【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

改めて検証するウクライナ問題の本質:Ⅳ 忘れられたドンバスの苦悩(その1)

成澤宗男

本格的侵攻の予兆

いずれにせよ2014年2月のクーデター以降、DPRとLPRの非戦闘員が絶え間のないウクライナの攻撃で犠牲を強いられてきたと考えられる。さらにロシアのイタルタス通信によれば、2月24日の開戦前日の段階で「ドネツクとルガンスクの9万6000人以上の避難民がロシアに到着し」、「ロシア国内12地域、230カ所の一時滞在所が開設した」(注6)とされる。

問題は2月16日以降のウクライナ軍の攻勢が、単なる一過性のものではなかった可能性がある点だ。この攻勢をDPRとLPRはすでに1月半ばから予測していたが、のみならずウクライナ軍による全面侵攻も警戒していた。以下は、DPRの「民兵部隊」(People’s Militia)の広報官が1月24日に発表した内容だ。

「『民兵部隊』は、ウクライナ軍がドンバス内で攻撃準備しているのを把握した。ウクライナ軍司令部はUR‐77地雷除去車を停戦ラインに運び、戦闘車両が攻撃準備をしている。すべての兵員の休暇は取り消され、現在の一時的な持ち場で待機するよう命令が下された」(注7)。

さらに1月28日になると、発表内容はより詳しくなる。

「ウクライナ参謀本部は米国の顧問団の指示により、ドンバスへの攻撃計画を完成間近にしている。両共和国への侵攻開始時期は攻撃部隊の編制が完了し、ウクライナ国家安全保障・国防会議が作戦計画を承認して以降になるだろう」。

「ウクライナ軍の東部における増強が進行中だ。ウクライナ軍の司令部は、3つの追加された旅団を紛争地帯に輸送する計画を立てている。それらは第72機械化旅団と第10山岳強襲旅団、第80空挺強襲旅団であり、いずれも陸軍内では最も戦闘準備が整い、攻撃が可能であると見なされている」。

「これらの旅団の集結は、ウクライナの国有鉄道がウクライナ国防省から3つの旅団の武器や軍事装備、人員を(東部に)輸送するため、2月3日から10日までにプラットホームと貨車を備えた列車を国内3つの貨物駅に送るよう指示を受けたことからも確認できる」(注8)
2月3日になってDPRは、ウクライナ軍の3分の2がドンバスの停戦ラインに沿って集結している」と発表。「総数は、ネオナチ民兵を除いて15万人に達するだろう」と予測していた(注9)。

A residential building damaged by artillery in the rebel-held town of Pervomaisk, Luhansk Oblast, Eastern Ukraine.

 

「秘密文書」は信用できないが

こうしたウクライナ軍の大規模集結は、2月16日以降激化したDPRとLPRへの攻撃と連動していたのはまず疑いない。そしてその攻撃が、3つの旅団を中心とした本格的な侵攻作戦の発動前に、非戦闘員の退去を促すための前哨戦であったのではないかと推測できる余地がある。
さらに、ロシアは、ウクライナ軍の「3月攻勢」を指示したとされる「秘密文書」があると主張している。ロシアのインテルファクス通信の3月9日の配信記事は、ロシア国防省の報道・情報部門の責任者であるイゴール・コナシェンコフの「ウクライナでの特殊作戦で、ウクライナの国家親衛隊司令部の秘密文書をロシア軍が入手した」とする以下の談話を伝えている。

「これら文書は、ウクライナが2022年3月にドンバスで、攻撃作戦を始めるためひそかに準備していたことを証明している。……これは(国家親衛隊が)ウクライナ陸軍旅団の一員として、統合兵力作戦における軍事的(特殊)任務を遂行するため、第4作戦旅団の戦術大隊群の準備を組織せよとの命令である」。

「この命令は国家親衛隊副司令官に、2022年2月7日から2月28日までの期間、ウクライナ陸軍第80独立航空旅団に所属する、国家親衛隊戦術大隊群の稼働チェックを実施するよう課している。親衛隊のこうしたチェックは、ドンバスでの統合兵力作戦の遂行を確かなものにするため、2月28日までに完了するものとされた」(注10)。

