自公野合「軍拡政策」とバーター、創価学会・公明党 救済新法“骨抜き”の重いツケ
政治・公明党が失ったもの
しかし、目先のカネを優先するあまり、創価学会そして公明党が失ったものも決して小さくないのではないか。
新法の成立と時を同じくして岸田政権は敵基地攻撃能力の保有と防衛費のGDP(国民総生産)比2%への拡大を増税で行なうとの、戦後の安全保障政策の大転換をにわかに持ち出してきた。多分にガス抜きないし国民有権者に対するパフォーマンスのきらいはあるものの、この増税を伴う税制改正には自民党内からも多くの反対の声があがった。
ところが「平和の党」「福祉の党」「生活者の党」を標榜する公明党から反対の声は全くあがらず、自民党に先駆けて敵基地攻撃能力の保有と防衛費の増額を増税で賄うことに同意する始末。そして創価学会もまた、これに異を唱えることはない。
「救済新法の骨抜きと敵基地攻撃能力の保有と防衛費の増税による増額への賛成は、バーターと見て間違いない。公明党は自らを平和の党・福祉の党と宣伝してきた。また庶民の生活を守る党だとも主張してきた。にもかかわらず国民が円安に伴う物価高や低賃金に喘いでいるなかで、国民の生活や福祉を犠牲にして防衛費に回すことに賛成するとは、もはや存在意義を失っている。軍事費を削って福祉予算や国民生活に回せと主張するのが本来の公明党のあり方なのではないか。平和と福祉をかなぐり捨てた公明党そして創価学会には、今後、大きなしっぺ返しがくる」(元公明党国会議員)。
すでにその予兆は見えている。4月の統一地方選の前哨戦ともいえる昨年12月11日投開票の茨城県議選では、自民党の現職10人が落選するという逆風が吹いた。公明党は原田稔会長が茨城入りするなどの必死の選挙戦の結果、現有4議席(1人は無投票)を維持したが、その得票数を見ると県庁所在地の水戸選挙区の候補が前回比で3507票と大幅に票を減らしている。また日立選挙区でもマイナス1,568票と減らしており、水戸選挙区での減少率は、実に21%にも上る。
同様に11月20日投開票の鳥取市議選でも、公明党は現有5議席を守ったが得票数は2,417票のマイナスで、減少率は19%。同じく11月20日投開票の千葉県松戸市議選でも、公明党は現有10議席を維持したが、得票数は3,505票のマイナスであり、減少率は13%となる。
自公政権そして自民・公明両党への有権者の厳しい目線は強くなることはあっても、改善する要素は見当たらない。その意味では来たる統一地方選挙は、自民党はもとより公明党にとっても極めて厳しい選挙となることが予想される。
そして政権支持率が低迷する岸田首相は、5月の広島サミットを花道に政権を投げ出すとの観測もあり、そうなると政局は混迷し、場合によっては衆議院の解散総選挙もなきにしもあらず。統一地方選同様、公明党は厳しい戦いを強いられることとなる。
仮に茨城県議選水戸選挙区や鳥取市議選の減少率約20%を、昨年7月の参院選の公明党比例区票618万票にかけると495万票となる。机上の計算と実際は異なるかもしれないが、2005年の898万票をピークに右肩下がりを続ける公明党の比例区票が上積みされる可能性はなく、むしろ新法とのバーターで防衛増税を認めたことで、「平和の党」「福祉の党」の信頼を失った公明党の比例区票は予想以上に減少する可能性が高い。
そしてそれはそのまま創価学会の凋落を意味する。
・創価学会会長後継人事の行方
そんな前途多難が予想される2023年を創価学会は、「青年・凱歌の年」とし、創価学会本部・大誓堂完成から10年の節目であることから、「大誓堂完成10周年を、広布拡大の凱歌で飾ろう!」をスローガンとして、統一地方選の勝利を檄している。また11月には、原田会長の会長任期が切れることから、後継人事も注目されている。
2006年の就任以来、すでに在任17年となる原田会長は、現在81歳で任期満了時には82歳となる。昨年11月18日の創価学会創立記念日を前に、永田町では健康状態の悪化を理由に原田会長交代説が流れた。
