NATOの戦略混迷に比例した破局への接近(2)―新たな戦争エスカレーションに向かうバイデン政権の妄動―
国際米露直接対決を招きかねない「ウクライナ優位」の願望
そもそもウクライナ軍が「攻撃」しようが、クリミアの奪還など絵空事だ。
前出の「POLITICO」の2023年2月1日付の記事によると、同年1月26日に開かれた下院軍事委員会の議員に対する「機密ブリーフィング」で、ローラ・クーパー国防次官補代理、統合参謀本部作戦部長のダグラス・シムズ中将ら高官4人から「ウクライナ軍が近い将来、ロシア軍からクリミアを奪還できる可能性は低い」、「ロシア軍を追い出す能力を有していない」との説明があったとされる(注13)。
マーク・ミリー統合参謀本部議長も、同年1月20日にドイツのラムシュタイン米空軍基地で開催されたNATOのウクライナ支援を巡る国防相会議で、クリミアどころか「軍事的な観点から言えば、今年中にロシア占領下のウクライナの隅々までロシア軍を追い出すのは非常に難しい」(注14)との見通しを示した。
こうした認識は、現在のドネツク北部のバフムートをめぐる攻防戦をみるまでもなく、ロシア・ウクライナ両軍の力関係を考えれば当然であろう。最初から「今後の交渉でキエフの立場を強化」などという展望は、幻想にすぎない。それでもなぜバイデン政権はGLSDB供与を始め、予測されるF‐16供与等の人類にとって危険極まる戦争のエスカレーションを修正する気配がないのか。
イスラエルのナフタリ・ベネット前首相は同年2月4日、自身のYouTubeチャンネルに投稿したインタビューで、ロシアとウクライナの戦争を終結させるための仲介を、米国と西側同盟諸国が初期の段階で「妨害」したと暴露した。
それによると、仲介によって「双方が大きな譲歩に応じたとされるが、最終的に欧米の指導者たちはベネット前首相の努力に反対し、ベネット前首相自身も西側諸国が調停努力を『妨害』したのかと問われ……『基本的にはそうだ。彼らはブロックした。そして私は彼らが間違っていると思った』」と答えている(注15)。
トルコのイスタンブールを舞台にした停戦交渉でも2022年年3月に両国の歩み寄りが実現しかけたが、キエフに乗り込んでまで交渉を「妨害」したのが英国のボリス・ジョンソン元首相であったのは記憶に新しい。
このように何よりも早急に求められているはずの停戦を拒否し、ひたすら戦争を継続させようとする一方で、米国が「今後の交渉」を排除していないのは、兵器の支援を追加して何とかウクライナを優勢に立たせ、軍事的な「立場を強化」しようと意図しているからとしか考えられない。
だが予測される将来も、米軍のトップも認めているように、そのような意図の達成が「非常に難しい」のは歴然としている。それでも「優勢」に固執し、兵器供給によって達成しようとすればするだけ、最終的にバイデン政権の「第三次世界大戦を防ぐ」という「約束」の「否定」につながる危険性が増していく。このジレンマに、米国はどこまで気付いているのか。
(この項続く)
(注1)January 30, 2023「Biden seemingly rejects request to send U.S. F-16s to Ukraine」(URL:https://www.politico.com/news/2023/01/30/biden-f-16s-ukraine-00080276).
(注2)January 31, 2023「US and UK rule out sending fighter jets to Ukraine」(URL:https://www.theguardian.com/world/2023/jan/31/us-will-not-supply-f-16-fighter-jets-to-ukraine-says-joe-biden).
(注3)January 27, 2023「Ukraine Requests Two Squadrons Of F-16s But Giving ‘Vipers’ to Kyiv Is Easier Said Than Done Military Aviation」(URL:https://theaviationist.com/2023/01/27/ukraine-requests-two-squadrons-of-f-16s-but-giving-vipers-to-kyiv-is-easier-said-than-done/)。
(注4)(注2)と同。
(注5)January 31, 2023「US Prepares to Send Ukraine Longer-Range Rockets in Next Arms Package」(URL:https://news.antiwar.com/2023/01/31/us-prepares-to-send-ukraine-longer-range-rockets-in-next-arms-package/)
(注6)February 4, 2023「US sends long-range missiles to Ukraine」(URL:https://www.wsws.org/en/articles/2023/02/04/ypjw-f04.html).
(注7)November 3,2022「Biden: Direct conflict between NATO and Russia would be ‘World War III’」(URL:https://thehill.com/policy/international/597842-biden-direct-conflict-between-nato-and-russia-would-be-world-war-iii/).
(注8)February 3, 2023「Pentagon Press Secretary Brig. Gen. Pat Ryder Holds an On-Camera Press Briefing」(URL:https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/3288141/pentagon-press-secretary-brig-gen-pat-ryder-holds-an-on-camera-press-briefing/)
(注9)January 18, 2023「US Warms to Helping Ukraine Target Crimea」 (URL:https://www.nytimes.com/2023/01/18/us/politics/ukraine-crimea-military.html).
(注10)July 18, 2022「Russia’s Medvedev: Attack on Crimea will ignite ‘Judgement Day’ response」(URL:https://www.reuters.com/world/europe/medvedev-wests-refusal-recognise-crimea-russian-is-threat-2022-07-17/).
(注11)February 2, 2023「THE CASE FOR CAUTION ON CRIMEA FEBRUARY」(URL:https://warontherocks.com/2023/02/the-case-for-caution-on-crimea/).
(注12)(注9)と同。
(注13)February 1, 2023「Ukraine can’t retake Crimea soon, Pentagon tells lawmakers in classified briefing」(URL:https://www.politico.com/news/2023/02/01/ukraine-crimea-russia-pentagon-00080799).
(注14)January 21, 2023「US General Mark Milley warns it will be ‘very difficult’ to eject Russian President Vladimir Putin’s forces from war-torn Ukraine in 2023」(URL:https://www.skynews.com.au/world-news/us-general-mark-milley-warns-it-will-be-very-difficult-to-eject-russian-president-vladimir-putins-forces-from-wartorn-ukraine-in-2023/news-story/b48c4929e31e593f5cac20ca7fe1feb2).
(注15)February 5, 2023「Former Israeli PM Bennett says U.S. ‘blocked’ his attempts at a Russia-Ukraine peace deal」(URL:https://mronline.org/2023/02/07/former-israeli-pm-bennett-says-u-s-blocked-his-attempts-at-a-russia-ukraine-peace-deal/).
〇ISF主催トーク茶話会③(2022年2月26日):鳥越俊太郎さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。
https://isfweb.org/recommended/page-4879/
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1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。