この「秘密文書」には1月22日の日付と、国家親衛隊(注11)の幹部らのサインが記してある。「秘密文書」の一部の写真をロシア国防省は公開しているが、オリジナルの活字版があるかどうか不明で、外部からの全文確認はできない。

しかもコナシェンコフの説明だけでは、ウクライナ軍による3月のドンバスへの攻勢計画があったことを立証しているとは言い難い。なぜなら、具体的にドンバスのどこの何の目標を、いつ、どのような作戦で攻略するのかという肝心の命令内容が不在だからだ。国家親衛隊は軍の主力ではないし、何らかの「準備」や「チェック」が指令されたとしても、即ドンバスへの「3月攻勢作戦」に結びつけるのは困難だろう。

だがそれでも、2月16日以降の異様な激しさのウクライナ軍による攻撃が、その準備状況から何らかの大規模攻勢を予測させるものであったのは疑いない。

(この稿続く)

(注1)February 18 ,2022「DONBASS – UKRAINE HEAVILY SHELLING DPR AND LPR, INJURING ONE CIVILIAN AND DAMAGING SEVERAL HOMES」(URL:https://www.donbass-insider.com/2022/02/18/donbass-ukraine-heavily-shelling-dpr-and-lpr-injuring-one-civilian-and-damaging-several-homes/
(注2)February 19 ,2022「DONBASS – DPR AND LPR LAUNCH EVACUATION OF CHILDREN, WOMEN AND ELDERLY AMID UKRAINIAN SHELLING」(URL:https://www.donbass-insider.com/2022/02/19/donbass-dpr-and-lpr-launch-evacuation-of-children-women-and-elderly-amid-ukrainian-shelling/
(注3)「News and press releases」(URL:https://www.osce.org/
(注4)「Conflict-related civilian casualties in Ukraine」(URL:https://ukraine.un.org/sites/default/files/2022-02/Conflictrelated%20civilian%20casualties%20as%20of%2031%20December%202021%20%28rev%

2027%20January%202022%29%20corr%20EN_0.pdf
(注5) 「Report on the human rights situation in Ukraine 16 November 2019 to 15 February 2020」(https://www.ohchr.org/sites/default/files/Documents/Countries/UA/29thReportUkraine_EN.pdf
(注6)February 23 ,2022「Over 96,000 Donbass residents crossed Russian border, says Acting Emergencies Minister」(URL: https://tass.com/society/1408769
(注7)January 24,2022「Kiev actively gearing up to resolve Donbass conflict through use of force, DPR says」(URL:https://tass.com/world/1392283?utm_source=google.com&utm_medium=organic&utm_campaign=google.com&utm_referrer=google.com
(注8)January 28、2022「UKRAINE – AMERICAN MERCENARIES TRAIN UKRAINIAN NEO-NAZIS TO PREPARE THEM TO FIGHT IN THE DONBASS」(URL:https://www.donbass-insider.com/2022/01/28/ukraine-american-mercenaries-train-ukrainian-neo-nazis-to-prepare-them-to-fight-in-donbass/
(注9)February 3, 2022 Rick Rozoff「Donetsk: Ukraine moves 150,000 troops, rocket launchers, NATO arms to Donbass front line」(URL:https://antibellum679354512.wordpress.com/2022/02/03/donetsk-ukraine-moves-150000-troops-rocket-launchers-nato-arms-to-donbass-front-line/
(注10)March 9,2022「Russian Defense Ministry says has documents regarding Ukraine’s preparations for military operation in Donbas in March」(URL:https://interfax.com/newsroom/top-stories/75988/
(注11)国家親衛隊は、軍ではなく内務省が管轄する武装組織。後述するように民兵を吸収した組織で、ネオナチが主導権を握っている。ドンバスの紛争では、軍以上に戦闘力を発揮した。

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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