会長交代となった場合に次期会長候補として挙げられるのは、池田大作名誉会長の長男である池田博正主任副会長。前掲の聖教新聞座談会記事にも登場していた谷川佳樹主任副会長。聖教新聞社の代表理事を兼務する萩本直樹主任副会長。そして原田会長の長男でもある原田星一郎教学部長など。
このうち池田博正氏は現在69歳。昨年秋に原田会長の交代説が流れた際、池田家への〝大政奉還〟があるのではと取りざたされた。だが会務や活動歴があるわけでもなく、いわばお飾りのボンボンで、しかも11月には70歳となっている池田2世の会長就任は考えにくい。ただし、原田会長が大政奉還を考えている場合には、可能性がないとはいえない。
むしろ以前から原田会長の後継候補最有力とされていたのが65歳の谷川主任副会長。創価学園から東大、三菱商事を経て本部職員となり、男子部長・青年部長や総東京長、そして学会本部の事務総長なども歴任した谷川氏のキャリアは原田会長と遜色がない。しかし谷川氏は、造反した矢野絢也元公明党委員長との一連の訴訟の過程で矢野氏を脅迫したと東京地裁で認定されており、公益法人の会長としてふさわしくないとの見方が根強い。
原田会長の東大の後輩で、北条浩四代会長の女婿である萩本直樹主任副会長は、実直な宗教官僚として原田会長の信任も厚い。彼は池田2世と同年の69歳。決して若くはないが、82歳となる原田会長からすれば10年以上若返ることになり、その可能性は否定できない。
そして最後は原田会長の長男である原田星一郎教学部長。昨年6月に宗教団体の教義を担当する教学部の責任者に就任した。創価幼稚園の1期生で、創価学園を経て東大に進学。東大在学中は「学陣会」なる人材育成機関のメンバーとして池田名誉会長の身の回りの手伝い等にも携わった。
学会本部に就職後は主として聖教新聞に配属され、日蓮正宗との対立が激化した際には、その攻撃を担当する「特別企画室」に所属。東京男子部長・港総区長を経て教学部長に就任したが、キャリア的にはいま一つ。しかし年齢が50歳と若いことは世代交代のうえでセールスポイントだ。父親である原田会長が続投した場合、原田2世は有力な候補となる。ただ、池田名誉会長が世襲しなかっただけに、この世襲には強い反発が予想される。
原田会長が続投するにせよ、交代するにせよ創価学会には厳しい前途が待っている。特に、旧統一教会の高額献金を規制する新法こそ〝骨抜き〟に成功したが、政治と宗教の不正常な関係の是正は手つかずで、国民世論の関心は高く、新法審議中の昨年11月から週刊新潮と週刊文春が、創価学会問題を相次いで採り上げたのはそうした世論の先蹤(せんしょう)と見ることもできる。
ちなみに両誌の見出しは「『高額献金』規制すべきは『統一教会』だけでいいのか」(新潮11月24日号)、「統一教会新法を骨抜きにした創価学会のカネと権力」(文春12月1日号)、「創価学会が恐れるオウム以来の危機」(同12月8日号)などである。
ここにあるように、いま創価学会は宗教法人法改正が取りざたされ、池田大作国会喚問が俎上にあがった1995年から97年頃をピークとする厳しい創価学会批判の危機以来の局面を迎えている。
この1990年代の危機の時、創価学会は自民党に丸ごと抱きつき、自公連立政権を樹立することで存続を果たした。そして2度目の危機となる今回も、創価学会は自民党の軍拡路線を丸呑みすることで延命を図ろうとしている。
だが、果たしてこの二番煎じ路線は成功するのだろうか。かのカール・マルクスは『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』において、こう書いた。「歴史は2度繰り返す。1度目は悲劇として、2度目は喜劇として」と。
(月刊「紙の爆弾」2023年2月号より)
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ジャーナリスト。世界の宗教に精通し、政治とカルト問題にも踏み込む。