旧統一教会被害者救済法、「ザル法」に賛成した立憲民主の党内事情
政治旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)をめぐる「被害者救済法案」が2022年12月10日に成立し、2023年1月5日に施行された。これに反対声明を出したのがれいわ新選組で、彼らは前日の代表選関連の会見で、その理由を説明した。
まず山本太郎代表が「公害や薬害と同じように国の不作為によって拡大した被害は、国によって救済されるしかない」と切り出すと、反対声明をまとめた大石晃子政策審議会長が、こう続けた。
「原因者(自民党と旧統一教会)が負担をして謝罪・再発防止をしていくのが基本だと思うが、国会では原因者と一緒に『救済しています』というような法案を作ること自体が問題。なにか〝騙し絵〟のような状況、『ないよりかましか』みたいな(新法賛成の)方に与するのではなくて、大きな原因を差し示し解決の道筋を示す。今回の声明はそういうつもりで書いた」。
れいわの声明は、過去の被害者が対象外になっている救済新法の〝穴〟を埋めるべく、最大の原因者である自民党と旧統一教会が拠出金を出して被害者救済(賠償)基金等の枠組みを作ることを提案していた。
今後発生する被害への対応についても「あまりに限定的」と救済新法を問題視。被害者救済に長年取り組んできた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)と同じ立場をとったともいえる。
新法成立直後の会見で全国弁連は「ないよりましという程度のものであって、これで救済の幅が広がったとは到底言えない」(山口広代表世話人)と否定的評価をしていたからだ。
結局、新法は賛成の与野党4党(自民・公明・立民・維新)が「やっている感」演出をする〝騙し絵〟的決着(共産・れいわは反対)となったわけだが、れいわの櫛渕万里衆院議員は先の会見の最後で、臨時国会で「特別調査委員会を作れ」と訴えてきたのに実現しなかったことを問題視した。
先の声明には、特別委設置について「加害の根絶のために、政治家と旧統一教会との癒着を徹底調査する。真相はまだまだ明るみになっていない。膿を出し切ることが必要」と書いてあったのだ。
まさに正論だ。全政党が参加可能な特別委で教団票差配をしてきた安倍晋三元首相らの徹底調査をしようという提案だったが、実際は与野党4党の〝密室談合〟でザル法が産み落とされ、臨時国会は延長なしで閉幕してしまったのだ。
しかし立民の泉健太代表には、お粗末すぎる法律に賛成したことへの罪悪感は皆無だった。12月10日の維新幹部(代表と幹事長)との面談後、会見で私が「韓国教団への国富流出を防げないような法律がなぜ成果になるのか。与野党四党の枠組みが準大政翼賛会的な談合決着になったのではないか。なぜ共産・社民・れいわを入れた国会(特別委)で法案を詰めなかったのか」と聞くと、次のように答えたのだ。
「頑なで、それ以上やろうとしない与党にどういうフックをかけて今後も協議していくのかを考えた時に、どんな方法が一番良いのかということで判断。われわれなりには最善を尽くしてやってきた結果だ。(少数野党除外について)国会で4党協議を決めたので、そういう意見等々は国対(委員長)間を通じて届いていると思う」。
こう反論した泉代表だが、「統一地方選の前哨戦」と位置づけられていた茨城県議選(12月11日投開票)の応援演説で大嘘をついたことにも無自覚としか見えなかった。同月2日に筑西市入りをして、現職候補の出陣式で次のように訴えていたのだ。
「岸田さん、茂木さん(自民幹事長)がどれだけ譲ったのかではない。被害当事者が救われる法案なのかが一番です。被害者に寄り添って賛否を判断していきたい。どの党が賛成する反対するのではなくて、困っている方々に寄り添って戦い抜いていきたい」。
茨城県は自民県議が7割(44議席)を占める保守王国だが、旧統一教会問題による逆風と地元(茨城3区)の葉梨康弘・前法務大臣更迭が重なって自民党の議席減が懸念されていた。
2022年11月28日付の読売新聞が「党幹部は『40議席を割れば、政権運営に影響を与えかねない』と危機感を見せた」と報じたように、裏返していえば、野党に追い風が吹いて議席増となる可能性が十分にあった。4月の統一地方選を占う前哨戦と各党が位置づけ、公明党の山口那津男代表をはじめ与野党幹部が茨城入りしていたのはこのためだ。
しかし国会最終盤の翌週、立民は被害者救済の立場をあっさり放棄し、与野党4党でザル法に賛成してしまった。茨城での泉代表発言とは真逆の〝密室談合決着〟をして被害者救済の立場を放棄、自民党の茂木敏充幹事長が譲って維新が賛成に回ったため、立民は足並みをそろえたとしか見えないのだ。主導したのは維新「共闘(連携)」推進派の安住淳国対委員長と見られる。
同年12月6日には茂木幹事長と立民の岡田克也幹事長が会談「十分な」の文言追加で折り合うと、安住氏は翌7日、「『十分な』を入れることで(立民の)対応は大きく前進する」と国会内で語り、この追加修正を与党側が受け入れれば、賛成する考えを滲ませた。
しかし全国弁連の川井康雄事務局長は、安住氏絶賛の〝切り札的文言〟である「十分な」について、「(入っても入らなくても)さほど差は生じない」と否定的評価を示した。法案の実効性の低さを指摘したうえで、献金をする際の「配慮義務」を「禁止行為」にするように同日の参考人質疑で訴えていたのだ。
「配慮義務というだけでは、実際に違反した場合にどうなのかというと、裁判所で不法行為と判断されるかどうかは、正直言って、極めて不透明と言わざるをえない。配慮義務だけでは、ほとんど役に立たない」(川井氏)。
・なぜ立民は腰砕けとなったのか
紙の爆弾2023年1月号でも紹介した通り、それまで立民は国対ヒアリング(旧・野党合同ヒアリング)に旧統一教会の被害者や全国弁連の弁護士を招いて意見を聞き、同じ〝被害者救済目線〟で政府案の実効性を厳しくチェックしてきた。
しかし12月10日に会期末を控えた最後の週(5日〜)になって立民は豹変、〝被害者救済目線〟を放棄してザル法賛成に方針変更した。
9日の定例会見で「茨城県民に対して嘘をついたのに等しいのでは」と聞くと、泉代表はこう反論した。「全国弁連と思いは一緒」「国会という交渉の場でどれだけのものを勝ち取れるのか最大限努力をしてきた」。しかし全国弁連は、先に述べたように国会審議(参考人質疑)でも新法成立直後の会見でも実効性に疑問をつけていた。
立民はなぜ臨時国会の最終盤で初志貫徹できずに腰砕け状態に陥ったのか。その答えになる党内事情を紹介したのが、12月7日付の朝日新聞。「立憲『共闘』意識 賛成に傾く」という見出しの後、維新との共闘を重視したことが理由と指摘した。
「被害救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会が修正案の効果に疑問を呈していることなどを背景に、立憲の西村智奈美代表代行は6日の党会合で『被害者の救済に資する行動を取るべきだ』と言い、対峙を続けるべきだとの声もある。
それでも立憲は、維新と異なる対応を取るのは得策ではないとの判断に傾いている。立憲内には今国会の『共闘』を成果として、来年の通常国会でも継続させようとの思惑があり、幹部は『注目法案で維新との対決姿勢が異なると、積み上げてきた関係が崩れてしまう』と話す」。
最後の幹部コメントと茨城での泉代表発言を並べると、立民の驚くべき党内力学が露わになる。〝維新共闘派〟の幹部の意向に沿って、法案内容(政策)よりも党利党略を優先する意思決定がまかり通ったように見えるからだ。
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。