の沖縄に対する考え方が色濃くにじんでいる。

沖縄戦で日本軍の戦況が不利な状況になる中、「戦争が負けたのは沖縄人が敵の手引きをしたからだ」とか「沖縄人はみんなスパイだ。戦争が終わったら殺してやる」などの暴言を吐いているのを多くの住民が見ていた。

さらに「沖縄の娘たちが女スパイになっている。娘たちは赤いハンカチと手鏡をもっており、スパイのしるしに陰毛を剃り落としている」などの噂が兵士たちの中でかけめぐり、その噂はさらに噂を呼び「県民総スパイ視」という考えが広がっていった。

そして、この「スパイ」視の考えは沖縄にとどまらず、本土にまで広がっていくことになる。1945年6月下旬、32軍司令部首脳が自決する前、司令部の密命を帯びた陸軍中尉が沖縄を出発し、徳之島に上陸した際、今回の沖縄戦線の失敗は琉球人の「スパイ行為」によるということを放送した。

命がけで船を出し、随行した沖縄出身の兵曹はこの中尉と刺し違えてやろうと思うくらい憤慨したという。中尉はさらに九州の疎開地で沖縄県民のスパイ行為によって負けたことを言いふらし、そのことによって九州に疎開していた住民が受け入れ地で脅迫をされたこともあった。

こうした史実をふまえると、77年前の「沖縄県民総スパイ視」は「敵が上陸すると」、「島民がデマを流す」という岩田元陸幕長の発言と無関係といえないだろう。

・国士隊—民間諜報機関と相互監視・密告社会づくり

沖縄戦が始まる直前の1945年3月、沖縄本島北部に「国士隊」という極秘の民間防諜機関が組織された。軍が民間人を使って組織した国士隊には助役・書記などの町村の役人、国民学校や青年学校の校長、県議、町村議、医師など各方面の有力者、地域の実力者が集められた。

この国士隊の任務は。①反軍、反官、反戦、厭戦の意識を持つ人間はいないか、②移民帰りやその二世、三世で反軍的な言動をするものはいないか、③敵の侵攻に対する住民の意識の把握、④一般住民の中で不平、不満をいう人間はいなか、といったことを調査し、日本軍に報告することであった。

彼らは国士隊であることを戦中はもちろん戦後も家族にさえ話さなかった人がほとんどである。彼らは軍に協力して住民を戦争に駆り立てると同時に、住民の動向を探り、問題のある者がいれば軍に通報するというスパイの役割が与えられた。こうして軍は住民監視、密告社会のネットワークを作り上げ、それらの情報をもとに住民のスパイ虐殺に繋がったとされる事例もある。

・自衛隊と自治体・警察の連携の先にあるもの

今回のテーマである「島内反対派が流すデマ等により民意が誘導されやすい状況になることからも自治体、警察等との緊密な連携が重要」という岩田報告は77年前に軍官民が一体となった相互監視、密告社会の再来を示すであり、自衛隊が自分の島を基地化していくことに不安を訴える者や、避難計画への疑義を唱える者などを「反対派」とレッテルを貼り、島民を誘導する「デマ」を流しやすい厄介な存在と決めつけられることである。

「不逞分子」をスパイと決めつけて処刑した沖縄戦の暗部を想起させる非常に危険な発想であることを、沖縄戦の歴史から学び、教訓としておく必要がある。

その意味で、自衛隊に国民を監視する法的根拠を与えた「土地規制法」は究極の戦時立法といえる。表向きは、基地や原発などの国の安全保障にかかわる「重要な施設」周辺や国境離島の区域を「注視区域」に指定し、土地・建物の所有者や利用者の行動を調査、監視、規制するものであるが、区域・対象者の範囲は無限に拡がりかねず、情報提供の義務が課せられた近隣住民は虚偽の申告をすれば処罰され、密告や住民同士の相互監視が一層強まることになる。

戦前の治安維持法、国防保安法、軍機保護法など自由な言論を封殺し、処罰していく治安法制は、特定秘密保護法、共謀罪、盗聴法、土地規制法という現在の戦争準備のための法制とほぼ同じといっていい。

しかし、憲法で保障された平和的生存権を守るために国民はさまざまな場を通して主張する権利と自由がある。相互監視、密告社会の再来を食い止め、島々を絶対に戦場にさせないために、岩田発言の重大性を見抜き、声を上げなければならないだろう。

※なお、本稿で紹介した国士隊の詳細や「県民総スパイ視」の事例について,当会発起人の三上智恵著「証言 沖縄スパイ戦史」(2020年)に詳しく掲載されています。巻末には、筆者・瀬戸隆博と著者の共同でまとめた住民対策に関する日本軍の複数の教令についての詳しい資料もありますので,是非ご参照ください。

文責:瀬戸隆博(ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 呼びかけ人)

 

1 2
ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

「ノーモア沖縄戦の会」は「沖縄の島々がふたたび戦場になることに反対する」一点で結集する県民運動の会です。県民の命、未来の子どもたちの命を守る思いに保守や革新の立場の違いはありません。政治信条や政党支持の垣根を越えて県民の幅広い結集を呼び掛けます。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