第23回 東京大地塾①:ウクライナ戦争で西側追随の岸田文雄首相を佐藤優氏と鈴木宗男参議院議員が批判―勇ましい言説跋扈の『新しい戦前』にも警告―(2023年1月25日)
政治鈴木氏と佐藤氏の主張は侵攻直後から一貫していた。去年3月23日の大地塾でも佐藤氏は「ロシアが間違っていることをしているのは自明」と指摘する一方、アメリカの対応にも疑問を投げかけていた。
「私は今のアメリカに戦略があるとは思えない。この戦争をできるだけ長引かせて、ロシア人が残虐なことをするのを示すことによって、ロシアの立ち位置を弱くする。それ以上の戦略はないと思う」(佐藤氏)。
今でもアメリカなど西側諸国は、ウクライナへの兵器提供で戦争を長期化させる対応を続けているが、両氏は早期停戦のために日本が仲介役の役割を果たすべきと主張。と同時に、「ウクライナ侵攻で台湾有事の可能性が高まった。日本はアメリカと共に中国と戦えるように防衛力強化をすべき」という危険な言説に対して警告も発していたのだ。
佐藤氏はこんな呼びかけもした。「戦後、与党も野党も平和が共通の土俵だったが、急速に崩れて与野党共に勇ましくなりすぎている。これを変えないといけない。そのためには、我々一人一人が微力かも知れないが、無力ではない。一歩一歩平和の方に向けて歩みを進めないといけない。平和のために戦うことだ」。
タレントのタモリ氏が「新しい戦前」と発言したように、勇ましい好戦論が大手を振って歩き始めた日本の状況はまさに第二次大戦前とよく似ているが、そんな大政翼賛会的な流れに抗すべく両氏は異議申立をしているように見えるのだ。
ただ違和感を抱いたのは、公明党と維新に期待していたことだ。2022年12月15日に参院議員会館で開かれた「防衛力の抜本的強化を求める緊急集会」に公明党と維新も参加、賛同の挨拶をしていたからだ。主催者代表の櫻井よし子氏と、日本会議国会議員懇談会会長の古屋圭司衆院議員(自民党)に続いて各党幹部が次々と挨拶。その中には、公明党の佐藤茂樹衆院議員と維新の馬場伸幸代表もいたのだ。そこで質疑応答で私は次のような質問をした。
――アングロサクソンの少数派(アメリカなど西側諸国)に日本がついてしまっていることの一つが今回の安保三文書、防衛費倍増・敵基地攻撃能力保有ではないかと思うが、そのへんの考えを聞きたいのと、2022年12月15日の軍拡集会に、自民党はもちろん公明党も維新も加わっているが、こういう中でその状況をどう変えていけばいいのか。
佐藤氏:安保三文書の評価は、私と横田さんで違う可能性があると思うが、同時にもう一つ注目しないといけないのは、フランスの「フィガロ(日刊紙)」に(歴史学者の)エマニュエル・トッドさんの論考が出て、スペインとかロシアでも報道されて大きな話題になった。
要するにフィガロに「トッドというのはフランスでは変わり者と見られている。一種の破壊者と見られているが、日本ではトッドが受け入れられている。しかも『第三次世界大戦はもう始まっている』という衝撃的なタイトルの本が10万部以上、売れている」というふうに出ていた。これが横田さんに対する一つの回答になっていると思う。
政治エリートは表面上、「日米同盟を重視してアングロサクソンと一緒にやっていこう」と言っているのだが、体が政治エリートの言う通りに動いていない。なぜあんな文書(安保三文書)を作っているのに、殺傷能力のある兵器を一つもウクライナに送らないのか。
なぜ(ロシアの)海産物の輸入を日本は止めないのか。このちぐはぐな状態が出ていることがこの国の底流、民意、我々の集合的無意識ではないかと私は思っている。その集合的無意識から大きく乖離したところでは政治は動けない。
だから勇ましいスローガンのいろいろな講演会とかに、いろいろな人達が義理で参加するのだが、それと同じ考え方を持っているのかと言ったら、そうではない。そこの構図が面白いところだと思う。
そうすると、メデイアの課題は何かと言うと、特に横田さんがウクライナ戦争の中でも初動の時期から日本全体がウクライナの戦争を支持しようと言った時に、「いや、私は違う」と言うのではなくて、それと違う見解を、例えば、「鈴木宗男が言っていた」「佐藤優が言っている」ということを丁寧に紹介してくれた。横田さんの発信のところから多様性が出てきたわけだ。
そういう多様性を担保したメデイアが個人のところであって、そのネットワークがかつてないくらいの影響力を持つようになった。そうすると、先ほど私はインターネットについてネガテイブな側面があって重視していないと言ったが、これはインターネットがなければできなかったポジテイブな側面だ。
そういったことを総合的に考えてみると、まだまだ、この日本の民意と、民意に拘束されている政治エリートも捨てたものではない要素がある。だから、その中の『殺傷兵器をウクライナに提供しない』という部分もきちんと伸ばしていく。でも今、率直に言うと、不安がある。勢いに流されて一線を踏み越えて行って、非常に心配と感じている。
私の違和感に対する佐藤氏の回答は、櫻井氏ら主催の“軍拡緊急集会”に公明党と維新が参加したのは義理にすぎず、同じ考え方を持っているわけではないというものだった。とすれば、西側諸国と足並みをそろえる岸田政権に対して異論を唱える可能性は十分にある。今後、両党の国会議員(特に維新の鈴木宗男参院議員)の言動が注目される。
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1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。