【連載】鑑定漂流ーDNA型鑑定独占は冤罪の罠ー(梶山天)

第12回 足利事件など自白させられた3事件の調べを警察、検察が録音

梶山天

足利事件の捜査本部は、宇都宮地検が足利事件で菅家さんを起訴する前日の91年12月20日に、わずか35分の取り調べで2件の未解決事件を自供させた。その直後の警察官の取り調べのうち、福島万弥ちゃん事件の取り調べを録音したカセットテープの内容を一部紹介する。

取り調べは、足利署刑事課の第6取調室で午後1時20分から始まった。取調官は、栃木県警本部機動捜査隊の芳村武夫警視と同本部捜査第1課の橋本文夫警部、録音担当が同捜査一課の茂串清警部補。いずれもかつての同僚の結婚披露宴に出るため出頭を嫌がる菅家さんに暴行を加え、無理やり任意同行させて真実ちゃん殺害を自供させたメンバーだった。

 

芳村:「な、ところで、あのー、万弥ちゃんの事件な、もう一回、あれ、しなくちゃなんないけど、万弥ちゃん事件について、えー、質問するからさ。まず、万弥ちゃん事件に対しては、ほんとに、どういったことなんだ」。
菅家:「ほんとに……(涙声で)申し訳ないと」。
芳村:「申し訳ないと言う事は」。
菅家:「はい」。
芳村:「自分でそういう事をして申し訳なかったと」。
菅家:「はい。(小声)」。
芳村:「私が万弥ちゃんの犯人なんだと。言う事で、詫びたいと言う事なんか、うん」。
菅家:「(泣いている)」。
橋本:「菅家、泣いてねぇでさ」。
菅家:「はい。そうです。(泣き声、小声)」。

芳村:「万弥ちゃんを最初に、その、連れ出したとこは、どこなんだ」。
菅家:「はじめは、あのー、神社ですか」。
橋本:「神社っつのはどこにある神社だ、何町にあるんだい」。
菅家:「あそこはー……四丁目ですか……」。
橋本:「四丁目」。
菅家:「はい」。
橋本:「ふーん。四丁目の神社か。名前は忘れちったんか、神社は」。
菅家:「名前ちょっと、忘れました」。

芳村:「季節はいつ頃なんだい。だいたい」。
菅家:(沈黙・5秒)
芳村:「季節っつのは、わかっか」。
菅家:「わかります」。
橋本:「春、夏、秋、冬でよ」。
菅家:「はい」。
橋本:「いつ頃だっつんだよ。春とか、夏とか、秋とか、冬っつうと」。
菅家:(沈黙・7秒)
橋本:「寒い頃だとか、暑い頃だとか、あるいは、何も出てこねんか、涼しいとか」。
菅家:「はー。(息を吐く音。沈黙約5秒)冬の、冬の終わりか……あの、春……春ごろと思うんですけど」。

橋本:「冬の終わりか、春頃。で、時間は何時頃だい、万弥ちゃんを連れ出したのはよ」。
菅家:「……(沈黙・約5秒)」。
(中略)
橋本:「家に飯食いに来てたんか。あのー、勤務時間中か、普通の日でも」。
菅家:「はい、あのーお昼ですか、食いに来まして」。
橋本:「うん」。
菅家:「それで……(沈黙・3秒)」。
橋本:「それじゃー、なんだ、お昼を食いに来たときなんか。それとも、ぜんぜんもー、仕事が1日終わっちゃって……夕方5時だか、5時半頃になった、どっちなんだい」。
菅家:「終わった頃だと思います」。
橋本:「終わった頃?」
菅家:「あの、1日ですか」。
橋本:「うん、それは、覚えてんか。ちゃんと」。
菅家:「……(小声)」。
橋本:「真実ちゃん(注・万弥ちゃんの間違い)を連れて行くんだんべ」。
菅家:「はい」。
(中略)
橋本:「そうすっと、神社のところから連れ出したんべ神社のとこ、遊んでたんか」。
菅家:「はい。(小声)」。
橋本:「真実ちゃん(注・万弥ちゃんの間違い)は。うん」。
芳村:「万弥ちゃんだよ」。
橋本:「万弥ちゃんよ。遊んでいた真実ちゃん、万弥ちゃん、あのー、見つけて何か言ったんか。菅家が言葉を掛けたんか何か、向こうが掛けたんか」。
菅家:「えっとー、自分が」。
橋本:「うん、菅家が」。
(中略)
橋本:「万弥ちゃんに、何しているのと声を掛けたと。それで、どうやって連れて行ったんだ。抱いて連れて行ったんか」。
菅家:「いえ」。
(中略)
橋本:「そうすっと、この万弥ちゃんごと、軽四輪に乗せてったんか。連れてったんか。自転車か、歩いて連れて行ったんか、どうやって連れて行ったんだ。連れてくって、手を引いてかなんで、わかんね。それは覚えてるんだろ」。
菅家:「んー、その時は車は使ってません」。
橋本:「車は使ってない。すと、車使っていないっつー言う事は、歩きか、自転車か、バイクか」。
菅家:「そん時は、あの、自転車です。(小声)」。
橋本:「自転車。うん。すと、自転車に乗せてったのか、それとも自転車置きっぱなしか」。
菅家:「自転車は、あの……じん、じん、神社の……」。
橋本:「うん」。
菅家:「んー……、中、中ですか」。
橋本:「うん、神社の中に自転車を置いたんか」。
菅家:「はい」。
橋本:「そんで、そのー、万弥ちゃんをどうやって連れて行ったんだい」。
菅家:「で……神社の中に入りまして」。

 

上記で紹介した録音内容は、警察が福島万弥ちゃん殺害の虚偽自白を菅家さんに強要していることを示す物証だ。万弥ちゃんに話しかけて自転車に乗せて神社まで行ったことを供述している。

この録音内容を分析した足利弁護団の佐藤博史弁護士は、取り調べの内容をこう指摘している。

足利事件の犯人として逮捕した菅家利和さんの取り調べのなかで、以前起きた2件の未解決事件(女児殺害事件)の調べを行っていた時の様子を警察、検察が録音した内容をテープ起こしした足利事件弁護団の佐藤博史弁護士。

 

菅家氏は客観的な事件の場所を供述しようとしているだけなのに、取調官がそれに全く気付いていない。しかも万弥ちゃんの失踪は、1979年8月3日の夏の盛りの時期であって菅家氏が供述する「冬の終わりか、春」では絶対にない。無実の者の「無知の暴露」がなされたのに、取調官は、気にも留めないで、そそくさと質問を「時間」に移す。

事件当日は金曜日という平日で、菅家氏は保育園の勤務についていた。そこで、菅家氏が足利市内の神社の付近で万弥ちゃんを発見し、約2㌔離れた死体発見現場に死体を遺棄するためには、勤務終了後しか犯行可能な時間帯はない。そこで、菅家氏は勤務終了後と自白した。

しかし、それでは、事件当日の夕刻以降神社付近は、万弥ちゃんを捜す家族や近所の人がいたことと決定的に矛盾する。そこで、取調官は、犯行は昼休みだったのでないかと確認するが、菅家氏は、結局、勤務終了後と供述し続けた。ここにも「無知の暴露」がある。しかし、これも取調官は見逃し、犯行時間も「いいよ」と言って、次の質問に移った。

 

連載「鑑定漂流-DNA型鑑定独占は冤罪の罠-」(毎週火曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】鑑定漂流ーdna型鑑定独占は冤罪の罠ー(/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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